日本の民事裁判は遅い?

日本の民事裁判は遅いか

 日本の民事裁判は、時間がかかりすぎるという意見が、時々マスコミなどで言われるのを耳にします。特に、マスコミには、アメリカの陪審制(民事も刑事も陪審があります)や日本での裁判員制度(刑事裁判だけです)の集中審理と比較して、日本の民事裁判では口頭弁論の間隔が1か月かそれ以上あいて「五月雨式(さみだれしき)」に審理が進むことの評判が悪いようです。確かに判決まで1年程度かかると言われたら、ずいぶんとかかるなぁという気持ちになるでしょう。しかし、少なくとも、外国(特にアメリカ)と比べて遅いというのは、間違いだと思います。

日本の民事裁判の平均審理期間

 日本の民事裁判の平均審理期間(提訴から終了までの期間)は、実際のところ、どれくらいでしょうか。
 最高裁は、2005年以来2年ごとに、裁判の平均審理期間の変化とそれに影響すると考えられる要因を分析した「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」を公表しています(裁判所のサイトで読むことができます)。
 この最新版で2017年7月21日に公表された「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第7回)」によれば、2016年中に終了した地裁の民事第一審事件(総数148,016件)で判決に至ったもの(61,323件)のうち被告が争わなかった欠席判決(けっせきはんけつ:24,520件)を除いたもの(裁判業界の統計用語では「対席判決(たいせきはんけつ)」:36,803件)の平均審理期間は12.9か月とされています。ちなみにそこから過払い金請求事件の対席判決(10,705件)を除いた場合の平均審理期間は13.4か月となっています。過払い金請求事件も判決に至るということになると、それ以外の通常民事事件とかかる期間はあまり変わらないということですね。
 一般的に裁判というときに想定される、原告と被告が争って判決に至るケースでは、平均的に1年あまりかかるということです。一般世間の尺度では、とんでもなく遅いということになるのでしょう。
 この期間は、労働事件ではさらに長くなっています。2016年中に終了した労働事件全体(3,400件)の平均審理期間は14.3か月、人証調べを実施した事件の平均審理期間は21.2か月にも及んでいます。労働事件の平均審理期間は、2004年まで短縮化傾向にありましたが、2009年以降再度長期化傾向になっています。私の実感でも、例えば解雇事件で使用者側がちりも積もれば山となるというような主張をしている場合に、2000年代半ばころは私が一体そのうちどれが重要な解雇理由ですかと文句をいうと裁判官も同調したり、私が言わなくても裁判官の方で使用者側に解雇理由を絞るように要求していました。しかし近年は裁判官が使用者側に解雇理由を絞るように要求する姿はあまり見られず、使用者側の引き延ばしにあまり歯止めがかからない印象です。労働事件、特に解雇・雇止めの事件では、労働者側は裁判が長期化すれば生活が大変になります。使用者側は痛くもかゆくもないのでしょうし、使用者側の弁護士の多くはタイムチャージ(1時間当たりいくら)で弁護士費用をとっています。労働事件での使用者側の引き延ばしには、本当に腹が立ちます。
 労働事件、特に解雇・雇止め事件での労働者が置かれる状態を考えると、民事裁判にかかる期間はあまりに長く、多くの労働者が申立から2~3か月でたいていは決着がつく労働審判を希望するのもわかります。
 ただ、裁判という制度の意味、きちんと証拠に基づいて事実認定をして丁寧に判断するという点からは、1年くらいの期間はしかたがないという感覚も、裁判実務をしている立場からは、あります。

アメリカの民事裁判の審理期間:アメリカの民事裁判は早い?

 アメリカでは、民事裁判についても一般市民が(一般市民だけで)判決の結論(原告の勝訴・敗訴、被告に支払を命じる額等)を決める「陪審制(ばいしんせい)」がとられています。陪審制では、一般市民を長期間拘束することはできませんから、陪審による審理(正式裁判:トライアル)は集中して連日行われ、多くの事件では1週間以内に終了します。
 しかし、正式裁判を短期間に終わらせるためには、その前段階で裁判官と双方当事者(の弁護士)の間で正式裁判に提出する証拠の厳選、その前提として証拠開示などのトライアル前手続を重ねる必要があり、これに相当な期間がかかっています。その部分は非公開なので、マスコミ、特に外国(日本)のマスコミには見えないだけです。
 2015年中に連邦地裁でトライアルが完結した事件(総数2,584件)の審理期間の中央値は26.8か月、陪審トライアル(1,873件)は27.7か月、裁判官によるトライアル(711件)は24.1か月、州第一審裁判所についてはやや古い調査になりますが1992年の調査によれば、陪審トライアルの審理期間の中央値が827日、裁判官によるトライアルの審理期間の中央値が632日となっているそうです(「アメリカ民事手続法[第3版]」浅香吉幹、弘文堂、2016年、8~9ページから孫引きです)。中央値は、平均値よりも小さくなるのがふつうですから、日本の統計に合わせて平均審理期間をとるとさらに長くなると考えられます。
 この数字を見ると、アメリカで正式裁判手続が取られた場合、日本の対席判決全体平均の2倍以上、通常より長期間かかっている労働事件で人証調べをした場合と比較してもそれ以上に長くかかっているということになります。
 つまり正式裁判として証拠調べ・人証調べをして判決をする事件(これがふつうの人が想定する裁判でしょう)に関していえば、アメリカの民事裁判の方が、日本の民事裁判よりもずいぶんと長い期間がかかっているというわけです。
 少なくとも、アメリカと比べて、日本の民事裁判は遅いというようなことをいうのは、もういい加減やめてほしいなと思います。 

  • はてなブックマークに追加
  • 日本の民事裁判は遅い?:庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

「民事裁判のしくみ」の各ページへのリンク

「民事裁判の話」の各ページへのリンク