訴状作成:私の基本姿勢

私の基本姿勢

 私が、訴状を作成する際に、心がけていることをとりまとめていうと、訴訟提起段階で認識した事実関係と手持ち証拠の範囲で、その事件で裁判官が知りたいと考えるであろう事実を、原告側がアピールできるストーリーと法律構成に沿って、裁判官が理解しイメージできるような構成(順序)と表現で書き切るということです。
 それは、訴状に記載する事実と提出する証拠の範囲でいえば、基本的に「隠し玉」は持たない、相手が主張することが予想される主張(反論)についても可能なら書いてしまう(ただし、それを書くことで主張がややこしくなってわかりづらくなりそうなときは、きちんとした再反論は後日に回しますが、訴状でも一定の対応はするよう心がけています)ということを意味します。
 この点については違う見解を持ち、違う対応をする弁護士が少なくありませんが、私は、裁判に勝つこと、特に早く勝つことを考えたとき、以上のようなやり方がよいと考えています。

訴状段階でどこまで書くか

 訴状には、必要最小限のことを書き、手持ち証拠もすぐには出さない、相手の出方もわからないうちに手の内をさらすのは愚策であると考える弁護士は、少なくありません。
 私が弁護士になった頃(1980年代半ば!)には、そういう考えが、たぶん主流だったと思いますが、今でもそういう考えの弁護士がいます。その考えは、1つには当時は裁判所側でも判決書の形式が当事者の主張を請求の類型に応じて、主張立証責任(しゅちょうりっしょうせきにん)で振り分けて「請求原因(せいきゅうげんいん:原告に主張立証責任がある)」「請求原因に対する認否」「抗弁(こうべん:被告に主張立証責任がある)」「抗弁に対する認否」「再抗弁(さいこうべん:原告に主張立証責任がある)」「再抗弁に対する認否」・・・(以下、「再々抗弁(さいさいこうべん:被告に主張立証責任がある)」等が続く)というように整理する必要があり、「請求原因」「抗弁」「再抗弁」といった「要件事実(ようけんじじつ)」を中心に(それのみを)主張すべきことを求めていたこと、弁護士の側に自分の側(依頼者)に理論上不利なことはいう必要がなく自分の側の主張立証責任があることだけを主張立証して相手方が自分に主張立証責任があることを主張立証し損ねたらそれで勝てるのでありまたそうやって勝つのが弁護士の技術(テクニック・手腕)だというような意識があったことに支えられていました。要件事実のみを書く訴状は、とにかく必要最小限のことだけ書いてさっさと訴訟を起こしてしまうという意味もありました。
 しかし、現在では、判決書の形式が争点主義になり、「請求原因」「抗弁」「再抗弁」という仕分けは不要になりました(この点について不満を持つ裁判官もいるようですが)。また1996年の民事訴訟法改正(1998年1月1日施行)もあり、その頃から民事裁判のトレンドとして、主張と基本書証の早期提出が求められるようになりました。
 自分に主張立証責任があること以外は主張せず、証拠も早期提出せずに小出しにする(手の内はさらさない)という弁護士は今も相当数いますが、相手が主張立証をできなかったとか忘れたということにつけ込んで勝とうという姿勢自体、こすい/せこいものですし、近年は、多くの裁判官には受けが悪いと思います。
 裁判官の立場に立てば、早期に主張と証拠の全体像を知りたいと考えるのが当然です。そして原告の主張を説明し説得するにも、全体像を示した方が細切れの主張よりも、裁判官に理解しやすく説得力があるのがふつうです。その上に、できる限り全体像を示し証拠も(隠し玉とか手の内をさらさないとかいわないで)早期に出してフェアな姿勢を見せることで裁判官の印象もよくなることが多いのですから、私は、「最小限しか主張しない」「自分に主張立証責任があることしか主張しない」「手の内をさらさない」などという弁護士のやり方は、そういうやり方をするのは自由ですが、今どきは依頼者のためにもならないと考えています。
 また、私が弁護士になった頃は、民事裁判はとにかく時間がかかるものということで、弁護士は早さということはほとんど気にかけていなかったと思います。主張立証責任があることしか主張しないという姿勢だと、一通りの主張が出るまでにやりとりする回数がどうしても多くなります。今でも通常の民事裁判の口頭弁論期日(こうとうべんろんきじつ)や弁論準備期日(べんろんじゅんびきじつ)の間隔は1か月程度ですから、準備書面による主張のやりとりが1往復増減するだけで裁判にかかる期間は約2か月増減することになります。少しでも早い解決を考えれば、最初から(訴状から)全面展開が原則だと、私は思います(事実関係の確認や証拠書類の探索・確認等をきちんとするために2~3週間遅くなっても、最初からきちんとした訴状を出した方が、結果的には裁判は早くなると考えます)。

