最高裁への上告(民事裁判)

上告と上告受理:事実認定が誤っているという主張は理由にならない

 最高裁への上告は、制度上、憲法違反等を理由とする「上告(じょうこく)」と判例違反等の法令の解釈に関する重要な事項があることを理由とする「上告受理申立(じょうこくじゅりもうしたて)」に分けられます。上告受理申立は、最高裁だけの制度です。上告受理申立の方は、上告受理理由がある場合であっても受理するかどうかは最高裁の裁量(さいりょう。要するに受理するかどうかは最高裁の自由)です。最高裁の負担を軽減する目的で、民事裁判では上告理由を狭くしたのですが、上告する人の大半が上告とともに上告受理申立をするので事件数は減っていません。
 民事事件の場合、最高裁への上告理由は、憲法違反(判決に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があること:民事訴訟法第312条第1項)とその他若干だけです。「その他若干」のほとんどは、手続上の、現実にはありそうにないことです。その中に1つ「判決に理由を付せず、又は理由に食違いがあること」というものがあります(民事訴訟法第312条第2項第6号)。これは、弁護士がよく上告理由に使います。
 上告受理申立の理由は最高裁判例に反すること(最高裁判例がないときは高裁判例に反すること)その他法令解釈に関する重要な事項を含むことです(民事訴訟法第318条第1項)。
 このように上告理由も上告受理申立理由も法令解釈や法令違反(手続違反を含む)に限定され、事実認定が誤っているということは上告等の理由にはなりません。高裁への上告の場合も同じですが、上告審裁判所は原判決が適法に確定した事実に拘束されます(民事訴訟法第321条第1項)。そのため、上告審裁判所は、原則として事実認定の誤りに関する主張には耳を貸しません。最高裁は、必ずしもそうとも言いにくい運用をする場面もあります(例えば、原発訴訟で初めて住民側が勝訴した「もんじゅ」訴訟では、住民側勝訴の原判決の事実認定をかなり大胆に変更していますし)が、最高裁に事実認定の誤りをいうときには、建前として原判決の事実認定の方法や手続が適法ではなく(「審理不尽(しんりふじん)」とか「採証法則違反(さいしょうほうそくいはん)」とか「経験則違反(けいけんそくいはん)」などがあり)その結果として誤った事実認定に至っているという形で論を組み立てる必要があるということになります。

上告・上告受理申立の手続

 上告・上告受理申立の期限は原判決(控訴審判決)の判決書を受け取った日の翌日から2週間です(民事訴訟法第313条、285条)。受け取った日の2週間後の受け取った曜日になります。受け取った日が月曜日なら2週間後の月曜日が上告・上告受理申立期限です。もっともその2週間の最終日が土日祝日に当たる場合は、その次の平日まで期限が延びます(民事訴訟法第95条第3項)。ただ、このあたりは微妙な点もあり、上告・上告受理申立期限は1日でも過ぎてしまうと取り返しがつきませんから、裁判所(原審の担当部の書記官)に電話して最終日を確認しておいた方が安全です。
 最高裁への上告・上告受理申立は、最高裁宛の「上告状(じょうこくじょう)」「上告受理申立書」を控訴審裁判所(高裁)に提出して行います(民事訴訟法第314条第1項)。上告状、上告受理申立書には、当事者の住所、氏名、原判決の表示(裁判所、事件番号、判決言い渡し日、主文)、上告・上告受理申立の範囲(全部なら全部、一部なら一部。一部勝訴の場合、「上告人敗訴部分につき」などとするのが普通です)を記載しなければなりません(民事訴訟法第313条、第286条第2項等)。上告・上告受理申立の理由は、上告状等に書いてもかまいませんが、書く必要はなく、普通は書きません。最高裁判所に上告と上告受理申立を同時に行う場合、1通の書面(上告状兼上告受理申立書)で行うことができます(民事訴訟規則第188条)。

