第1回口頭弁論

 民事裁判の第1回口頭弁論、丁々発止のやりとりがある…と思いますか?

口頭弁論というけれど

 法廷で行われる民事裁判の期日は「口頭弁論期日(こうとうべんろんきじつ)」と呼ばれています。
 口頭弁論期日では、主張を口頭(こうとう)で、つまり言葉でしゃべって述べるという建前ですが、実際には期日の前に提出した書類の提出を確認するだけということがほとんどです。法廷で「陳述(ちんじゅつ)します」と言うことで、提出してあった書類の内容をすべて口頭で陳述したことにするのです。

民事裁判の法廷の様子

 民事裁判の法廷を傍聴席から見た様子を説明します。
 傍聴席から見ると、正面の壇上の席に裁判官が座ります。裁判官は3人の場合と1人の場合があります。民事裁判の場合、地方裁判所の1審の事件については、合議体で審理する(3人で審理する)かどうかは裁判所が自由に決められることになっていて、特に合議にする基準は定められていません(裁判所法第26条第2項第1号。1審が簡易裁判所の事件の控訴審は合議で行うことと定められていますが:裁判所法第26条第2項第3号)。裁判官が1人でその横に1人普通の背広の人が座っているときは、その人は見習いをしている人です。
 裁判官席の前で傍聴席の方を向いて黒い服を着て座っている人は裁判所書記官(しょきかん)です。書記官は裁判の手続を記録しています。
 書記官の横に横向きに座っているのは裁判所事務官です。廷吏(ていり)と呼ぶ場合もあります。事務官は審理する事件の当事者を呼び入れたり、当事者と裁判官の間の書類の受け渡しをしたりします。
 傍聴席から見て左側は原告席です。原告席には、原告側の弁護士と原告本人が座ります。多くの事件では本人は出席せずに原告側の弁護士が座っています。傍聴席から見て右側は被告席で、多くの場合被告側の弁護士が座っています。
 民事裁判は当事者の主張をする段階と証人調べをする段階に分かれます。主張をする段階ではバー(しきり、柵。英語の bar です。bar の向こう側の人ということで英語で弁護士のことを bar と表すこともあります。「弁護士会」の英語表記は bar association です)の向こう側にいるのはこれくらいです。
 主張の段階では、近年は傍聴人が多数詰めかけるような事件や本人訴訟のような場合は別として、普通の事件では法廷で行われることはほとんどなくなりました(弁論準備期日として法廷外の部屋やWeb会議を用いて行われています)が、法廷で行われる場合は、数分で1つの事件が終わり、流れ作業的に続くので、見ていて面白いことはなく、傍聴席にいるのは、大抵、自分の事件の順番を待っている弁護士だけです(民事裁判の手続の多くの部分が法廷外で弁論準備期日として行われるようになったため、別事件の弁護士が傍聴席で待つことも少なくなりましたが)。
 証人尋問の段階になると、バーの向こう側に登場人物が増えます。裁判官席の前、真ん中に、傍聴席に背を向けて座っているのが証言をするために来た人です。証人の場合もありますし、原告、被告本人の場合もあります。証人尋問のときは証人の前、書記官の横に手動式の特殊な機械を置いて速記官(そっきかん)が座っていることがあります。最近では録音と反訳業者を使うことが多くなり、速記官がいない(書記官が録音をしている)場合が多くなっています。東京地裁の場合は、部によって、尋問の際に速記官がつく部と速記官なしで録音でやる部に分かれています。

原告と被告が出席しても

 たいていの民事事件の第1回口頭弁論は、原告と被告が双方出席している場合、
 裁判所「原告は訴状の通り陳述しますね」
 原告側「はい」
 裁判所「被告は答弁書の通り陳述しますね」
 被告側「はい」
 裁判所「では、次回は〇〇ですね(被告の答弁書が具体的でなければ「被告の主張」、具体的に書かれていれば「原告の反論」)」
という程度のやりとりで次回期日を決めて終わりです。

