控訴(民事裁判)

控訴審の実情

 控訴審は、実質的には、控訴理由書で裁判官が1審判決に疑問を持つかどうかにかかっています。控訴理由書で控訴審の裁判官の心を動かせなければ第2回以降の口頭弁論はなく証拠調べもないと考えるべきです。控訴審の事件の大部分は第1回口頭弁論で弁論終結します。ただし、第1回口頭弁論で弁論終結しながら、判決は逆転ということも時々あります。そういうケースも含め、控訴理由書のできというか、説得力次第という面があるように思えます。

控訴の手続

 控訴期限は1審判決の判決書を受け取った日の翌日から2週間です(民事訴訟法第285条)。受け取った日の2週間後の受け取った曜日になります。受け取った日が月曜日なら2週間後の月曜日が控訴期限です。
 控訴は、控訴審裁判所(1審が地裁または家裁なら高裁、1審が簡裁なら地裁)宛の「控訴状(こうそじょう)」を1審裁判所に提出して行います(民事訴訟法第286条)。控訴状には、当事者の住所、氏名、第1審判決の表示(裁判所、事件番号、判決言い渡し日、主文)、控訴の範囲(全部なら全部、一部なら一部。一部勝訴の場合、「控訴人敗訴部分につき」とするのが普通です)を記載しなければなりません。控訴の理由は、控訴状に書いてもかまいませんが、書く必要はなく、普通は書きません(なまじ書くと、控訴理由提出済みと扱われてさっさと第1回口頭弁論期日を指定されてしまいかねません)。

控訴理由書

 控訴理由は、控訴理由書(あるいは「控訴審第1準備書面」)に書いて提出するのが普通です。
 控訴理由書の提出期限は、控訴した日の翌日から50日です(民事訴訟規則第182条)。控訴した日の7週間後の次の曜日になります。控訴した日が月曜日なら、控訴理由書の提出期限は7週間後の火曜日です。
 控訴理由書の場合は、上告理由書と違って、提出期限を過ぎたからそれだけで控訴が却下されるわけではありません。控訴審の担当部によって提出期限に対する姿勢はばらつきがあり、期限前から督促されることもあれば、期限を過ぎても鷹揚な場合もあります。しかし、一般的には、1審の記録がとても大量で複雑な事件だとか、代理人が交代して新たに記録を検討しなければならないなどの事情がなければ、期限を過ぎて提出することに対しては、裁判所から厳しい視線を送られることを覚悟すべきです。

 控訴理由は、上告理由の場合と違って、法律上の制限はありません。その意味では、何を書いてもいいということにはなりますが、控訴は、原判決(1審判決)を覆すことが目的ですから、原判決のどこがどのように間違っているのかを書くのでなければ、意味がありません。
 控訴理由書の内容は、1審判決の理由(当裁判所の判断)を読み込んで何が敗訴のポイントになっているのか、どう修正すれば覆せるのかを十分に検討し、説得の手がかりになる裁判例があるか、控訴審で提出できる証拠・証人等の材料がどれだけあるのかなどを考慮して決定して書くことになります。
 控訴理由書のあり方について、私が考えていることを「控訴理由書」の項目で説明します。

第1回口頭弁論期日まで

 通常は、控訴理由書の提出期限前に、事件記録が控訴審裁判所に送られ(民事訴訟規則第174条)、控訴審裁判所の担当部からFAXで照会状が送られてきます。
 照会状は、和解についての1審での経過と現在の希望、控訴審での主張・立証の予定、第1回口頭弁論期日の候補日などを記載するようになっています。候補日はかなり多数の日と時刻が羅列され、その中から差し支え(出席できない日時)だけを抹消するように求められます。
 こういうやりとりをして第1回口頭弁論期日が指定されます。
 第1回口頭弁論期日の前に進行協議期日が持たれることもあります。その場合、担当裁判官と双方の当事者(代理人の弁護士)が書記官室のエリアの小部屋で集まり、主張の要旨を説明したり、証人申請の予定などを協議します。2000年代に、この進行協議が、大事件のみならず通常の事件でもよく行われた時期がありましたが、最近は、通常の事件ではあまり呼ばれません。一時のブームだったのかなという気もします。
 その結果、通常の事件では、控訴した側は控訴理由書を提出し、控訴された側は控訴理由書に対する反論書(答弁書か、控訴審第1準備書面)を提出して、第1回口頭弁論期日を迎えることになります。主張の内容と事件の性質によっては、間に合えば第2準備書面、第3準備書面を提出することもありますが。