 民事裁判では、上告や上告受理申立をすると、「上告提起通知書(じょうこくていきつうちしょ)」・「上告受理申立通知書(じょうこくじゅりもうしたてつうちしょ)」が送られてきます(民事訴訟規則第189条、199条第2項)。
 上告理由書・上告受理申立理由書の提出期限は、控訴審裁判所(高裁)から上告提起通知書・上告受理申立通知書が送られてきた日の翌日から50日です(民事訴訟規則第194条、199条第2項)。控訴の場合と違って、上告した日からではありません(といっても、上告した日から通知書が送られてくるまでの間はせいぜい数日ですが)。通知書が送られてきた日の7週間後の次の曜日になります。通知書が送られてきた日が月曜日なら、上告理由書・上告受理申立理由書の提出期限は7週間後の火曜日です。その最終日が土日祝日に当たる場合は、その次の平日まで期限が延びます(民事訴訟法第95条第3項)。上告等の期限と同様、上告理由書・上告受理申立理由書の提出期限は1日でも過ぎてしまうと取り返しがつきませんから、裁判所(原審の担当部の書記官)に電話して最終日を確認しておいた方が安全です。
 上告理由書・上告受理申立書の場合は、控訴理由書と違って、提出期限を過ぎると控訴審裁判所が自動的に上告・上告受理申立を却下することになっています(民事訴訟法第316条第1項、第318条第5項)。提出期限は裁判所が認めれば延長も可能ではあります(民事訴訟法第96条第1項)が、よほどの事件でなければ延長してくれません。

 最高裁への上告・上告受理申立の理由書を提出するときは、正本1通と被上告人・相手方の数に6を加えた数の副本を提出します(民事訴訟規則第195条)。被上告人・相手方(上告受理申立の場合は、申し立てた方が「申立人」、申し立てられた方が「相手方」です)が1人のときは、正本1通、副本7通の合計8通を原裁判所(高裁)に提出します。
 上告理由書、上告受理申立理由書は、郵送または持参して提出しなければならず、ファクシミリで送っても提出したことにはなりません(民事訴訟規則第3条第1項第4号:控訴理由書とは扱いが違うので注意)。したがって、提出先の控訴審裁判所が遠方の場合、余裕を持って用意して送らないと期限を過ぎる危険があります(私が控訴審が札幌高裁の事件で上告理由書等を提出したときは、安全のために期限の3日前に発送しました)。

 上告理由書や上告受理申立理由書が提出されると、事件記録が控訴審裁判所(高裁)から最高裁に送られます。記録が上告審裁判所に届くと、上告や上告受理申立をされた側にも「記録到着通知書」が送られます(民事訴訟規則第197条第3項)。これは文字通り事件記録が上告審裁判所(最高裁)に着いたというだけで、決して上告なり上告受理申立が受理されたという通知ではありません。

最高裁での審理の実情

 最高裁は、日本に1つしかなく、3つの部(小法廷)に分かれていますが、3つの部15人の裁判官ですべての事件を担当します。そこに年間2000件前後の民事事件の上告とほぼ同数の上告受理申立、年間300件前後の行政事件の上告とほぼ同数の上告受理申立、さらに年間2000人前後の被告人からの刑事事件の上告がなされるわけです。
 司法統計年報でみると、民事事件については、近年は年間数千件の既済件数(事件終了:判決・決定が約98%、取下げ等が約2%)に対して原判決破棄が数十件で、破棄率は均してみれば1%程度です。

 最高裁では、上告事件、上告受理申立事件には、機械的に担当調査官と主任裁判官が割り当てられます。まず調査官が上告理由書、上告受理申立理由書を読んで事件を持ち回り審議事件と(審議室)審議事件に分類します。(引用文献の「最高裁判所は変わったか」では「審議室審議事件」の用語が使われていますが、「弁護士から裁判官へ」「最高裁回想録」では単に「審議事件」とされています)
 事件の大半は、持ち回り審議事件とされて、調査官報告書と1審・2審判決、上告理由書・上告受理申立理由書等をセットにして、順次その事件を担当する小法廷の裁判官に回覧され、異論がなければ審議を終了し、その時点で上告棄却・不受理となります。この場合、最初に主任裁判官が検討し、その後他の裁判官が検討します。その過程で主任裁判官や別の裁判官から異論が出されて(審議室)審議事件にした方がよいとなれば、(審議室)審議事件になりますが、そういうことは極めて少ないということです。
 (審議室)審議事件の場合、比較的詳細な調査官報告書が出され、各裁判官が事前に調査官報告書や上告理由書・上告受理申立理由書等を検討した上で、原則として週1回その小法廷の裁判官が一堂に会して開かれる審議の場で各裁判官が意見を述べ、議論することになります。(以上は、滝井繁男「最高裁判所は変わったか」岩波書店、2009年の19~23ページによっています)
 審議事件となるのは全体の5~6%で、最高裁に係属する事件の約95%は持ち回り審議事件となるそうです(藤田宙靖「最高裁回想録 学者判事の七年半」有斐閣、2012年、42ページ、62~63ページ、70~71ページ)。
 それぞれの裁判官が1日に記録検討をして判断をする事件は20件から30件に上り、簡単な事件では記録検討が数分で終わることもあるそうです。(審議室)審議事件での審議では、各裁判官が自分の意見を書いた審議メモを配布することも多く、口頭であまり激烈なやりとりはないそうです。(以上は、那須弘平判事インタビュー「二弁フロンティア」2010年1・2月合併号26~28ページ)

