解雇を争う手段(不当解雇と闘う手続)

地位確認(復職)を求めるか、金銭解決か

 解雇を争うとき、まず労働者がどのような解決を希望しているのかが、どのような闘い方をするのか、どのような手続をとるのかを考え決定する出発点になります。端的に言えば、復職したいのか、金銭解決を望むのか、金銭解決の場合その水準はどの程度かということです。

 このことを考えるときに注意してほしいことが2つあります。多くの人が誤解しているのですが、1つは解雇を(違法なんだから)不法行為だとして損害賠償請求しても多額の賠償を得ることは困難だということ、もう1つは地位確認(復職)を求める裁判をしている間ふつうに就職してかまわない(無職でいる必要などない)ことです。この2つの誤解から、本当は復職を求めたいのに蓄えがないから無理だとあきらめたり、復職を求めなくても多額の賠償を得られるという幻想を持つ人がよくいるのです。

 解雇が違法な場合でも、解雇無効を主張して労働者の地位の確認(復職)を求めるのではなく、解雇が不法行為に当たるとして損害賠償(慰謝料)請求をすると、解雇が不法行為に当たるとして労働者が勝訴しても認められる損害賠償はそれほど多額にはなりません。違法な解雇によって本来は得られるはずの賃金を得られなかったという損害は、次の就職が決まっていると損害がないことになったり、次の就職がずっとできない場合でもどこまでが解雇と因果関係があるかが問題になり(1年分とか6か月分という裁判例もありますが)3か月分くらいしか認められないことが多いのです。そして慰謝料が認められる場合でもその額はごく低額であることが多いので、裁判の労力と弁護士費用を考えると、あまりお勧めできません。

 交渉や裁判等の手続の中での和解で比較的高額の解決金が取れるのは、労働者が地位確認(復職)を請求し、解雇が無効であることが明らかで使用者側がどうしても労働者を復職させたくないときです。地位確認の裁判で判決で得られるのは解雇後判決確定までの間の賃金(遡って支払が命じられるので「バックペイ」と呼ばれます)ですが、交渉や和解ではそれに加えて労働者に任意に退職してもらうための支払が追加されるわけです。そういう事情がないのにバックペイを超えた支払が簡単に認められるわけではありません。ですから、金銭解決としても、高額の和解金を希望するのであれば、地位確認を請求し、かつ解雇が無効であるということが明らかであることが必要なのです。

 復職を希望する労働者は、最初から地位確認を求めるのが当然の選択となりますが、高額の金銭解決を希望する労働者も、それを実現するには地位確認を請求し、手続を進めて解雇の無効性を主張立証して、使用者側にこのままでは負けるという見通しを持たせることが必要になります。そのことをよく考えて、地位確認を求めるのか求めないのかを決定する必要があります(労働者が、使用者が復職させるといっても絶対戻りたくない場合は、多額の解決金という幻想は捨てて少額でも損害賠償請求等をするかを考えることになります)。

復職の現実性

 労働者が地位確認の請求をして裁判手続が行われる場合でも、現実に労働者が復職するケースは多くはありません(割合から言えば、レアケースというべきかもしれません)。1つには、裁判の過程で使用者側の準備書面(じゅんびしょめん)での主張や提出される陳述書で悪口を言われたり使用者側の姑息な対応を見ているうちに嫌気がさして復職の意欲をなくしたり、そうでなくても長期間経過するうちに気が変わったりして、結果的には金銭解決の和解をすることが多いためです。

 そして、裁判所は、労働者の就労請求権(しゅうろうせいきゅうけん)を認めないという立場をとっています。それは、裁判上請求できるのは「権利の確認」であり、労働は労働者の権利ではなく「義務」だからそれを裁判上請求することはできないというのです(一応、特殊な事情、例えば特殊な技術を維持するために就労を続ける必要があるとか、があれば認めるとは言うのですが)。ついでに説明すると、裁判所は「過去の事実の確認」は請求できず、「現在の権利関係の確認」を請求すべきという立場をとっています。その結果、解雇が無効だとか、復職させろという請求は、現在の裁判所の下ではすべて「労働者としての権利を有する地位があることを確認する」という形をとらざるを得ません。そのため「地位確認請求」ということになるのです。

 地位確認請求で労働者が勝訴した場合、判決上認められるのは、基本的には、賃金請求権ということになります。使用者側は労働者を就労させてもかまわない(労働契約は有効になりますから業務命令も出せます)し、就労を拒否して賃金だけを支払い続けてもかまわないということになります。労働者側で就労を拒否する使用者に対して就労の強制執行をすることもできません。

 では地位確認請求で勝訴しても復職はできないでしょうか。労働者側が復職の意思を持っていて勝訴した場合、使用者が大企業であったりそれなりの地位のある企業である場合、今どきはコンプライアンスの観点から、判決に従って復職させるということもあります。逆に中小企業の場合、働かせなくても賃金は支払い続けなければならない(労働者が定年になるまで!)のであれば同じ賃金を支払うのなら復職させようということもあります。

 もっとも、解雇に至る過程で人間関係が悪化していたり、裁判の過程でさらに悪化することも多いですから、現実に復職しても陰に陽に嫌がらせなり冷淡な対応をされることは予想されます。現実に復職して働き続けるには、労働者側に覚悟(鉄の意志)が必要でしょうし、労働組合など職場の仲間の支えがないと厳しいかなということはあります。

解雇を争う手続の選択

 以上のようなことを考えたうえで、私は、労働者の希望と客観的状況により、大体は次のような手続をお勧めしています。ほかの事情、その事件に特有の事情を考慮して違う選択をするときもままありますが。

 労働者が復職を希望しているとき、高額の金銭解決を希望しているとき(使用者が復職させるといっても絶対戻りたくない場合を除く)→地位確認請求訴訟。預貯金が少ないときは賃金仮払い仮処分を先行させる。

 労働者がそれほど高額でない(労働審判でも獲得できそうな水準の)金銭解決でかまわないと考えているとき、迅速な解決を優先するとき→労働審判(ただし、主張がシンプルでないなど事実上1回勝負の労働審判ではやりにくいケースは、仮処分も考慮)

 労働者がどうしても復職したくないとき→損害賠償請求等

 労働者が弁護士費用をかけたくないというとき→労働局等のあっせん、簡裁での調停

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