相手方の主張への対応

 訴状段階で相手方の主張への反論まで書くことは、労力もかかりますし、相手がそれを主張するかどうか確定していないわけですから相手が主張しなければ無駄になるともいえます。
 しかし、訴状できちんと対応することで、相手方が主張するはずだったことを主張しても通らないと諦めて主張しなくなるということもあり得、それはそれで訴状が有効打となったということです。
 訴状でまったく触れないでいた(触れることを避けた)相手方の主張(原告に不利な事実)が答弁書や被告の最初の準備書面で全面展開されると、その事実に訴状で触れなかった(隠していた)ことで裁判官の心証が悪くなりかねませんし、訴状段階で少しであっても相手方の主張に予め反論しておくことで、相手方からの主張は「想定内」のものと受け止められ、また重要性が低く評価されうるものとなります。
 個別事件の事実関係次第ですが、私は、相手方の主張への反論も書けるものは、訴状段階でできるだけ書くことにしています。

裁判官の理解を中心に考える

 訴状も、答弁書も、準備書面も、裁判で提出する書類はすべて、裁判官を説得するための書類です。
 その裁判の目的が、勝つことではなく、裁判を起こすこと自体にあるとか、言いたいことを言えればそれでいいというのなら別ですが、裁判に勝つことを目的としている限り、訴状等の書類に書くべきことは、自分の言いたいことではなく、相手方の悪口でもなく、原告の請求について理由があると裁判官が考えることにつながる事実と法律構成であり、それを裁判官が理解しやすいように書くことが必要だというのは、当然だと思います。
 原告に有利と思われる事情であっても、裁判官にとってその請求を判断するのに不要な(関係がない)事実を延々と書くのは、裁判官にとって読むのが苦痛ですから、当然に避けるべきです。
 裁判官が知りたいと思われることがらと、裁判官に理解しておいてもらうことが原告側のストーリーへの正しい理解というか支持につながると思われることがらを、個別事件の事実関係の中から拾い出して、原告側のストーリーを理解しやすい構成に組み立てて、裁判官が読む意欲を持ち続けられる程度の長さの文章にまとめることが、弁護士の技術なのだと、私は思います。
 裁判官の理解しやすい書き方という点では、論理的な順番を外さない、事実関係は時系列に沿って書く、長くなったり時系列を外さざるを得ないときは小項目を取って適切な見出しをつけてまとめたり目立たせる、特定の業界やましてやその会社特有のルールや概念・用語法などは第三者がわかるように説明するなどは、当然として、具体的にどうやっていくかは、個別事件の個性もあり、毎度試行錯誤して、よりよいものをと今もチャレンジを続けているというのが、実情です。

訴状作成の目標

 私は、訴状を作成するとき、それを読んだ(引用している同時に提出した書証も見た)裁判官に、被告から答弁書(答弁書が「請求の趣旨に対する答弁(せいきゅうのしゅしにたいするとうべん)」だけの1回先送りの場合は、被告の最初の準備書面)でたいした(できれば「よほどの」)反論がなければ、すぐにでも(証人調べもいらず)判決できると思ってもらうことを、目標にしています。
 もちろん、そこまでできるかどうか(あるいは、現実的に、それを目標とすべきかどうか)は、個別事件の事実関係や原告本人が持っている証拠の程度によりますが。

過払い金請求訴訟の訴状

 一般の事件と異なり、過払い金請求訴訟では、ほとんどのケースで事実関係はあまり問題とならず主として法律論と判例の解釈が争点となること、大部分の事件が判決ではなく和解で決着することが特色となります。
 訴状の作成という点で見ると、私は、過払い金請求訴訟の訴状でも、取引の分断(過払い金を一連計算できるか)が問題になるとき(つまり借主がいったん借金を完済し相当期間次の借入をしていない場合)や事実関係で問題があるとき(貸金業者が取引履歴を開示していない期間の取引とか、借主が貸金業者にあざむかれて和解している場合など)は、訴状でそのことは指摘するようにしています。過払い金請求訴訟の場合、裁判官も、和解による決着を期待していますので、最初の段階では訴状をきちんと読まない裁判官も少なくありませんが、最初から読み込んで法廷に臨む裁判官もいますから、手抜きはしないようにしています。
 しかし、貸金業者(被告)によって言ってくるであろう主張を訴状段階で先回りして反論するということまではしていません。それは、和解で終わる可能性も相当ある事件で訴状を分厚くすることが裁判官の負担となると見るからです。貸金業者毎の決まった主張への対応は、準備書面段階で工夫するようにしています。

定型の訴状

 ここまでにお話ししたように、私は、主張立証責任があることしか書かない最小限の訴状とか、書式集の文例のような定型の訴状は、基本的に書きません。
 ただし、そういう訴状が適切なケースもあります。どういうケースかというと、例えば貸金請求(貸したお金を借主が返さないから返せという裁判)で借用証書があり借主も借りたことと返していないことは認めておりただお金がないから返せないと言っているケースや、建物明け渡し請求で賃借人が賃料を何か月も滞納していて賃借人も賃料を支払わなければならないことは認めているがお金がないから払えないというだけのケースのような、どう考えても原告が負けようがないケースです。こういうケースは、ある意味どんな訴状でも勝つわけですが、むしろ余計なことは一切書かずに裁判官の注意をそらさないようにしてあっさり判決をもらうという姿勢の方が正解になります。

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