人証調べ(証人尋問と本人尋問)

人証調べの実情

 当事者の主張の整理が終わり、請求を認めるかどうかの判断に必要な事実に争いがあって、証拠書類だけでは決まらないという状態になり、その時点で和解ができそうにないということになると、人証調べ(にんしょうしらべ)をすることになります。
 和解はできず判決を求めるという場合でも、事実関係にはほとんど争いがなく、その事実関係の評価、法的な解釈だけが実質的争点という場合は、人証調べなし(証人はもちろん、原告・被告も尋問しないで)判決ということもあります。過払い金請求訴訟はたいていそうなりますし、労働事件で私が最近経験したものでも、業務外犯罪で懲戒解雇となった労働者の懲戒解雇無効の判決(東京地裁2015年3月6日判決)、取締役解任で従業員の地位も否定された労働者(従業員兼取締役)の労働者の地位を確認する判決(東京地裁2015年12月17日判決)も、人証調べなしでの労働者勝訴判決でした。
 判決に至る場合は人証調べをすることの方が多いですが、人証調べをする場合でも、近年では、当事者はもちろん、証人についても、申請した側が陳述書を作成して事前に提出し、申請者側の「主尋問」の時間は短く限定され、1期日で全員の尋問を終了するということが多くなっています。
 昔は、主尋問で1期日、反対尋問は主尋問の調書ができてからで別に1期日とか2期日ということもよくありましたが、今ではそういうやり方は原発訴訟での専門家証人のような特別の場合以外はまず認められません(原発訴訟でさえ、その日に反対尋問をするようにいわれることがあります)。

人証の申請と陳述書の作成

 準備書面や証拠書類が大方出尽くし、主張整理の段階が終了するめどが立つと、裁判所から人証申請(にんしょうしんせい)の準備をするようにいわれます。
 人証申請は、証人や当事者本人の住所、氏名、呼び出しが必要か同行(どうこう)できる(当事者がその証人を裁判所に連れてこれる)か、尋問予定時間、尋問事項を書いた人証申請書を提出して行います(民事訴訟規則第106条、第107条)。
 ほとんどの場合、申請する証人は事前に証人尋問をすることの承諾を得て申請しますので、同行証人として申請されます。事実上同行できる場合でも、証人が勤務先との関係で(証言当日勤務を休むことの説明のために)裁判所の呼び出し状を送って欲しいという場合は、呼び出しとして申請しますが、裁判所にはそういうことを伝えます。ときには、証人が証人尋問を承諾してくれないけど申請するという、本来の意味での呼び出し証人の申請をすることもありますが、その場合、裁判所がその証人の証言の必要性を十分に認めていないと採用されない可能性が高くなります。また、敵性証人(てきせいしょうにん)をあえて呼び出しで証人申請することも、運動がらみの事件ではありますが、その場合は、採用された段階で相手方が申請して同行証人になるのが通常です。
 尋問予定時間は、申請側が行う主尋問の見込み時間を書きます。多くの場合、裁判所からもっと短くできないかと値切られます。
 尋問事項は、規則上は、できる限り個別的かつ具体的に記載することが求められています(民事訴訟規則第107条第2項)が、現実には、陳述書を作成して尋問事項レベルよりずっと詳しいことを書くことになるので、尋問事項の時点ではおおざっぱな記載であることがほとんどですし、それで困ることはありません。
 証人については、準備書面段階ですでに登場してキーポイントになっている人でない場合は、その証人の尋問が必要かどうかを裁判所が判断するために、先に陳述書を作成するようにいわれることもあります。

 人証調べをすることになると、自分が申請した証人と当事者本人の陳述書を作成することになります。陳述書は、基本的に本人が書くか弁護士が書くかということになります。本人は、多くの場合、何を書いたらいいかよくわからないといいますし、文章を書くのが苦手な人もいます。他方で、弁護士が書くと、裁判上の主張に合わせ、法律家の言葉で書くことになりがちで、裁判官からは準備書面を引き写したような陳述書は読む気がしないという意見がよくみられます。悩ましいところですが、私は、近年は、本人に書いてもらって、わかりにくいところやもっと詳しくしてほしいところを指摘したり、若干の修正(ありがちなパターンとしては主語・述語、そして一般の人が落としがちだけど裁判では重視される「いつ」などを補う)などをメールでやり取りして仕上げることが多いです。

人証の決定

 双方から人証申請がなされ、人証調べをすることになると、裁判所は、どの証人を採用するかと証人・当事者の尋問の順番、尋問時間を、当事者と協議して決定します。
 今どきは、よほどの大事件でなければ、尋問する証人・当事者は1期日で一気に尋問することになります。そうすると、午後いっぱいとっても概ね3時間か3時間半、午前・午後丸一日でも4時間半か5時間ですので、その範囲で収まるように人証の人数が絞られ、尋問時間が制約されることになります。当然、裁判所は、裁判所が尋問の必要があると考えた証人しか採用しません。多くの場合、主尋問は、陳述書で詳しく書いてもらって尋問時間はごく短くするように求められます。
 人証決定があると、それまでに陳述書を提出していない人証についての陳述書の提出期限、尋問で示す予定の証拠の提出期限が定められることが多いです。

尋問の際に示す書証

 尋問の際に使用する(証人や当事者本人に示す)文書については、人証決定の際に提出期限が定められることも多いですが、特に期限を定められない場合でも、「証人等の陳述の信用性を争うための証拠として使用するものを除き」、尋問を開始する時の相当期間前までに提出しなければならないとされています(民事訴訟規則第102条)。
 これまでに証拠として提出していなかったけれど、尋問の準備をする過程で新たに書証を発見したり、これを示した方がいいと思いつくことはよくあります。だから人証決定後に書証を追加提出すること自体は、かまわないと思います。しかし、それを尋問期日前に提出しないで、当日になって、それも主尋問が終わるまで隠しておいて反対尋問で初めて出すというような弁護士がいまだにいるのは残念なことです。そういうケースは、突然見せることで相手の動揺や混乱を誘って信用できないような印象を与えようというのが狙いなのだと思いますが、裁判官からルールを守らない卑怯な弁護士だと思われて逆効果になるのが関の山だと思います。

