高裁への上告(民事裁判)

 高裁への上告(1審が簡裁の事件の上告)は、最高裁への上告とも違うところがあります。どう違うでしょうか。

高裁への上告の上告理由

 1審が簡易裁判所の事件(請求額が140万円以下の事件)の場合、控訴審は地方裁判所(3人の合議制)、上告審は高等裁判所となります(民事訴訟法第311条)。
 高等裁判所への上告の上告理由は、最高裁への上告の上告理由(原判決に憲法解釈の誤りその他憲法の違反があること、その他いくつかの手続的な違反:民事訴訟法第312条第1項、第2項)と、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があること(民事訴訟法第312条第3項)です。
 高等裁判所への上告では、最高裁の場合と違って「上告受理」の制度はありません。最高裁の上告受理理由(判例違反その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むこと:民事訴訟法第318条)に当たることがらは、「法令の違反」の上告理由で対応することになります。

上告の手続

 高裁への上告の手続は、基本的に、最高裁への上告の場合と同じです。

 上告の期限は原判決(控訴審判決)の判決書を受け取った日の翌日から2週間です(民事訴訟法第313条、285条)。受け取った日の2週間後の受け取った曜日になります。受け取った日が月曜日なら2週間後の月曜日が上告期限です。もっともその2週間の最終日が土日祝日・年末年始(12月29日~1月3日)に当たる場合は、その次の平日まで期限が延びます(民事訴訟法第95条第3項)。ただ、このあたりは微妙な点もあり、上告期限は1日でも過ぎてしまうと取り返しがつきませんから、裁判所(原審の担当部の書記官)に電話して最終日を確認しておいた方が安全です。
 高裁への上告は、高裁宛の「上告状(じょうこくじょう)」を控訴審裁判所(地裁)に提出して行います(民事訴訟法第314条第1項)。上告状の提出先は地裁の(担当部ではなく)事件受付(民事受付)です。上告状には、当事者の住所、氏名、原判決の表示(裁判所、事件番号、判決言い渡し日、主文)、上告の範囲(全部なら全部、一部なら一部。一部勝訴の場合、「上告人敗訴部分につき」などとするのが普通です)を記載しなければなりません(民事訴訟法第313条、第286条第2項等)。上告の理由は、上告状等に書いてもかまいませんが、書く必要はなく、普通は書きません。

 民事裁判では、上告をすると、「上告提起通知書(じょうこくていきつうちしょ)」が送られてきます(民事訴訟規則第189条)。上告提起通知書は、地裁の担当部から特別送達で送られてきます。
 上告理由書の提出期限は、控訴審裁判所(地裁)から上告提起通知書が送られてきた日の翌日から50日です(民事訴訟規則第194条)。控訴の場合と違って、上告した日からではありません(といっても、上告した日から通知書が送られてくるまでの間はせいぜい数日ですが)。通知書が送られてきた日の7週間後の次の曜日になります。通知書が送られてきた日が月曜日なら、上告理由書の提出期限は7週間後の火曜日です。その最終日が土日祝日・年末年始(12月29日~1月3日)に当たる場合は、その次の平日まで期限が延びます(民事訴訟法第95条第3項)。上告等の期限と同様、上告理由書の提出期限は1日でも過ぎてしまうと取り返しがつきませんから、裁判所(原審の担当部の書記官)に電話して最終日を確認しておいた方が安全です。
 上告理由書の場合は、控訴理由書と違って、提出期限を過ぎると控訴審裁判所が自動的に上告を却下することになっています(民事訴訟法第316条第1項)。提出期限は裁判所が認めれば延長も可能ではあります(民事訴訟法第96条第1項)が、よほどの事件でなければ延長してくれません。

