答弁書作成:私の基本姿勢

 訴えられた側で、どう守るか、ケースによっては逆襲できるか。もちろん、ここでも上手下手は出てきます。被告側では、特に手持ち材料と今後入手できる見通しの評価がポイントになります。

私の基本姿勢

 答弁書に記載すべきことは、訴状の「請求の趣旨」に対する答弁、訴状の「請求の原因」に対する認否、「被告の主張」ですが、それをどのように記載するかを考えるには、まず、原告の請求に対して被告側が全体としてどのようなストーリーで対抗するのかを考える必要があります。被告側の基本的なストーリーが決まっていてこそ、認否や反論に説得力が出るのです。そこがはっきりしないままで対応すると、後々矛盾が出て来たりして、後悔することになりかねません。
 答弁書の場合、裁判所から送られてくる訴状に同封されている答弁書催告状兼期日呼出状に「提出期限」が記載されていて(通常、第1回口頭弁論期日の1週間前)、焦って対応しがちです。
 私は、基本的に、何であれ期限は守るようにしていますが、私の実感では、期日通りに書面を提出してくる弁護士の割合は半分くらいだと思います。
 答弁書の場合、被告自身が訴状を受け取ってすぐに依頼してくるわけでもなく、提出期限まで日数が短いことも多く、裁判所もそれを考慮して、「請求の趣旨に対する答弁」だけの答弁書でもそれで文句を言われることはありません。
 そういうことも踏まえて、第1回口頭弁論期日の数日前までに被告側のストーリーと裏付けが確認できるかによって、しっかりした答弁書を出すか、答弁書は「請求の趣旨に対する答弁」だけにして最初の準備書面(第1準備書面、準備書面(1))でしっかり反論するか、その他の方法をとるかを決めていくことになります。

請求の趣旨に対する答弁

 「請求の趣旨に対する答弁」は、通常は、訴状の請求が1つの場合には、「原告の請求を棄却する」、訴状の請求が複数の場合は「原告の請求をいずれも棄却する」と記載します。また通常は、訴訟費用についての裁判に関して、「訴訟費用は原告の負担とする」と記載します。
 原告の請求が不適法(手続違反で不適法ということ)である場合には、「本案前の答弁」として「原告の請求を却下する」という答弁をすることがありますが、一般の訴訟ではこれを使うことはまずありません(行政訴訟で行政側が多用します)。
 「請求の趣旨に対する答弁」だけの答弁書は、被告側の時間稼ぎに用いられます。それが裁判所から批判されることは、通常、ありませんが、逆に、被告側で答弁書からきちんと書き込んで展開すると、被告側は時間稼ぎを要しない、主張に自信を持っているとアピールすることができます。その意味で、私は、答弁書の提出期限に余裕がある時期に被告側のストーリーがはっきりしておりその裏付けも確認できた場合は、1回先送りをしないで答弁書をしっかり書いた方が、その後の展開を優位で進められると考えています。

請求の原因に対する認否

 請求の原因に対する認否は、訴状の請求の原因に記載された事実関係について、できるだけ細かく区分してこの部分は認める、この部分は否認する、この部分は知らない(不知)という形で行います。「知らない」という認否は、原則として被告自身が体験していない事実(被告がいない場、関与しない場で行われた行為等)について行うもので、被告自身の行為や被告がいた場で行われた(と主張されている)事実について「知らない」と認否すると、裁判官から不信感を持たれます。そして、否認する場合は、その理由(根拠、別の「真実」等)を記載する必要があります。
 経験上は、細かく区分しないで、「請求の原因第○項は否認しまたは争う」というレベルの大雑把な認否をする弁護士が少なくありませんし、単純否認(否認する理由を記載しない否認)は、現在では民事訴訟規則(第79条第3項)で明確に禁止されているのですが、それを守らない弁護士が少なくありません。
 裁判官は、民事訴訟法上相手方が認めた(「認める」と認否した)事実は立証を要せず主張通りに認定しなければならないことから、認否には気を遣っています。こういう雑な認否、民訴規則違反の単純否認には、いい心証は持たないと思います。

