反対尋問に思う

答えを予測できない質問はしない?

 尋問技術の教科書的な本は、ほぼ口をそろえて、答を予測できない質問はしないのが反対尋問の鉄則だと述べています。守りを考えればその通りです。しかし、そんなことをいっていたら重要なことはほとんど聞けなくなりかねません。
 アメリカでは、陪審裁判ですから、当然証人尋問は連続して行われ、反対尋問も主尋問に引き続いて行われます。しかし、アメリカでは、法廷が開始される前の準備期間(数か月とか時には数年かけてやります)に事前にすべての証人について、双方の弁護士が裁判所の速記官が記録する場所で尋問をすることができます。しかもこれは証拠開示手続ですからこの時の尋問は証拠になりません。こういう制度の下では、弁護士は、裁判官がいない場所で相手方の証人にあらかじめ反対尋問のリハーサルをしたり先に確認しておきたいことを聞けるわけです。しかも証人が本番では違うことを証言したら、裁判所の速記官がとった記録がありますから、それは法廷で指摘できるわけです。弁護士は証人の答の多くを予測して尋問できますし、リハーサルでしくじったことは尋問から外せますし、他方証人は事前の答に拘束されるのです。弁護士にとっては大変反対尋問をやりやすい条件になります。
 こういう手続(ディスカバリーといいます)があるからアメリカでは迅速に尋問ができるのですし、「答を予測できない尋問はしないのが反対尋問の鉄則」などといっていられるのです。近年の日本は、アメリカで迅速な法廷(法廷開始前の準備段階が長期間ありますから全体として「迅速な裁判」とは、私は言いません)を支えている制度は導入しないで(端的に言うと、大企業等の社会的に有利な条件にある者の優位性を崩す制度は導入しないで)、裁判の迅速化ばかりを進める傾向にあります。

現実的にはどうする?

 日本の制度に文句ばかりいっていても始まりません。日本の制度の下でどうするかを考えるのが、私たちの仕事です。
 私の経験では、日本の、弁護士にそれほど有利といえない制度の下でも、「鉄面皮のうそつき」はそれほど多くないように思えます(客観的に嘘でないかは、厳密にはわかりませんから、単なる印象ではありますが)。大きな組織を背負った証人ほど、特に公務員ほど、平気でうそを言うという印象ですが(繰り返しになりますが、客観的に嘘かどうか完全にはわかりませんので、あくまでも印象ですが)。
 敵性証人が、どうして大筋は本当のこと(と思われること、自分に不利になること)を話してくれるのかを考えると、多くの人はやはりなにがしかの良心を持っていること、それと人前で自分が嘘をついたことを暴露されて恥をかきたくない(ばつの悪い思いをしたくない)と考えていることが理由だろうと思うのです。
 そうすると、反対尋問のコツは、否定できないような客観的な証拠で追い詰めることと、この弁護士の前で嘘を言ったらばれると思ってもらうことにあるといえそうです(逆に言えば、弁護士が舐められると、嘘を言われやすい、本当のことは話してもらえないことになりがちだということです)。

 残業代と経営者のいじめ・パワハラの損害賠償を請求している裁判で、労働者側はいじめの態様は覚えているけれども時期を具体的に特定できず、客観的な証拠は何もなくて、経営者はいじめは全否定した挙句別の従業員にいじめなどなかったという陳述書まで書かせて提出している状態で、2016年9月に経営者の被告代表者尋問をやりました。
 残業代に関して、被告の準備書面や提出資料から否定できない事実を次々認めさせ、被告の主張の矛盾を突きつけて答えに詰まらせ、その後労働者が主張しているパワハラの事実を聞きました。
 裁判の経緯からして、当然ここは全否定だと予想していたのですが、意外にも経営者は労働者が主張するいじめを自分がやったことを認め、それもたびたびやったことを認めました。会社側の弁護士も唖然としていました。
 それまでに自分の裁判での主張と矛盾することを客観的証拠などで次々と認めさせられたことで、この点も嘘を言うとばれると思ったのかもしれません。あるいは、その前に証言した労働者本人がいじめの事実を証言するときに、思い出しても悔しいのか涙ぐんだことが、経営者の良心を動かしたのかもしれませんが。
 その日の人証調べの後、裁判官から和解勧告があり、そのまま書記官室エリアの小部屋で和解の協議となりました。民事裁判では、こういうことはよくあります。人証調べの前は被告側が蹴っていた和解案を裁判官が再度提案し、被告がこれまでと態度を変えてそれを受け入れ、その日に和解が成立しました。

相手をどこまで追い詰める?

 反対尋問で証人の証言が一部崩れた場合、どこまで深追いするかは、悩ましいところです。もちろん、一部崩れた勢いでどんどん崩れてくれればそれだけ有利になります。しかし、反対尋問をする証人は、多くの場合、敵方で、相手方の弁護士と十分に打ち合わせをして証言に臨んでいるわけです。相手方の主張と矛盾する事実を証言する羽目になっても、動かぬ証拠があって仕方なく認めている場合でなければ、相手方の主張と矛盾することに気づいていないことが多いのです。その時とどめと思って、そうすると相手方のこの主張は嘘ですねとか聞いたら、ハッと気づいて立て直しに入ることが予想されます。依頼者や傍聴席からは「先ほどの証言は嘘でした」とか「相手方の主張は嘘です」なんて言わせて欲しいと期待されますが、敵性証人がそんなことを言うことはおよそ期待できないものです。深追いして言いつくろわれるよりは、矛盾のまま残しておく方が得なのです。どのあたりまでこの証人が認めるのかを見つつ、引き時を考えるのが実情です。現在の日本の裁判では、最終的には、裁判官は、証言調書を読み、双方の最終準備書面を読んで判断します。ですから、最終準備書面で矛盾が指摘しやすい調書を残すことが、大事です。そういう観点では、尋問相手(敵性証人)に自分がダメージの大きな証言をしてしまったとあまり思わせずに、主観的にはうまくいっていると思ってもらいながら、こちらのペースに乗せて多くの点でこちらが後で使いやすい証言を残してもらうのがベストとさえいえるのです。
 もっとも、近年は人証調べは1期日だけで、その次の期日に最終準備書面を提出して弁論終結、判決に至るのが通常ですから、尋問当日の裁判官の心証形成が判決まで影響を残すということが考えられます。また、人証調べの当日に、そのまま和解の話し合いがなされるというケースも多く、和解を有利に進めるという観点では、調書の記載ではなく(その時点ではもちろん調書はできていませんし)その日の尋問期日の心証をよくする方がいいということになります。その場合、こちらが最終準備書面で具体的に指摘して初めてなるほどと納得する話ではなく、法廷での印象でもこちらが敵性証人や相手方当事者をやり込めた(主張を叩き潰した、1本取った)形にすることが効果的です。裁判官の心証だけではなく、相手方にダメージ(やられたなぁという印象、これじゃあ負けそうだという印象)を与えることが、和解条件を有利にすることになります(上で挙げた例など、典型的です)。そうなると、反対尋問でも、畳みかけダメを押しという力技が求められることになります。そのあたりの判断が、難しく悩ましいところです。

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