ほとんどの事件は弁論を開かずに上告棄却

 上告審では、上告を棄却する(控訴審判決通り。上告した側の全面敗訴)ときには、裁判所は口頭弁論を開く必要がありません(民事訴訟法第319条)。もちろん、上告を棄却する場合でも最高裁側で口頭弁論を開くのは自由ですが、忙しい最高裁としては、法律上必要でないときに口頭弁論を開くことはまずありません(ただし、絶対ないとは言えず、ごくまれに口頭弁論を開きながら上告棄却ということもあります)。
 ですから、最高裁の場合、口頭弁論を開くという指定があれば、控訴審判決は何らかの変更がなされるのが通常で、そうでなく判決なり決定が来れば、中身は見るまでもなく上告棄却・上告不受理です。
 そして、最高裁の事件の大半は、口頭弁論が開かれることなく上告棄却・上告不受理となります。上告棄却の判決・決定も大抵理由は書かれておらず(適法な上告理由に該当しないと書かれているだけ)、上告不受理の決定には理由は書かれません。
 ただし、その判決・決定がいつ来るかは、口頭弁論が開かれなければ予告されず、時期は予測できません。はっきりいって何でもない事件が何年も寝かされたり、それなりに理由があると考えられる事件でもあっという間に棄却されたりします。

上告・上告受理が認められるとき

 他方、上告受理申立が受理される場合は、上告審として受理するという決定がなされます。現実的には、最高裁が上告受理をするときは、多くは控訴審判決が見直されるときですから、口頭弁論も開かれることになります。その場合、受理決定があり、その後口頭弁論期日が開かれ、判決期日が指定されて判決という手順になります。
 上告受理をするけれども、口頭弁論を開かずに判決がなされることもあるようです(司法統計年報で見ると、近年の数字では上告が受理された事件のうち25%前後が上告棄却の判決となっています)。その場合、上告受理決定があり、判決期日が連絡されます。こういうときは、控訴審判決の結論(主文)はそのままですが、理由部分について見直しがなされ、最高裁の判断が示されることになります。
 上告が認められる場合は、上告については「受理決定」はありませんので、口頭弁論期日が開かれて、判決期日が指定されて判決という流れになります。

口頭弁論の実情

 2012年3月30日、プロミス相手の過払い金返還請求事件で、私にとっては民事裁判では初めて最高裁で口頭弁論を行いました。その事例で、口頭弁論が行われる場合の段取りを説明してみましょう。
 最高裁が口頭弁論を開くことを決めると、まず書記官から連絡があり、期日の日程調整をします。日程が決まったところで、口頭弁論期日呼出状が送られてきます。上告受理の場合は、それと同時に上告受理決定調書が送られてきます。上告受理決定調書には、主文として「本件を上告審として受理する」と記載され、多くの場合、上告受理申立理由書のうち特定の項目以外を「排除する」と記載されます。排除されなかった部分が最高裁での審理の対象となり、最高裁がその排除されなかった申立理由を採用するか、少なくともその部分で原判決を変更しようとしているということを読み取ることができます。
 相手方(被上告人)に対しては、答弁書を提出するように最高裁から催告がなされます。
 答弁書が出され、口頭弁論期日が近づくと、書記官から弁論の時間について調整がなされます。民事裁判では、「口頭弁論」期日といいながら、現実には口頭で主張を述べることはあまりないのですが、最高裁での口頭弁論は、法廷で現実に口頭で主張を述べることを想定しています。事件の性質にもよりますが、一般の民事事件では、最高裁側は10分程度を想定しているようです。当事者がもっと時間を欲しいといっても値切られます。
 最高裁は、口頭弁論で述べる内容を予め書面にして口頭弁論期日の1週間前までに提出するように求めます。この書類を「弁論要旨」と呼んでいます(法律の規定はありませんが)。そして、それをチェックして、「品位に欠ける」点があると、調査官が、不適切なので差し替えるように求めてきます。プロミス相手の事件で、私が、実際には過払いなのに当事者を切り替えることで過払いでないかのように騙して取立をするプロミスらの手口について、弁論要旨で「被上告人らのような社会悪というべき連中の不法なビジネス」と書いたら、調査官から最高裁の法廷でそのような品位のないことを述べてはならない、弁論要旨を差し替えるようにと電話が来ました。
 このように、最高裁での口頭弁論は、予め、書記官や調査官が、発言をする順番と時間、さらには内容まで確認して、ハプニングがなく予定通りにつつがなく行われるように調整しています。最高裁裁判官経験者が書いた本で、最高裁での弁論はつまらないと嘆いているのを見た覚えがありますが、裁判官の目に触れる前に何から何まで事務方で縛っていることにも、その原因があるように、私には思えました。