 以上のことは、ある意味形式的な話ですが、より実践的に考えると、請求の原因に対する認否で、認める部分は後日争うことが基本的にはできないこと、否認する部分はその理由の記載が、被告の積極的な主張と関連することが多いことから、認否は、被告側の主張全体、被告側のストーリー、被告側の訴訟戦略と密接に関係します。そういうことを考えれば、被告側のストーリーが確立する(主張の基礎となる事実を確認し、その裏付けとなる証拠を確認して、これで行けると判断する)前に請求の原因に対する認否をすることは、被告側にとって大きなリスクとなります。
 ですから、私は、「被告の主張」がまだ書けない段階で「請求の趣旨に対する答弁」と「請求の原因に対する認否」だけを記載した答弁書を作成することは、避けるべきだと考えています。

裁判官の理解を中心に考える

 訴状でも、強調しましたが、答弁書も含めて、裁判で提出する書類はすべて、裁判官を説得するための書類です。
 単純否認をしない、つまり否認するときはその理由を記載するということも、単に民事訴訟規則で定められているからそれに従うということではなく、原告が主張した事実(請求原因事実)が誤りである(虚偽である)という根拠(できれば書証)や実際にはどういうことだったのかを具体的に主張する方が、答弁書を読む裁判官に対して説得力があるから、そうすべきだと思うのです。
 答弁書の場合、ふつうは請求に関係しない事情を延々と書くことはないと思いますが、裁判官にわかりやすく、裁判官が読む意欲を失わないような書面を書くべきことは、訴状の場合と同じです。
 答弁書で、裁判官の理解しやすさという点で気を配りたいのは、訴状が長く複雑な(錯綜してわかりにくい)ものの場合です。一般市民がそういう長く錯綜した訴状を受け取るとすれば、それは素人が書いたもの(原告が個人で本人訴訟)か、弁護士がよくわかっていない/慣れていないか、タイムチャージ等で分厚い書類を書くこと自体で利益を得るような場合だと考えられますが、こういうときに型どおりに「請求の原因に対する認否」を先行すると(それも細かく区分して誠実に認否すると)ものすごく読みにくい答弁書ができあがります。そういうときは、最初に原告の主張を短く要約して示したり、被告の主張するストーリーを先に説明するなどしてから請求の原因に対する認否をした方がいいと思います。

答弁書作成の目標

 答弁書(答弁書が「請求の趣旨に対する答弁」だけの1回先送りの場合は、被告の最初の準備書面)では、訴状で裁判官が持った原告優位の心証を覆すことが目標であり、また、それができなければ、その裁判は被告にはかなり厳しい/絶望的なものとなります。
 もちろん、裁判官が訴状を読んで(訴状と同時に提出された書証も見て)原告優位の心証を抱かなければ、答弁書でそれほど頑張らなくても(実質単純否認だけでも)大丈夫なわけです。本人訴訟の訴状だとそういうこともままあるでしょう。しかし、通常は、弁護士が書いたものはもちろん、本人訴訟の場合でも、訴状だけを見れば、原告の言い分だけですから、当然に原告優位の印象を持つはずです。と同時に、裁判官は、訴状段階では、まだ被告の言い分をまったく聞いていないわけですから、どんなによくできた訴状であっても、とにかく被告の言い分を聞いてみないといけないと考えています。でも、答弁書なり被告の最初の準備書面で被告の主張を聞いて(同時に提出された書証も見て)も、やはり被告優位に心証が覆らない/原告優位の心証のままであれば、次に原告の再反論でさらに原告優位の心証を持つのが通例ですから、裁判官がもう少しは待ってくれることが多いとはいえ、その後被告優位に心証が覆る可能性はかなり低くなります。

手持ちの材料で被告のストーリーが作れないとき

 ケースによっては、被告が知っている情報、手持ちの書類等では、有効な反論ができず、また被告側のストーリーがうまく組み立てられないときがあります。
 といいますか、依頼者の反応としては、そういうことがよくあります。
 相手方(原告)や第三者から情報や書類を入手しないと有効な反論/被告側ストーリーが組み立てられないという場合、原告に対する求釈明や文書送付嘱託・調査嘱託などを先行させるというパターンもあります。
 これについては、求釈明等のページで説明することにしますが、それにはそれなりの(相当の)リスクがありますし、依頼者が本来知っているはずの事実、持っているはずの書類を十分に発掘できていない場合が現実には多いと思いますので、まずは事実と証拠の掘り起こし/自前での調達の努力を相当力を入れて行う必要があります。


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