訴訟費用の負担(訴訟費用の取り立て)

 勝訴したとき、裁判所に納めた費用などを相手から取り立てるにはどうすればいいか知っていますか。

訴訟費用の負担

 民事裁判の判決では、主文で、原告の請求に対する判断とともに、訴訟費用をどちらがどれだけ負担すべきかの判断が示されます(民事訴訟法第67条)。
 それにより訴訟費用の負担割合は決まりますが、実際の取立をする場合は、訴訟費用額確定処分(そしょうひようがくかくていしょぶん)という手続をする必要があります(民事訴訟法第71条)。現実の民事裁判では、判決で訴訟費用の負担が定められても、訴訟費用額確定処分までは行わずに訴訟費用の取り立てがなされずに終わることが多いです。

訴訟費用の負担の主文の意味

 訴訟費用の負担に関しては、原告側の全部勝訴ならば通常「訴訟費用は被告の負担とする」とされますし、原告側の全部敗訴なら通常「訴訟費用は原告の負担とする」となります。
 一部勝訴 の場合は、通常、請求額に対してどれだけの請求が認容されたかに応じて、原告、被告に負担を配分します。原告の請求の約4分の3が認められれば、通常は 「訴訟費用はこれを4分し、その3を被告の負担とし、その余を原告の負担とする」(「訴訟費用はこれを4分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする」でも同じ)というような形になります。
 訴訟費用の負担が一部ずつとされた場合の読み方について簡単に説明します。上の4分の1が原告負担、4分の3が被告負担の場合、原告が裁判所に納めた費用と次に説明する納めていないけど請求できる費用の額の4分の3を原告が被告に請求でき、被告が裁判所に納めた額と被告が納めていないけど請求できる費用の4分の1を原告に請求できて、現実にはその差額で決済するということになるのです。
 裁判所に納めるべきだけど納めていない訴訟費用(訴訟救助を受けた費用)は、負担割合に応じて裁判所から直接請求されます。

訴訟費用の内容と計算

 相手方に負担させる、すなわち請求することができる訴訟費用には、大きく分けて裁判所に納めた訴訟費用と納めていないけど請求できる訴訟費用があります。

裁判所に納めた費用

 裁判所に納めた費用は、印紙、予納郵券(ただし、訴訟費用となるのは裁判所からの送達等に支出された費用です。実質的には、予納した郵券額から裁判所から返還された残郵券額を差し引いた費消額)、証人の旅費・日当、鑑定費用等があり得、現実に納めた額を基準に計算します。

申立手数料(印紙)

 裁判所に納めた印紙額が訴訟費用の額となります。
 訴状に貼った印紙額の他に、訴えの変更(請求の拡張)をして印紙を追加納付した場合はその額も加えます。

送達等の費用(郵券)

 訴え提起時に裁判所に納めた予納郵券(裁判所により金額が違います。東京地裁に1審通常訴訟を提起する場合で被告が1名のときは6000円)、その後裁判所から追加納付するように求められて追加納付したときはその額も加えたもののうち、裁判所からの送達等に使われた額が訴訟費用の額となります。
 理屈としてはどの書類の送達にいくらという計算をすべきことになります(訴状副本等の送達にいくら、判決正本の送達にいくら等)が、それは厳密には、記録閲覧をするか書記官に聞かなければできません。少なくとも、被告が1名の場合、全体として郵券の費消額(納付額と返還された額の差額)を訴訟費用の額として問題ありません。
 準備書面や書証を相手方に直接郵送等をした場合の費用は、訴訟費用に含まれません(最高裁2014年11月27日第一小法廷決定:判例時報2291号15ページ)。

裁判所に納めていないけれども請求できる訴訟費用

 裁判所に納めていないけれども請求できる訴訟費用には、書類作成提出費用、当事者・代理人の出廷旅費・日当などがあります。

役所等からの書類取り寄せ提出費用

 裁判所に提出する役所等からの取り寄せ書類(代表的には、会社を相手に裁判を起こすときの「資格証明書」となる商業登記簿謄本)の提出費用は役所に払う手数料プラス168円(取り寄せに通常必要な往復郵送料。これは現実の費用と関係なく)が認められます(民事訴訟費用等に関する法律第2条第7号、民事訴訟費用等に関する規則第2条の3)。

