簡易裁判所での審理

簡易裁判所の法廷の様子

 東京簡易裁判所の場合、民事部の法廷は、係と法廷によりさまざまです。地方裁判所の法廷と同じパターンの法廷、通常の法廷と同様の法壇(ほうだん:通常の法廷で裁判官が座るひな壇)の前に丸いテーブル(ラウンドテーブル)が置かれている法廷、法壇がなく丸いテーブルだけが置かれている法廷があります。ラウンドテーブルがある法廷では、裁判官は法壇上の裁判官席に座るか、ラウンドテーブルの傍聴席(ぼうちょうせき)から見て一番奥に座ります。裁判官がラウンドテーブルの席に座る場合、通常、書記官が裁判官の右か左の脇に座ります。ラウンドテーブルがある場合、原告側はラウンドテーブルの傍聴席から見て左側の手前、被告側はラウンドテーブルの傍聴席から見て右側の手前の席に座ることになります。法壇上の裁判官の横の席や法壇の横(ラウンドテーブルの奥)に置かれた長机やラウンドテーブルの余った席に司法委員(しほういいん)が数人座っています。

司法委員

 簡易裁判所の法廷で、地方裁判所と一番違うのは、司法委員が多数裁判官の脇の方に座っていることです。司法委員は、東京の場合でいえば、多くは弁護士がパートタイムで行っています。和解のために当事者の話を聞き和解案の調整をしたり、主張や証拠が十分整理されていない本人の話を聞いて整理したりするのが司法委員の仕事です(民事訴訟法第279条)。

当事者の代理人

 簡易裁判所以外では、つまり地方裁判所や高等裁判所、最高裁判所では、民事裁判の代理は原則として弁護士しかできません(民事訴訟法第54条第1項本文)。弁護士以外で代理をすることができるのは、会社については支配人というかなり包括的な権限を持っている役職の人、あとは未成年について親権者、後見を受けている人について後見人くらいです。ですから、会社が裁判の当事者になると、代表者(社長)が出席するか、支配人が出席するか、弁護士に依頼するかしかありません。支配人については、本当に支配人にふさわしい権限があるかが争われることもままあります(消費者金融が弁護士費用の節約のためにほとんど何もわからない平社員を支配人登記して出席させることがよくあり、支配人資格が否定されるケースもあります)。
 しかし、簡易裁判所では、弁護士でない者も裁判所の許可を得て代理をすることができ(民事訴訟法第54条第1項但し書き)、実務上かなり幅広く許可がなされていて、平社員が会社の代理をすることがごく普通に行われています。
 法務大臣の認定を受けた司法書士は、報酬を得て簡易裁判所での訴訟手続の代理をすることができます。(司法書士ももちろんきちんとやっている人が多いと思いますが、簡易裁判所で順番待ちしているときに傍聴席で聞いていると、過払い金請求の事件で本来は140万円以上請求できる事件を140万円以下の請求にしている事案がありました。請求額が140万円を超えると司法書士が代理できなくなるからでしょうけど、そういうのはいけないなと思いました。また、司法書士の方が費用が安いと世間では思われているようですが、私がネットで見る限りは裁判や特に過払い金請求の事件で司法書士の報酬が弁護士より安いといえるかは疑問に思います)
 ですから、簡易裁判所の法廷には、本人(会社の場合は代表者)が自ら出席する、従業員や知人に代理してもらう(これは裁判所の許可が必要)、弁護士か認定司法書士に代理してもらうという選択肢があることになります。

審理の様子:口頭弁論

 口頭弁論は、同じ時刻(裁判所によって違いはありますが、多くの場合、午前10時、10時30分、11時、午後1時、1時30分)に多数の事件が指定されています。傍聴席の脇に「出頭カード」が並べておかれ、出席予定者がそろった事件(と裁判所の事務官が認識した事件)から順次開廷していきます。これは地方裁判所でも同じですが、地方裁判所の場合、同じ時刻に指定される事件は数件であるのが普通であるのに対し、簡易裁判所では同じ時刻に十数件平気で指定されます。
 簡易裁判所の事件は、消費者金融の貸金請求や信販会社の支払請求などの業者から顧客への取立の裁判が多数を占め、近年は借主から貸金業者への過払い金返還請求が多くなっています。
 多数の事件が順番待ちになっていて、弁護士や司法書士や会社の担当者などの慣れた人がやる事件は事前に準備されているので口頭弁論はあっという間に終わりますが、簡易裁判所では素人の本人が何も準備しないでやってきたり、事前に書類は出されていても内容が整理されていない事件がわりとあって、そこで審理が滞り、後の事件の人が長く待たされるということがよく起こります。過払い金請求が最も多かった頃は、同じ時刻に20件以上も指定され、裁判官も事務官も事件処理に追われてピリピリし(出頭カードを書いて事務官に渡そうとしたら「置いといてください。後で集めに行きますから」とか声を荒げられたり・・・)、傍聴席で待つ側も午前10時指定の事件で順番が回ってくるのが午前11時頃だったりしてイライラしという状況でした。最近は過払い金請求がかなり減って東京簡易裁判所でも同じ時刻に指定される事件数が1桁のことが多くなり、戦場のような事態はあまり見なくなりました。

