仮差押えと仮処分

 裁判中に資産を隠されてしまいそうなとき、どうしたらいいか、その手続に必要な保証金をどうするか、わかりますか。

仮差押えと仮処分

 裁判の前に、相手が判決までに財産隠しなどができないように、あらかじめ相手の財産を差し押さえることを仮差押え(かりさしおさえ)といいます。
 また、裁判が終わるまで放っておくと大変困ったことになる場合に、とりあえず判決前に一定のことを命じるということもできます。これを仮処分(かりしょぶん)と呼んでいます。
 財産隠しを防ぐという目的では、特に特定の財産が争いの対象となっているときに、裁判中にその財産を処分されてしまうと、裁判で勝っても権利を実現できないということになりかねません。例えば、不動産を買ったのに(その代金も払ったのに)売主が登記をしてくれないというとき、買主は売主に対して登記をするように裁判で求めることができますが、その間に売主が別の人にも売ってそちらに登記してしまったら、買主は裁判で勝ってもその不動産を自分名義に登記できないことになりかねません。そういうことを防ぐために、買主が売主に対してその不動産の売却を禁止する仮処分(処分禁止(しょぶんきんし)の仮処分)ができます。
 不動産の明け渡しを求めるときに、裁判中にその不動産に住んでいたり占拠している人が替わってしまうと、裁判で勝っても、そのときに住んでいる/占拠している人には裁判の効力が及ばないということになってしまうと、明け渡しが実現できないということになります。そういうことを防ぐために、裁判前に他の人が住むことを禁止したりする仮処分(占有移転禁止(せんゆういてんきんし)の仮処分)があります。
 このような争いの対象となる財産について裁判中の状態の変更を防ぐための仮処分を係争物に関する仮処分(けいそうぶつにかんするかりしょぶん)と呼んでいます。
 係争物に関する仮処分と別に、本裁判の判決前に本裁判で勝訴したときに認められる権利関係を仮に定める「仮の地位を定める仮処分(かりのちいをさだめるかりしょぶん)」もあります。これについては、「判決まで待てないとき(仮の地位を定める仮処分)」で説明しています。

仮差押え

 仮差押えは、申し立てる人(「債権者(さいけんしゃ)」と呼ばれます)が相手方(「債務者(さいむしゃ)」と呼ばれます)に対して金銭の支払いを請求する権利があって、裁判(本裁判)が終わるまで待っていると強制執行をすることができなくなるとか強制執行が著しく困難になるとき、言い換えれば相手方が財産を手放して支払能力がなくなってしまうとか財産隠しをする恐れがあるときに認められます(民事保全法第13条、第20条第1項)。仮差押えをするときには、そのことを証拠書類と裁判官の面前での説明(裁判業界用語では「審尋(しんじん)」という手続になります)で、裁判官を納得させなければいけません(民事保全法第13条第2項)。証拠書類で明確でない点は、申し立てる人や関係者の陳述書を作成して説明することになります。本裁判で自分が主張する権利があることの説明(裁判業界用語では「被保全権利(ひほぜんけんり)の疎明(そめい)」と言います)もそれなりに大変ですが、相手方が財産を処分したり隠す恐れ(裁判業界では「保全(ほぜん)の必要性(ひつようせい)」と言います)の説明はけっこう大変です。抽象的な説明や一般論ではダメで、相手方の事業や収入の状況、職業や信用状況、これまでの申立人からの請求への対応、相手方の言動などを具体的に示した上で、現実的に資産を売却したり隠す恐れを論じる必要があります。
 仮差押えは、相手には知らせずに(事前に知らせたら隠されてしまうから)、申し立てた側の言い分と証拠書類だけを見て裁判所が決定します。普通は1日、2日で決定します。相手の言い分も聞かず相手が出せる証拠書類も出す機会を与えずに決めるのですから、結果的に間違っていたとなる可能性もあります。そのため仮差押えのときは申し立てた側が保証金(ほしょうきん)を積むことを要求されます。保証金の額は、請求する権利の種類(手形金や貸金のような確実度の高い権利では低め)、差し押さえる財産の種類(不動産の場合掛け率は低め。ただし不動産の価格が高い場合不動産の価格を基準とするので高くなる。その他の財産はより高め)、差し押さえによって相手方が受けると予測されるダメージの程度(大きければ高くなる)、申し立てる側の権利の証明(仮差押えなどの保全手続(ほぜんてつづき)では、業界用語としては「疎明(そめい)」ですが)の程度(証明の程度が高ければ保証金は低め。そこが怪しければ保証金は高め)などの事件の内容や事情に応じて担当裁判官が決めますが、おおむね請求金額の1割~5割の間です。
 仮差押えの対象とする財産としては、不動産が優先されます。登記簿上1つの不動産の一部だけの仮差押えはできません。請求する金額と比べて不動産の価格が相当高い場合でも他に差し押さえるのに適切な財産がなければ仮差押えできますが、請求する金額よりも不動産の価格が高い場合、保証金は不動産の価格を基準に定められますので保証金が高くなります。また請求する金額に対して不動産価格があまりに高いときは、仮差押えが認められないということもあります。
 不動産以外の財産、特に企業・事業者の銀行預金や取引先への債権(売掛金等)、個人の給料・退職金については、少なくとも企業の本店(さらには主要な事業所)、個人の自宅の不動産登記簿謄本を提出して、他人名義であるか、高額の抵当権があって差し押さえる価値がないことを示した上でないと裁判官が仮差押えを認めてくれないのがふつうです。さらに、個人の給料や退職金の仮差押えは、その人が裁判中に(近い将来)退職する可能性が相当あるということでないと認められません。また、銀行預金の仮差押えは、銀行と支店を特定する必要があります。

係争物に関する仮処分

 係争物に関する仮処分は、不動産の所有権の確認や登記請求の事件でその不動産の処分禁止の仮処分、不動産の明け渡し請求の事件でその不動産の占有移転禁止の仮処分を行うというのが典型例です。これらの仮処分命令をとっておくと、仮処分命令が執行された後でその不動産の譲渡を受けた者や占有を引き継いだ者が現れても、勝訴した原告はそれらの者に対しても判決で強制執行ができることになっています。
 係争物に関する仮処分も、被保全権利と保全の必要性について一応は納得できるというレベルまでは裁判官を説得しなければなりません(民事保全法第13条、第23条第1項)。そして裁判官が納得すれば、仮差押えと同じく、相手には知らせずに申し立てた側の言い分と証拠だけで決定します。従って、この場合も、申し立てた側は保証金を積まなければなりません。

保証金をどう用意する?

 民事裁判で勝訴した場合の権利の実現を確保するために、仮差押えや仮処分は便利な制度ですが、割と多額の保証金が必要になることがネックです。
 保証金は、現金で裁判所に預ける方法と、銀行との間で支払保証委託契約(しはらいほしょういたくけいやく)という契約をして銀行にその期間に応じた手数料を支払うという方法(裁判業界では「ボンド」と呼んでいます)があります(民事保全法第4条、民事保全規則第2条)。
 司法支援センターの援助を受ける事件では、司法支援センターが銀行とボンドを組んでくれます。庶民が多額の請求をする裁判や不動産をめぐる裁判を起こすことになり、仮差押えや仮処分を必要とする場合は、司法支援センターの援助を受けるのが現実的です。


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