書類作成提出費用

 書類作成提出費用は、提出した訴状や答弁書、準備書面が5通以内なら1500円、6通以上20通以内ならそれに1000円追加(以後15通区切りで1000円ずつ追加)となります(民事訴訟費用等に関する法律第2条第6号、民事訴訟費用等に関する規則第2条の2、別表第二第1項)。また提出した証拠書類が16通以上65通以内ならまた1000円追加(以後50通区切りで1000円ずつ追加)となります(民事訴訟費用等に関する法律第2条第6号、民事訴訟費用等に関する規則第2条の2、別表第二第1項)。

当事者・代理人の出廷旅費

 当事者・代理人の出廷旅費は、住所・事務所と裁判所が同じ簡易裁判所管轄内の場合は、1回300円と決められています(ただし、両者の距離が500メートル以内の場合は0円)(民事訴訟費用等に関する法律第2条第4号、第5号、民事訴訟費用等に関する規則第2条第1項第2号)。
 裁判所と住所・事務所が離れている場合の出廷旅費はどうなるでしょう。民事訴訟費用等に関する法律では、裁判が行われた裁判所(所在地を管轄する簡易裁判所)と住所・事務所所在地を管轄する簡易裁判所の距離を基準として最高裁規則(民事訴訟費用等に関する規則)で定める額とされています(民事訴訟費用等に関する法律第2条第4号イ(1)、民事訴訟費用等に関する規則別表第1。なお、民事訴訟費用等に関する法律の規定は2つの簡易裁判所庁舎の所在する場所の「距離」と定めていますが、これは当然に直線距離を意味するものと解されています)。この金額は、10km未満は300円、10km以上100km未満は1kmあたり30円、100km以上301km未満は1kmあたり50円です(1km未満の端数切り捨て:民事訴訟費用等に関する規則第2条第1項第1号)。たとえば東京23区内に住所・事務所がある当事者・代理人がさいたま地裁に出廷する場合、直線距離は22kmで1回660円となります(さいたま地裁で訴訟費用額確定処分を申し立てたらこの金額でしたので確実です)。同様に東京23区内に住所・事務所がある当事者・代理人が名古屋地裁に出廷する場合、直線距離は265kmで1万3250円となるはずです(こちらは私の試算です)。この金額は現実の交通費よりかなり低く決められています。
 そういう場合に備えて、民事訴訟費用等に関する法律では通常の経路及び方法で裁判所に行ってその際に支払った実額が最高裁規則で定める額を上回る場合、「領収書、乗車券、航空機の搭乗券の控え等の文書が提出されたときは、現に支払つた交通費の額」とされています(民事訴訟費用等に関する法律第2条第4号イ(1))。この文書はどの程度のものを出す必要があるでしょうか。
 最高裁事務総局民事局監修の「民事訴訟費用等に関する執務資料(全訂版)」(2004年10月発行)では、「これらの疎明資料の提出が困難な場合には料金表や料金に関する交通機関からの聴取書等に加えて、当該交通機関を現実に用いたこと等に関する陳述書を提出させることになろう。」としています(同17ページ)。私の経験では、京都地裁のケースで、新幹線の切符は事前にコピーして領収書も取っておいたのですが、京都駅から裁判所最寄りの地下鉄丸太町駅までの地下鉄はどうしたらいいですかと京都地裁に恐る恐る聞いたところ、毎回地下鉄に乗って裁判所まで行きましたという陳述書を出せばいいですと言われホッとしました。他方、エイワに対する過払い金請求の事件を保土ヶ谷簡裁(エイワの本店所在地の横浜市西区を管轄)でやって訴訟費用額確定処分の申立をした際、京都地裁でやった例に従い、神田駅からJRで横浜駅まで550円、横浜駅から相鉄バスで交通裁判所まで216円の陳述書を出したところ、保土ヶ谷簡裁では領収書が出ない限り最高裁規則に従い1回390円しか認めないということでした。さいたま地裁に訴訟費用額確定処分を申し立てる際に聞いたところでは、やはり領収書が出ない限り規則所定の直線距離に従い1回660円しか認めないということでした。
 実額請求の場合、「最も経済的な」「最も低額の」とは定められていませんので、合理的一般人が選択するであろう経路であれば認められます。私の経験では、京都地裁で、JR京都駅から京都地裁までは、地下鉄烏丸線の料金(京都市営バスの方がわずかながら安いのですが)が認められました。