 簡易裁判所での第1回の口頭弁論は、被告側が欠席の場合は、地方裁判所の場合とほぼ同じ展開となります。
 なお、簡易裁判所では、第1回口頭弁論だけでなく、第2回以降も答弁書や準備書面を事前に提出(裁判所と相手方に同じものを郵送するかFAXする)しておけば、欠席しても擬制陳述(ぎせいちんじゅつ)扱いしてもらえます(民事訴訟法第277条:地方裁判所では第2回口頭弁論以降は擬制陳述はできません)。その結果、被告側は、ずっと法廷に行かなくても、訴訟を進行できることになります。擬制陳述は、法律上原告側にも適用されますが、両方の当事者が欠席すると、事前に準備書面等を提出していても、裁判手続は休止扱いとされ、当事者が1か月以内に口頭弁論期日指定の申立をしないと原告が訴えを取り下げたものとみなされて裁判手続が終了してしまいます。通常は、原告側は裁判を進めたい(だからこそ裁判を起こしている)のですから、原告側としては欠席するわけには行きません(原告側が欠席で被告側が出席の場合、口頭弁論を行い、原告側が事前に準備書面等を提出していればそれを擬制陳述することも可能ですが、被告側は実際には出席していても出席しなかったことにして帰るとか弁論を行わずに退席することによって裁判手続を休止させるという選択ができることになります。裁判所が被告にそういうアドバイスをすることもあります。ですから、原告側としては欠席すればそういうリスクを負うことになります)。

 第1回口頭弁論に被告が出席している場合、地方裁判所では、被告が出席していても、次回の宿題を示唆して次回期日を決めて終わるのが通常ですが、簡易裁判所の場合は、たいていは和解の勧告があり原告側・被告側の出席者と司法委員1人が別室に行って和解の意向の聞き取りや和解案の調整が行われます。素人の本人がほとんど準備もなく法廷で主張をし始めたり事前に準備書面等を提出してはいるものの内容が整理されていないような場合も、司法委員とともに別室に行って聞き取りがされることが多いと思います。

 簡易裁判所の場合、先に説明したように、第2回以降も片方の当事者(実質的には被告側)が欠席しても準備書面等が提出されている限り擬制陳述で進めることになり、第1回と第2回以降で行うことはあまり変わりません。

和解と和解に代わる決定

 口頭弁論期日に原告側と被告側がともに出席しているときは、当事者間で予め話し合いができていれば、その場で和解が成立します。これは地方裁判所の場合でも同じです。
 予め話し合いがなされていなかったり、話し合いはしたが合意できていなかった場合でも、簡易裁判所では、先に説明したように原告側も被告側も出席していれば、裁判官は多くの場合、司法委員による和解の調整を指示します。別室で調整して和解の合意ができた場合は、その場で法廷に戻ってきて、裁判官が司法委員から聞いた和解内容を当事者にこれでいいかと確認してその場で和解成立となります。

 和解は、原則として原告側と被告側がともに出席していないとできませんが、簡易裁判所では、片方が欠席しているときでも和解案を示した上申書を出すと「和解に代わる決定」(裁判業界では略して和決(わけつ)と呼んでいます)というのを出すことができます(民事訴訟法第275条の2)。この決定に対して当事者から2週間以内に異議申立があれば和解に代わる決定は効力を失います(なかったことになります)が、異議がなく2週間が経過するとその内容で和解成立となります(民事訴訟法第275条の2第3項~第5項)。

 他方、当事者、特に被告側が、言い分がないということで答弁書も出さずに欠席するとほぼ確実に欠席判決になり、訴状で請求されているとおりの判決(金銭の支払を求める裁判なら全額の即時一括払い)が出ることになります。
 簡易裁判所が訴状を被告に送るときに同封される答弁書のひな形に分割払いの希望等を書くように指示されていますが、これを書いた場合でも、被告側が欠席していると、ほとんどの場合、裁判所は原告側に、被告から分割払いの希望があるがどうするかと聞いて、原告側がそれでいいといったらその内容で和解に代わる決定を出してくれますが、原告側が飲めないといえばそのまま欠席判決に進むことになります。
 簡易裁判所は、裁判官にもよりますが、多くの場合、事件を和解で終わらせることに並々ならぬ意欲を持っていますので、被告側にまったく言い分がない場合であっても、被告側が出席していれば、司法委員が調整することで被告側の事情や意向(月々の支払額や分割回数等)もある程度は入った和解が成立する可能性が高いと思います。傍聴席で見ていても、私は、法的には本人の言い分がない事案でもというか、そういう事案こそ、簡易裁判所に行って事情を説明した方がいいと思います。

 これに対して、和解したくない事案では、簡易裁判所は弁護士にとっては苦痛です。特に、過払い金請求の事件が多かった頃、これも裁判官によりますが、東京簡裁では、貸金業者が過払い金元金の8割程度の和解案を示すと借主(過払い金債権者)側に強硬に和解するよう説得にかかることが多かったのです。裁判官によっては、借主側が和解を拒否すると、過払い金が全額取れるなんて思うのが間違ってるとか、判決なんか書きませんよ、和解を拒否するなら和解に代わる決定を出しますよなどと法廷で公言する裁判官もいました。事件数があまりに増えて感情的になっている感じがありありで、こちらも事情はわかるけど、それで妥協するわけにも行かないし、司法委員に対してこの件ではこの水準では和解できないという理由をあれこれ説明するのに苦慮することが少なくありませんでした。最近は過払い金請求の事件数が減ったこともあり、そういう殺伐とした雰囲気はなくなりましたけど。

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