尋問の手順:主尋問、反対尋問、補充尋問

 申請した側が行う尋問を「主尋問(しゅじんもん)」、相手方が行う尋問を「反対尋問(はんたいじんもん)」といい、尋問はそれぞれの人証ごとに主尋問、反対尋問の順で行います。反対尋問後に再度申請側が尋問を行う場合「再主尋問」(さらに相手方が行うときは「再反対尋問」)、当事者の尋問後に裁判官が行う尋問を「補充尋問(ほじゅうじんもん)」といいます。
 主尋問は、予め陳述書を作成して提出し、しかも近年では尋問時間を厳しく制限されますので、当事者の主張の要点と特に裁判所に聞かせたいところをピックアップして確認するという作業になります。
 反対尋問は、主尋問で述べたことの信用性を疑わしく感じさせることが目的となります。もちろん、敵性証人に主尋問で述べたことの誤りを認めさせたり撤回させれば大勝利ではありますが、相手方が申請して連れてくる証人や相手方本人ですから、反対尋問で誤りを認めるということはほとんどありません。現実的には、答えに詰まらせるか、矛盾したことをいっていることを証言調書に残して後でその矛盾を指摘して証言に信用性がないことを主張するというあたりまでいければ上々というところです。
 日本の制度では、相手方が申請した証人とは尋問の当日に初めて会うというケースがほとんどですから、証人の証言内容は正確には予想できません。裁判での相手方の主張とその証人の陳述書を検討して証言をある程度予測し、ほかの証拠とにらみ合わせて、どこに矛盾があるかを予め検討して反対尋問に臨むということになります。
 再主尋問は、反対尋問で崩されたり、証人や当事者がうまく答えられなかったり、尋問の意図を間違って的外れの答えをしたりしたようなところを確認的に聞いて、穴を繕ったり誤解を解いたりします。基本的にはごく短時間で収め、必要がなければやりません。
 補充尋問は、裁判官が、当事者が聞かなかった点や証人や当事者の答えがはっきりしなかった点などを確認的に聞きます。この補充尋問には、裁判官の関心が表れるので、裁判官の心証を探るためにも注目する必要があります。補充尋問に対して証人や当事者がうまく答えられなかったときは、裁判官の補充尋問が終わってすぐに手を挙げて追加の質問をした方がよいでしょう。

尋問と異議

 法廷ドラマでは、尋問に対して相手方の弁護士が「異議あり」と叫ぶシーンがよく見られますが、日本の現実の民事裁判では、異議が出る場面はあまり多くありません。
 法廷ドラマの象徴ともいえる「誘導尋問(ゆうどうじんもん)」の異議は、刑事事件ではともかく、民事事件で聞くことはほとんどありません。誘導尋問というのは、裁判業界では、Yes、Noで答えられる形の質問のことをいいます。民事訴訟規則は、誘導尋問を禁止していて、「正当な理由がある場合」にはできるという形になっています(民事訴訟規則第115条第2項第2号)。このことを捉えて、若手の弁護士が誘導尋問の異議を出すことが時々あります。私自身、反対尋問をしていて、誘導尋問の異議を出されたことがあり、私も裁判官もキョトンとしました。誘導尋問が禁止されるのは、証人が尋問者に迎合して経験していないことをいう恐れがあるためですので、反対尋問では(基本的に尋問者は敵方ですから)その恐れがありません。そもそも反対尋問は、どこかの段階で相手を追い詰め追及する形になります。相手を追及するときは、「こういうことですね」とか「こういうことじゃないですか」とYes、Noで答えられる形の質問つまり誘導尋問になるのが普通で、誘導尋問の形にならずに反対尋問をすること自体困難です。また、証人や当事者は素人なので、厳密に誘導を避けて尋問していると尋問に時間がかかります。主尋問の場合でも、最初から誘導しないで尋問して証人・当事者がスムーズに答えずグズグズしていると、裁判官からそのあたりは誘導して手際よくやってくださいなんて言われます。ですから日本の民事裁判の現場の感覚では、誘導尋問が禁止されるのは主尋問の重要部分だけです。
 さらにいえば、証言調書は一問一答の形で作成されるので誘導尋問をすると証言調書にその事実が残ります。そうなると、誘導しないとその証言が出て来なかったという事実を調書に残して後でそれを指摘した方が有効という判断もあり得、その場合は主尋問で誘導尋問があってもあえて異議をいわないでおくという選択もあり得ます。
 誘導尋問と似たような言葉で「誤導尋問(ごどうじんもん)」というものがあります。これは、証人が証言していないことを証言したかのような前提で質問することです。例えば、「新宿で相手に会った」と述べた証人に対して、「あなたが新宿三丁目で相手に会ったのはいつですか」というような質問をすることです(証人は「新宿」と言っただけで「三丁目」かどうかは言っていません)。誤導尋問は、放置すると証人が混乱しますので、すぐに意義を述べるべきです。
 日本の民事裁判で、弁護士が実際に異議を出すのは、誤導尋問や証人が経験しているはずがないことを繰り返し聞いているとか相手方が予定時間を超過しているときにそのことを指摘する場合以外では、相手方の尋問が調子よくいっているのでそのリズムを崩そうとするなどの異議を出す側の弁護士の焦りによることが多いというのが実情だと、私は思います。

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