 最高裁での口頭弁論について、藤田宙靖元最高裁判事は「最高裁における口頭弁論というのは、当事者による弁論の時間も、前以ての折衝によって枠が厳格に決められており(裁判所側でこの折衝に当たるのは、その事件の担当書記官である)、弁論当日、当事者は、それを堅く守ることが要請される。裁判長の訴訟指揮(法廷での発言)については、調査官の原案を基に詳細なシナリオが作られていて、裁判官は、原則としてそれを読み上げるだけである。なお当事者側も、通例は、あらかじめ了承したシナリオに従い、前以て提出されている弁論書通り『陳述します』と発言するだけであって、はっきり言ってしまえば、ほとんど陳腐ともいうべき儀式であるに過ぎない。」と書いています(「最高裁回想録 学者判事の七年半」有斐閣、2012年、50ページ)。
 当事者の「弁論」については、大野正男元最高裁判事も、「弁論が行われる日でも、上告理由もその答弁も『先に提出した書面の通り』ということですぐ終わってしまうのがほとんどであり、五分もかからないで終了した。」(「弁護士から裁判官へ」岩波書店、2000年、8ページ、45ページ)としています。

最高裁での弁護士の対応

 上告する側の場合、つまり高裁で負けた場合、上告審は、実質的に上告理由書(上告受理申立については上告受理申立理由書)一本に勝負をかけることになります。
 実際の審理では、担当調査官が持ち回り審議事件にするか審議室審理事件にするかを決め、持ち回り審議事件については(裁判官から異論が出ない限り)裁判官が集まっての議論はせずに上告棄却・不受理となることになります。審議室審議事件でも、調査官報告書が重要な資料となります。その意味では、調査官の説得が重要な意味を持ちますが、よほどの事件でなければ調査官は面会に応じてくれません。
 最高裁では、上告理由書の提出期限が厳しいので、期限内には一応の理由を書いて、後日補充書を提出するということを、弁護士はよくやります。しかし、私は、大野正男裁判官(第二東京弁護士会出身の著名弁護士です)が最高裁判事を定年退官した後で書いた本の中で、「上告理由の追加が理由補充書という形で提出されることがあるが、上告理由書の提出日は規則で定めてあるのだから、新しい主張はできないし、単なる補充であっても、よほどの理由のない限り精読しないのが通例である。」(「弁護士から裁判官へ」岩波書店、2000年、44ページ)と書いているのを見て、補充書を出すのは、基本的にやめにしました。

 控訴審で勝った事件での上告審の対応は若干微妙です。最高裁が口頭弁論を開くことにならない限り、相手方が出した上告理由書は原則として送られてきません。しかし、口頭弁論が開かれるときは事実上負けるときですから、黙って待っているというわけにも行きません。そこで自主的に委任状を出して事件記録の謄写の手続で相手方が出した上告理由書をコピーします。それを読んで、反論すべきかはまた悩ましいところです。依頼者は反論して欲しいということになりますが、たいしたことがないとかさらにいえば、多少は相手の言い分にも理由がありそうだが重要ではないというときは黙殺した方がいいと私は判断しています。なまじ大仰な反論をすることで何か重要な論点があると最高裁に注目されるとかえって損になりかねません。
 ただ、相手が国の場合は、たいしたことなくても反論しておく方が無難かなとは思います。最高裁は国の上告・上告受理申立については気をつかうでしょうから。 

  • はてなブックマークに追加
  • 最高裁への上告:庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

「判決に不服があるとき」の各ページへのリンク

「民事裁判の話」の各ページへのリンク