弁護士会照会とお手紙(証拠の入手方法)

 当事者の手元にない資料を裁判所を通じないでどう入手するか。うまく行くこともないではないですが、実際にはなかなか難しいです。特に近年は。

裁判所を通じない証拠入手方法

 「書証の発掘」で説明したように、内容が予め確認できない書類を裁判所を通じて提出させる方法は、内容が不利だった場合でも裁判所や相手方にその内容を知られて事実認定の材料にされてしまうリスクがあります。
 そこで、まずは当事者(依頼者)が持っている書類を丁寧に探すことが第一選択となるわけですが、それでいい材料がないときには、どういう手段を取るべきでしょうか。
 弁護士には、裁判に利用するための書類を集めるのに、特別の権限は、裁判所を通じての手段(文書送付嘱託、調査嘱託、文書提出命令等)を使わなければ、基本的には、ありません。
 弁護士が、弁護士である故に利用できる方法は、特定の書類(戸籍、住民票、固定資産税評価証明書等)について、職務上請求書を用いれば取り寄せることができるということと、弁護士会照会くらいです。

弁護士会照会

 弁護士会照会は、弁護士法第23条の2の規定に基づいて、弁護士が弁護士会に照会請求をして、弁護士会がその内容をチェックして、弁護士会として紹介先に対して回答を請求するという制度です(23条照会とも呼ばれます。「弁護士法第23条の2」なのになぜ「23条の2照会」じゃなくて、「23条照会」かって聞かないでください。たぶん「23条の2照会」では言いにくいからだと思います。慣例として「23条照会」です)。
 この利用料金は弁護士会によって異なります。地方会ではもっと安いようですが、東京では(第二東京弁護士会では)照会1件について約8000円かかります。
 そして、紹介先が回答するかどうかは不確実で、裁判所からの要請(文書送付嘱託や調査嘱託)に対してなら答えるが、弁護士会照会では答えないという態度を取るところが少なくありません。
 このように費用がけっこうかかる上に回答可能性が高くないので、比較的余裕のある依頼者で、回答が期待できる(現実には、定型的に回答が来る場合以外は、事前に照会先に電話して弁護士会から照会したら答えてくれるかを聞いてから照会請求します)場合以外は、使っておらず、私は近年はほとんど使っていません。

手紙による質問

 こちらが知りたい情報の内容とその情報を持っている相手の性質によっては、手紙で質問すると、意外にあっさり答えてくれることもあります。弁護士が手紙で質問しても、それには法的な根拠や権限はまったくありませんから、法的な性質としては、一般人が手紙で質問した場合とまったく同じです。しかし、裁判の内容や弁護士の仕事に対する認識(たぶん一定の敬意)から、一般人からの手紙よりは、丁寧に扱ってくれることが多いようです。
 しかし、近年の個人情報の取扱に対する過剰/過敏な対応に象徴されるように、個人の情報についての回答は、近年ではあまり期待できません。また、手紙を出す相手と裁判の相手方の関係をよく考慮しないと、こちらへの回答は来ない、裁判の相手方に通報されるということになるリスクもあります。
 そういう点で、十分考えた上で効果が期待できる場合に手紙を出した方がいいですし、現実には効果が期待できない場合が多いと考えておくべきです。

 私の経験で、手紙での質問がうまく行った例を紹介します。

 私が弁護士になってすぐの頃(1980年代)は、個人情報保護についての意識は薄く、他方、弁護士に対する敬意は今よりずっと高かったため、手紙でもいろいろな情報を入手することができました。
 1人住まいと主張している相手方に同居人がいることを立証するため、その相手方が外国に行っている期間の電気使用量とガス使用量を東京電力と東京ガスに手紙で聞いたら、あっさり回答が来ました。いまなら弁護士会照会でも答えないでしょう。
 もっとも、それで味を占めて、家主にも手紙を書いたら、回答はなく、相手方に通報され、相手方の弁護士から苦情が来ました。

 六ヶ所ウラン濃縮工場では、耐震設計の前提となる最大想定地震の決定に際して、「村松の式」が用いられていたことから、私は、その式の考案者の村松郁栄岐阜大学名誉教授に、村松先生の論文では各地震の震度分布面積を円としてその半径を震央距離としていること、そのデータの平均値を用いていることの2重の意味で平均値を用いているのですからこれを原子力施設の敷地に生じうる地震の「最大値」を求めるために使うことは不適切だと考えますがいかがでしょうかという内容の手紙を書きました。そうすると、村松先生から、自分が考案した式を原子力施設の最大想定地震を決定するために使うのは適切ではないという返事の手紙が来ました。六ヶ所ウラン濃縮工場の裁判で、耐震設計に関する国側の証人の反対尋問で、それを示して反対尋問をしたところ、国側の証人も、村松先生がそうおっしゃるのならその通りですとしか答えられませんでした。

 2015年に、気に入らない運転手を解雇した後裁判になって廃業を装っている(と私が主張している)トラック運送会社が、裁判上の主張では廃業を決めた後のはずの時期に新たに新車のトラックを購入したことを私から追及されて、リース会社からトラックを購入すれば補助金を得られるために(使用しなくても)利益になるとリース会社の営業担当者から勧誘されたなどとしらじらしい嘘を主張したので、まぁほっといても嘘とわかるとは思いましたが、私は100%嘘と判断できることから、そのリース会社宛に裁判の相手方がこういう主張をしているが、そういう事実があるか、と手紙で問い合わせました。内容的に個人情報の問題がないためと思いますが、予想通り、そんな事実はないと回答があり、私はリース会社に裁判で証拠に使いますと伝えた上で、裁判所に証拠提出しました。


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