第1回口頭弁論期日

 控訴審では、裁判官は必ず3人となります(高裁について裁判所法第18条、地裁について裁判所法第26条第2項第3号)。当事者は、片方だけが控訴した場合は控訴した側が「控訴人」、控訴された側が「被控訴人」となり、法廷では控訴人は傍聴席から向かって左側の席、被控訴人は傍聴席から向かって右側の席に座ります。双方が控訴した場合は、「1審原告」、「1審被告」という呼び名で、1審原告は傍聴席から向かって左側の席、1審被告は傍聴席から向かって右側の席に座ります。
 控訴審の第1回口頭弁論では、裁判長が双方の提出書面を確認していき、控訴状、控訴理由書、答弁書などの陳述、双方の原審の弁論の結果の陳述(民事訴訟法第296条第2項)の手続(通常はどれも裁判長が「陳述ですね」といって「はい」と答えるだけ)、証拠書類の提出があるときはその提出手続と原本確認をして、大半の事件では、裁判長が、双方新たな主張はありませんねと確認して、それでは後は裁判所で判断させてもらいますとかいって弁論終結、判決期日の指定に至ります。

  口頭弁論実施事件数 1回結審 2回以上
2015年 14,164件 11,020件(77.8%) 3,144件(22.2%)
2014年 14,047件 10,977件(78.1%) 3,070件(21.9%)
2013年 15,428件 12,015件(77.9%) 3,413件(22.1%)
2012年 16,982件 13,037件(76.8%) 3,945件(23.2%)
2011年 16,520件 11,980件(72.5%) 4,540件(27.5%)
2010年 15,607件 11,095件(71.1%) 4,512件(28.9%)

 

第1回口頭弁論期日以降

 控訴審裁判所が判決期日を指定した上で、和解勧告があることもあります。その場合は、別の和解期日を指定することもありますし、双方に時間があればそのまま法廷から書記官室に移動して和解の協議に入ることもあります。
 裁判所が、第2回口頭弁論期日を指定した場合は、追加の準備書面の提出や人証調べも可能になり、その時は1審と同様の手続になります。その場合でも、裁判所が1審ほどゆっくりとつきあってくれる可能性は低いですが。
 私の経験した東海第二原発訴訟で東京高裁で16年審理した(1985年~2001年)とか、柏崎刈羽原発訴訟で東京高裁で10年あまり審理した(1994年~2005年)というのは例外中の例外です。

判決

 判決の手続等は、1審と同じです。
 判決書の構成は、1審と同じようなものですが、当事者の主張部分も、当裁判所の判断部分も、1審判決を引用して、1審判決を変更する部分だけを書くことが多い(民事訴訟規則第184条)ので、控訴審判決だけを読んでも何が何だかわからないことがままあります。当事者の主張部分はさておき、当裁判所の判断を全文書いてくれていればいいのですが、ここが虫食い状に書かれていると、1審判決とあわせて読まないと、よくわかりません。一般の方には1審判決とあわせて読んでもよくわからない場合があると思います。
 判決の結果は、開けてみないとわかりません。第1回口頭弁論で弁論終結した事件でも、原判決が破棄され逆転ということも、それほど稀というわけではありません。私自身、第1回口頭弁論で弁論終結して逆転勝訴という経験が2桁にのぼっています。

 司法統計年報から、控訴事件の終了(既済)件数と主な結果(判決と和解、判決のうち原判決取消=控訴人勝訴)のデータを拾うと次の表のようになります。和解で終了している件数が相当あること、原判決取消(控訴人勝訴:一部勝訴を含む)は控訴事件中の1割強、判決中の2割程度であるということが分かります。

  終了事件 判決 原判決取消 和解
2015年 15,623件 8,935件(57.2%) 2,106件(13.5%、判決中23.6%) 4,931件(31.6%)
2014年 15,308件 8,824件(57.6%) 1,966件(12.8%、判決中22.3%) 5,040件(32.9%)
2013年 17,072件 9,917件(58.1%) 2,087件(12.2%、判決中21.0%) 5,219件(30.6%)
2012年 18,986件 11,429件(60.2%) 2,493件(13.1%、判決中21.8%) 5,387件(28.4%)
2011年 19,205件 10,875件(56.6%) 2,507件(13.1%、判決中23.1%) 5,323件(27.7%)
2010年 17,826件 10,242件(57.5%) 2,446件(13.7%、判決中23.9%) 5,296件(29.7%)
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