弁論終結と判決

 民事裁判の判決書を読むとき、どこに注目すればいいか、わかりますか?

最終準備書面の提出

 人証調べが終わり、判決へと進む場合、最終準備書面(さいしゅうじゅんびしょめん)を提出して弁論終結(べんろんしゅうけつ)とすることが多いです。
 最終準備書面は、双方から提出された書証、人証調べの結果を記した調書を引用して、自分の主張がどの程度立証されたかを論じるものです。この段階で、これまで主張しなかった新たな事実や新たな法的主張をすることは、原則として許されません。
 最終準備書面は、基本的には、証拠に関しての読み方、評価を具体的に示して、裁判官にこのように考え事実認定することが合理的だということを説得する書面です。これがうまくいけば、つまりとても説得力がある書面を書ければ、勝訴につながりやすいものです。
 もっとも、裁判官によっては、最終準備書面が出る前に判決の枠組みを決めている場合もあり、時々、こちらの最終準備書面を読んでないなぁと感じる判決があって、がっかりします(そういうときは、控訴理由書で覆してやると、ファイトを燃やすことになるのですが)。

判決の言い渡し

 判決の言い渡しは法廷で行われますが、判決期日は当事者の出席は必要ありません(民事訴訟法第251条第2項)。もちろん、出席することはできますが、法廷で読み上げられるのは主文だけで、よほどの大事件でなければ理由部分は読み上げられず、ましてやその解説などありません(民事訴訟規則第155条)から、当事者が出席しないことが多いです。
 東京地裁の場合、午後の法廷の最初の時間帯(部・係により午後1時とか午後1時10分とか午後1時15分とか)に判決期日が集中して指定され、同じ時間帯に口頭弁論期日が指定されている事件の当事者(ほとんどの場合その代理人の弁護士)が傍聴席(ぼうちょうせき)で待っている前で、連続して主文だけが読み上げられていきます。
 民事裁判では判決言い渡しの際に当事者も代理人(弁護士)も出席しないのがふつうだということは、弁護士の間では常識ですが、世間ではあまり知られていません。私が日弁連広報室の嘱託だった頃(1990年頃)、司法記者(新聞社・テレビ局の裁判担当の記者)にそう言って驚かれ、記者は刑事裁判のことは詳しくても民事裁判のことはほとんど知らないのだと実感しました。そういう経験も、自分のサイトを開設した際(2005年)に、裁判、特に民事裁判のことをわかりやすく説明しようと考えた一因となっています。

 民事裁判の場合、控訴期間(こうそきかん)は、判決正本(はんけつせいほん)を受け取った日(の翌日)からカウントされますので、傍聴席で(あるいは当事者席に座って)主文を聞いても、判決正本を受け取らずに帰れば、控訴期間は判決が郵送で送られてきた日(の翌日)からカウントされることになります。他方、当事者が判決正本をすぐに受け取りたいという場合、出席して判決言い渡しを法廷で聞いても、判決正本を法廷で受け取れることはまずなく、書記官室に行ってそこで受け取ります。その場合、判決言い渡し後すぐに書記官室に行っても、担当書記官がいません(まだ法廷で別の事件をやっている)ので、すぐに受け取れないとか、場合によっては言い渡し用の判決書は作成済みだが当事者に渡す正本はまだ作ってないなんてこともあります。そういうこともあり、弁護士の場合、判決当日に言い渡しを聞こうとか、すぐに判決正本を受け取ろうという意欲は次第に萎えていくことになります。

判決書の送達

 判決言い渡しがあり、当事者またはその代理人が裁判所に自ら判決書を受け取りにいかないと、判決書の正本が、特別送達(とくべつそうたつ)で、送られてきます(民事訴訟法第255条)。
 判決は、裁判所に保管される(原則、永久保存)判決原本には裁判官が署名押印します(民事訴訟規則第157条)が、当事者に送られてくる「正本」には裁判官の署名押印はなく、これは正本であるという書記官の認証文(にんしょうぶん)と書記官の記名押印があります。判決正本の裁判官の名前は、かつては活字での「記名」(押印なし)がほとんどでしたが、近年は判決原本のコピーと思われる筆書きの署名と押印(のコピー)がついたものが多くなっています。
 判決の主文の内容を強制執行(きょうせいしっこう)するときには、判決正本が必要です(紛失した場合は再交付を受けることができます)。

判決書の読み方

 判決文は、主文、請求、事案の概要、前提事実及び争いのない事実、争点、争点についての当事者の主張、当裁判所の判断というような構成が多く、このうち主文と当裁判所の判断が重要です。
 裁判の当事者にとって、まず一番重要なのは「主文」です。主文が裁判の結論ですし、相手方との関係で法律上の権利義務が確認されたり変わったり、また強制執行ができる内容は、主文に書かれていることです。
 主文の内容が原告側の全面勝訴であるかは、判決主文に「原告のその余の請求を棄却する」という文があるかないか(あれば一部勝訴)、判決理由の冒頭にある「請求」欄が「主文と同旨」「主文と同じ」と書かれているかでも判断できます。また原告全部勝訴の場合は、普通は、「訴訟費用は被告の負担とする」とされています。なお、被告の全部勝訴(原告の全面敗訴)の場合の主文は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」となるのがふつうです。
 判決書で、次に重要なのが「当裁判所の判断」(「争点に対する判断」と書かれているときもあります)です。ここが裁判所が認定した事実や裁判所の採用した法律構成、法解釈を示しています。その前の当事者の主張欄は、あくまでも当事者が裁判で主張した事実と法律構成を裁判所が請求が認められるかの判断に必要な範囲で整理したもので、裁判所自身の見解ではありません(この範囲が請求の判断に必要という取捨選択のレベルでは、裁判所の判断ですが)。
 「当裁判所の判断」を検討することで、裁判所が当事者の請求について何を考慮しどのような理由で結論を出したかがわかります。勝訴した当事者にとっては、自分の主張がどの程度、またどのように認められたかの確認ができ、満足度が決まるところでもあります。そして、敗訴した当事者にとっては、この検討によって、自分の主張した事実、証拠書類や証言、法律構成のどこに弱点があったのかと、この判決の考え方が標準的なものか担当した裁判官の独特のものかを見極め、控訴した場合に逆転の可能性がどれくらいあるかを判断するということになります。


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