たいていは、被告は欠席

 第1回口頭弁論期日は、被告の都合を聞かずに日を決めますから、そもそも被告が出席できるかどうか自体がわかりません。
 そして、第1回口頭弁論期日は、当事者の片方が欠席した場合、欠席した当事者が事前に提出した書類については、出席していなくても陳述したものと扱えます(民事訴訟法第158条)。
 その結果、第1回は被告側が出席しないことも多く、その場合被告の答弁書は陳述したことにすることになります(「擬制陳述(ぎせいちんじゅつ)」と呼んでいます。その場合の法廷での裁判官の言い回しは、従来は「答弁書擬制陳述」が多かったのですが、最近は「答弁書の陳述を擬制」か「答弁書陳述擬制」が多くなっているように思えます)。
 その場合、裁判所でのやり取りは、
 裁判所「原告は訴状の通り陳述しますね」
 原告側「はい」
 裁判所「被告から答弁書が出ていますのでこれを陳述擬制します」
 裁判所「では、次回は〇〇ですね(被告の答弁書が具体的でなければ「被告の主張」、具体的に書かれていれば「原告の反論」)」(現実には、こういうケースでは、請求の趣旨に対する答弁だけの1枚紙でただ1回先送りを狙った答弁書の場合が多いので、「被告の具体的な主張を待ちましょう」ということが多い)
となります。

当事者双方が欠席したら

 さて、多くの民事裁判では、第1回口頭弁論期日に被告は出席しません。被告側が来ないのなら、行っても張り合いがないと、原告側も欠席したらどうなるでしょうか。これは、第2回口頭弁論期日以降でも同じですが、当事者の両方が欠席した場合、裁判所は、弁論を「休止」し、次回口頭弁論期日を指定しません。そのまま当事者が裁判所に期日指定の申立をせずに1か月が経過すると、原告が訴えを取り下げたものとみなされます(民事訴訟法第263条)。このパターンで裁判が終了することを、裁判業界では「休止満了(きゅうしまんりょう)」と呼んでいます。
 うっかりするとせっかく民事裁判を起こしたのに、取り下げ扱いで何も判断されずに終わってしまいますし、1か月経つ前に期日指定の申立をすれば当然に再開はされますがその間裁判が進みません。そういうことですから、訴えを起こした原告側にとっては、望ましくない展開となるわけです。

原告側だけ欠席なら

 さて、では原告側が欠席して被告側が出席したらどうなるでしょうか。擬制陳述の規定は、原告側にも適用されますから、原告側が欠席して被告側が出席の場合、訴状を擬制陳述して、答弁書を陳述という扱いが可能です。
 しかし、休止の規定は、当事者双方が欠席の場合だけでなく、出席したが弁論せずに退席した場合にも適用されます。その結果、被告側が口頭弁論に来てみたが原告側が欠席と知った場合、そのまま帰ってしまえば休止になります。ですから、被告側が裁判を進めることを積極的に希望しているという例外的な場合でなければ、被告側は退席して休止になります。そういうケースは稀だと思いますが、私自身、自分の担当する裁判の順番を待っているときに先にやっている別事件でそういうケースを見たことがあります。その時は、裁判所が、被告に「そのまま帰れば休止になりますよ」と教えていました。
 そういうことから、規定上は原告側だけ欠席の場合、訴状の擬制陳述は可能になっていますが、現実的には原告側は裁判を進めるためには出席するしかないということになります。

そもそも初回を口頭弁論期日にしないときも

 最近は、これまで説明したように第1回口頭弁論期日が形式的な儀式になっていること、コロナ禍以降裁判所ができるだけ期日開催を減らそうとしていることなどの事情から、裁判所が、初回の訴状陳述等を行う期日を口頭弁論期日ではなく、法廷外であるいはWeb会議を用いて行う弁論準備期日として行おうとすることが増えています。
 弁論準備手続に付する際には、裁判所は当事者の意見を聞かなければならない(民事訴訟法第168条。法律の規定上、当事者の同意・承諾は要件ではないので、裁判所は当事者の意見を聞きさえすれば、当事者が反対しても弁論準備期日にできます)ので、必ず第1回口頭弁論期日は口頭弁論期日として指定されます(第1回口頭弁論期日は被告への訴状送達の前に指定するので被告の意見を聞くことは不可能)。しかし、被告から答弁書が提出されるか、答弁書が出なくても弁護士への委任状が提出されれば、裁判所が被告の代理人に意見(弁論準備手続でいいか、Web会議を希望するか裁判所に出頭するか)を聞き、指定されていた第1回口頭弁論期日を取り消して、期日調整の上弁論準備期日を指定するという運用がされることが多くなっています。
 その場合、裁判所が被告に(1回先送りの形式的な答弁書ではなく)実質的な主張を用意するのに必要な期間を聞きそれに見合う時期に弁論準備期日を指定することもよくあります。そうすると、第1回弁論準備期日から、実質的に中身のあるやりとりができるということになります。


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