訴訟費用が払えないとき(訴訟救助)

 訴状に貼る印紙代も払えないとき、裁判が終わるまでそれを待ってもらう手続があるのを知っていますか。

訴訟費用が払えないとき

 裁判所に納める費用が払えないときには、費用の支払(予納)を先送りにする「訴訟救助(そしょうきゅうじょ)」という制度があります(民事訴訟法の規定では「訴訟上の救助(そしょうじょうのきゅうじょ)」という言葉を使っています)。
 訴訟救助が認められる要件は、「費用を支払う資力がない」か「その支払により生活に著しい支障を生ずる」ことと、「勝訴の見込みがないとはいえない」ことです(民事訴訟法第83条)。

訴訟救助の現実的な意味

 訴訟救助の対象は一応訴訟費用として裁判所に納める費用全般です(民事訴訟法第83条第1項第1号)が、実質的には訴状に貼る印紙です。裁判中に証人の旅費・日当や鑑定費用を予納する場面になれば、もちろん、それも対象になりますが、そういうことはそうそうはありません(証人のほとんどは旅費・日当を放棄しますし、鑑定を申し立て、しかもそれが採用される裁判はそれほどありませんから)。
 訴訟救助の決定があると、訴訟費用の支払(印紙)が裁判終了まで先送りされます(民事訴訟法第83条第1項第1号)。先送りされてどうなるかというと、判決で決まる訴訟費用の負担に応じて決着するということです。全面勝訴で、訴訟費用は(全部)被告の負担とするという判決になれば、最終的に支払は不要(印紙は貼らないまま)になります。敗訴して訴訟費用は原告の負担とするとなったら、その時点で印紙代を支払え(印紙を貼れ)ということになります。ただし、訴訟費用の負担についても、判決の場合、確定してからになりますので、控訴すれば控訴審の判決が出て確定するまで、支払は先送りになります。
 印紙代は、たいていの場合、せいぜい数万円ですから、全く払えないということはそう多くはありません。しかし、弁護士費用について司法支援センターの代理援助を利用するときは、司法支援センターの方では、印紙代は立て替えずに訴訟救助を利用するようにということになります。それで、訴訟救助を申し立てるというケースが大半です。司法支援センターでは、訴訟救助を申し立てたが裁判所が認めなかった場合は、印紙代を追加援助してくれます(ただし、これも立替ですから、その分依頼者が分割して払うことになりますが)。なお、司法支援センターの代理援助を利用する場合でも、印紙代は立替を利用しないで依頼者が自分で払うことが可能か(そうであれば、訴訟救助の申立はしなくていいことになります)について、司法支援センターの東京地方事務所に問い合わせたところ、それでいいと言われたのでそうしたことがありますが、別の職員からそれは認められていないと言われたこともあります。司法支援センターの見解も固まっていないのかも知れません。

訴訟救助の申立

 訴訟救助を申し立てるときは、訴状には印紙を貼らずに、訴状と一緒に訴訟救助申立書を提出します。
 訴訟救助の要件のうち、「勝訴の見込みがないとはいえない」ことは、訴状の内容で判断され、よほどどうしようもない請求でなければ認めてくれます。「費用を支払う資力がない」か「その支払により生活に著しい支障を生ずる」ということについては、通常は、収入や資産が少ないことを書いた報告書を提出し、同時に「家計全体の状況」という破産申立の際に使う書式を利用して申立前2か月分か3か月分の収入と項目ごとの支出額を書いて提出し、これと合わせて収入と資産についての資料、例えば給料明細書とか預金通帳の写しを出します。
 訴状に貼る印紙は、通常はせいぜい数万円までですから、厳密な意味で支払えないとか「生活に著しい支障を生ずる」ことの立証を求められたら立ち往生することになりますが、経験上は裁判所はそれほど意地悪ではないのがふつうです。ただ、これも時々妙にうるさい裁判官がいて閉口しますが。
 しかし、訴状の場合、訴訟救助の決定がでるまで訴状は被告に送達されず(訴訟救助の決定は、訴状と同封して被告にも送られます)、訴訟救助の手続で手間取っていると裁判の開始がどんどん遅れていきますので悩ましいところです。
 訴訟救助の決定は、その事件の訴訟費用をまるごと支払わなくていいという決定ではなく、支払の必要が生じる度にその都度決定されていきます。というのは、訴訟費用は、裁判中にも発生します。最初に説明した証人申請や鑑定申立の場合のほかに、裁判中の事情変更で請求額を増加することがあります。その場合、それで「訴訟物の価額(そしょうぶつのかがく)」が増えてそれに応じて納めるべき印紙額が増えることになります(増えた額がごく少なければ印紙額は同じということもありますが)。そうした場合、また訴訟救助の申立をすることになります。請求額が増えるという場合、増えた印紙代は数千円レベルのことが多く、これまたそれが支払えないことの立証など厳密には無理ですが、これも経験上、最初に訴訟救助がでた事件では、その後の対象金額がとても少なくても訴訟救助決定はしてくれます。

 訴訟救助の決定は審級ごとになされます(民事訴訟法第82条第2項)から、控訴審での訴訟救助は、1審とは別に改めて申立をすることになります。
 控訴審での訴訟救助も、要件は1審の場合と同じです。訴訟救助申立の際に、1審の場合と同様に収入と資産についての資料提出なり報告書提出をします。
 しかし、「勝訴の見込みがないとはいえないこと」の要件の方は、訴状と違って、控訴状には裁判の中身を書きませんので、控訴後すぐの段階では判断できず、控訴理由書の提出を待って判断されるようです(私が控訴審での訴訟救助申立をした際に聞いた限りでは、東京高裁のその部ではそういう話でした)。控訴審では相手方への控訴状の送達を急ぐわけでもなく、控訴状送達前でも控訴理由書提出期限の通知とか第1回口頭弁論期日指定とか平気でなされますので、控訴理由書の提出は通常通りの期限内にすれば足り、訴訟救助申立をしたから進行が遅れるということはないようです。

裁判が終わったら

 訴訟救助は支払の先送りですから、裁判が終わって判決が出れば(判決が確定すれば)、そこで精算することになります。
 民事裁判では、判決の際に必ず判決書で、訴訟費用の負担について決めています。通常、訴訟費用の負担は負けた方に負担させ、その程度は負けの程度に応じて決められます。原告の全面勝訴なら、「訴訟費用は被告の負担とする」となります。原告の全面敗訴なら「訴訟費用は原告の負担とする」です。一部勝訴の場合、例えば「訴訟費用はこれを3分し、その1を原告、その2を被告の負担とする」というような書き方になります。この例では原告が3分の1、被告が3分の 2を負担するわけです。
 訴訟救助の決定がされている場合は、この訴訟費用の負担の決定に応じて支払が請求されます。「訴訟費用は被告の負担とする」なら支払は不要です。「訴訟費用は原告の負担とする」なら全額裁判所から請求されます。一部勝訴で上の例なら、原告に印紙代の3分の1、被告に印紙代の3分の2が、裁判所から請求されます。
 注意を要するのは、和解の場合です。和解をするとき、ふつうは、「和解費用は各自の負担とする」という条項がつけられます。そうなると、裁判費用はそれぞれが負担するということになって、印紙代は原告の負担ということになりますので、裁判所から原告に印紙代全額の請求が来ます。和解の際に「和解費用は被告の負担とする」という条項にすれば、印紙代は被告の負担となるわけですが、私の経験上はそういう条項を飲む被告を見たことがありません(被告が支払う解決金に印紙代分をプラスしてもらったことはありますが)。


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