解雇事件の印紙代

本訴の場合

 解雇を争って復職を求める場合、従業員である地位の確認と賃金の支払いを、両方求めます。
 従業員である地位の確認は、金銭評価できない請求ですから、印紙代計算では160万円とみなされます。
 問題は賃金請求です。これは金銭請求ですから、一見簡単です。でも、いつからいつまでの賃金で計算すればいいでしょう。裁判所は(少なくとも東京地裁労働部は)、裁判を起こす前に発生している賃金総額+1年分で計算することを求めます。「1年分」は裁判の平均審理期間ということです。
 具体例で示すと、給料が月末締め翌月25日払いで30万円の人が3月末に即日解雇されて解雇予告手当30万円が支払われていて7月15日に裁判を起こすとすると、裁判を起こす前に発生している未払賃金(確定未払賃金)は5月25日と6月25日に支払われるべき合計60万円から解雇予告手当として使用者が支払った30万円を賃金に充てて(労働者側は解雇は無効と主張するのですから解雇予告手当ではなく未払賃金として受け取ったという主張になります)30万円になります。これに1年分で360万円を足して賃金請求は390万円と扱われます。裁判を起こすのが7月25日になったら、7月25日に支払われるべき30万円が増えて確定未払賃金が60万円と1年分で420万円になります。(ところで、これを見て4月25日に支払われるべきものは?と思う人もいますよね。月末締め翌月25日払いだと3月分が4月25日に支払われるので3月末日付け解雇なら当然使用者が支払っているだろうということです。もちろん、使用者が現実には支払わなかったのならこれも請求に加えます。賃金って意外に複雑なんですね)
 それで、この従業員である地位の確認と賃金請求は、解雇が無効と認められれば当然にどちらも認められるべきもので、実質的には1つの請求ですから、足し算はしないで、多い方で考えます。
 その結果、上の例の7月15日提訴のケースでは390万円を基準にして、裁判所に納める印紙は2万5000円となります。
 この印紙代計算の基準となる金額は「訴訟物の価額」と呼ばれますが、これは印紙代計算の基準に過ぎず、実際の請求額とは違います。ときどき、この数字を見て、裁判の請求額がこの金額と思い込む(請求額がこの金額だから和解案はこの金額の何掛けとか)人がいますが、まったくの勘違いです。

労働審判の場合

 労働審判の場合、裁判所に納める印紙の額は、訴訟の場合の半分です。
 では、上の例の7月15日申立なら印紙は1万2500円…じゃないんですね、これが。
 労働審判の場合、賃金請求は申立までの確定未払賃金+3か月分で計算する扱いです(少なくとも東京地裁労働部では)。労働審判の平均審理期間を3か月と見るわけですね。実際は平均審理期間は2か月半程度ですが。そうすると、上の例で7月15日申立のケースでは確定未払賃金30万円+3か月分90万円で合計120万円を基準とすることになります。そうなると、従業員である地位の確認の160万円の方が大きいのでこちらを基準として、訴訟なら1万3000円となりますので、その半分の6500円が正解。

賃金仮払い仮処分の場合

 仮処分の場合、裁判所に納める費用は、請求額に関係なく印紙は2000円です。予納郵券と合わせても1万円でおつりが来ます。
 なお、賃金仮払い仮処分の場合、労働者にお金がなくて生活に困るということが前提ですので、通常の仮処分のように「保証金」を積むことを求められることはまずありません。

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