 高裁への上告理由書を提出するときは、正本1通と被上告人の数に4を加えた数の副本を提出します(民事訴訟規則第195条)。被上告人が1人のときは、正本1通、副本5通の合計6通を原裁判所(地裁)の担当部に提出します。
 上告理由書は、郵送または持参して提出しなければならず、ファクシミリで送っても提出したことにはなりません(民事訴訟規則第3条第1項第4号:控訴理由書とは扱いが違うので注意)。したがって、提出先の控訴審裁判所が遠方の場合、余裕を持って用意して送らないと期限を過ぎる危険があります。

 上告理由書が提出されると、事件記録が控訴審裁判所(地裁)から高裁に送られます。
 東京高裁では、上告事件は、すべて高裁の長官代行(民事代行)(正式名称は常置委員会代表委員)がいる部に配点されます。
 記録が上告審裁判所(高裁)に届くと、上告した側と上告をされた側それぞれに「記録到着通知書」が郵便かFAXで送られます(民事訴訟規則第197条第3項)。

上告審の審理

 上告審では、上告を棄却する(控訴審判決通り。上告した側の全面敗訴)ときには、裁判所は口頭弁論を開く必要がありません(民事訴訟法第319条)。
 上告事件のほとんどは、口頭弁論が開かれないで、上告棄却の判決がなされています。

  終了件数 口頭弁論実施件数 原判決破棄
2022年 424件 14件(3.3%) 8件(1.9%)
2021年 383件 12件(3.1%) 8件(2.1%)
2020年 391件 17件(4.3%) 12件(3.1%)
2019年 445件 26件(5.8%) 17件(3.8%)
2018年 486件 32件(6.6%) 23件(4.7%)
2017年 476件 22件(4.6%) 18件(3.8%)
2016年 521件 23件(4.4%) 19件(3.6%)
2015年 458件 23件(5.0%) 11件(2.4%)
2014年 601件 36件(6.0%) 15件(2.5%)
2013年 614件 48件(7.8%) 27件(4.4%)

 司法統計年報から近年の高裁の上告審のデータを拾うと上の表のようになります。高裁への上告事件の件数は最高裁への上告・上告受理件数の1割程度にとどまっていることがわかります。請求額が比較的低額なので、上告までする意欲を持つ人は少ないということでしょう。最高裁の場合よりも少し割合は多くなりますが、それでも、弁論が開かれる事件は3~8%、原判決破棄の割合は2~5%程度というところです。

 高裁が口頭弁論を開くと決めたら、双方の当事者(代理人)に書記官から期日調整の連絡が入り、口頭弁論の日時が指定されます。
 高裁への上告事件での口頭弁論は、最高裁とは違って、時間をとって弁論をするということは予定されていません。控訴審の口頭弁論とほぼ同じイメージです。

 高裁が上告理由書を検討して、口頭弁論を開く必要がないと判断し、上告を棄却すると決めた場合は、FAX等により書記官から判決期日の連絡があり、判決が言い渡されます。口頭弁論期日が開かれずに判決が言い渡される場合は、主文は上告棄却です。最高裁と違って高裁は、決定によって上告棄却をすることができません(民事訴訟法第319条、第317条第2項)ので、突然棄却決定が来るということはなく、判決期日が指定(連絡)されます(民事訴訟規則第156条)。

 上告が受け容れられて原判決が破棄差し戻しとなった場合、事件記録が控訴審裁判所に戻されたところで改めて控訴審の事件番号が付され(地裁への差し戻しの場合レ番号)、控訴審裁判所から差し戻し後第1回口頭弁論の期日調整の連絡があり、期日が指定されます。そして、審理としては差し戻し前の控訴審の続きになります。上告審の破棄判決の内容にもよりますが、まず基本的には上告審で勝訴した側(差し戻し前控訴審で敗訴した側)に補充の主張立証が求められ、それに相手方が反論・反証していく展開となると思います。

 上告が受け容れられて高裁が破棄自判した場合は、特別上告(上告理由は憲法違反のみ:民事訴訟法第327条)がなされなければ原判決が確定します。




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