 代理人が2人以上出廷した場合は、金額が一番安くなる人の1人分だけが認められます(民事訴訟費用等に関する法律第2条第5号)。
 当事者と代理人がどちらも出廷した場合、当事者が出頭命令または呼出を受けた場合以外は、当事者の分の旅費のみが認められ、代理人の分は認められません(民事訴訟費用等に関する法律第2条第5号)。当事者本人尋問の期日は、当事者本人と代理人がともに出席すれば、当事者分の旅費も代理人分の旅費もともに認められます(最高裁1967年5月19日第二小法廷決定)。
 そして、代理人の旅費は本人の旅費として認められる範囲内でしか認められません(民事訴訟費用等に関する法律第2条第5号)。代理人が遠くの裁判所に出廷する場合でも、本人がその裁判所の近くに住んでいる場合は本人を基準に計算し、本人がその裁判所と同じ簡易裁判所の管轄内に住んでいれば、代理人の旅費は現実にはどんなに多額の旅費がかかる場合でも1回300円となります。

当事者・代理人の日当

 当事者・代理人の出廷日当は、1日3950円と決められています(民事訴訟費用等に関する法律第2条第4号ロ、第5号、民事訴訟費用等に関する規則第2条第2項)。(通常の経路及び方法によって出廷のために宿泊を要する場合は、要した日数1日につき3950円の日当と、別途宿泊料も訴訟費用となりますが、国内からの出廷の場合、今どき2日以上を要することはたぶんないかと思います)
 当事者・代理人の日当は、(旅費とは異なり)現実に裁判所に出廷した場合だけでなく、電話会議(Web会議も同様)により裁判所に行かずに期日に参加した場合にも認められます(最高裁2014年12月17日第二小法廷決定:判例時報2291号16ページ)。
 代理人が2人以上出廷した場合には1人分だけ、当事者と代理人がともに出廷した場合は当事者本人尋問の期日など当事者が出頭命令や呼出を受けている場合以外は当事者分だけが認められることは、旅費で説明したのと同じです。

 判決言渡期日は、通常、弁護士は出廷しません(判決書をもらうために言渡時刻後に書記官室に行くことはときどきあります)が、言渡期日に出廷した場合、その旅費日当は訴訟費用となるでしょうか。「民事訴訟等の費用に関する書記官事務の研究」(書記官実務研究報告書、2018年)は、判決言渡期日を含むとしています(同報告書29ページ)し、さいたま地裁に訴訟費用額確定処分を申し立てた際の書記官の意見では判決言渡期日を除外する理由はないということでしたので、現に出廷して請求すれば認められそうです。ただし、法廷に行っても出頭カードに記名しないで傍聴席で言渡を聞いただけでは期日に出廷した扱いにならないので、その点は注意する必要があると思いますが。

訴訟費用額確定処分

 訴訟費用の取り立てを行う場合、訴訟費用額確定処分の申立をして、確定処分を受ける必要があります(民事訴訟法第71条)。
 訴訟費用額の確定処分は、判決が確定した後に1審の裁判所の書記官が行います(民事訴訟法第71条第1項)。
 訴訟費用額確定処分申立は、申立書と訴訟費用額の計算書(必要に応じてそれを裏付ける書類も)を1審の裁判所の民事受付に提出します。申立書の副本(申立書と同じものをつくって印鑑を押します。訴訟費用額の計算書もつけます)は、民事受付に持っていくのではなく、相手方に直接送ります(民事訴訟規則第24条第2項。FAX送信で OK:民事訴訟規則第47条第1項)。
 受付で民事雑事件として事件番号が振られ(事件番号の記号は「モ」になります)、担当書記官に送られます。
 申立があると、書記官は相手方に対して相当の期限を定めて、意見書の提出を求めます(ただし、相手方が訴訟費用を全部負担すべき場合で訴訟費用の額が記録上明らかなときは意見書の提出を求めないことがあります)(民事訴訟規則第25条第1項)。相手方は、通常は、相手方に生じた訴訟費用を主張して計算書とともに提出します。もちろん、申立書の計算等に誤りがあるときはそれを指摘します。
 相手方の意見書が出た後(あるいは相手方が意見書を提出せずに定められた期間を経過した後)書記官は、訴訟費用の支払を命じます。双方が一部ずつ訴訟費用を負担すべき場合で、相手方にも訴訟費用が生じている場合は、両者を相殺して差額のみの支払が命じられます。この書記官の作成する文書は「訴訟費用額確定処分」と記載され、この文書によって強制執行をすることができます。
 訴訟費用額確定処分は、早ければ(訴訟費用が100%相手方負担のシンプルなケースで、担当書記官が慣れている場合)申立から1週間足らずで出ますが、計算が複雑だったり、担当書記官が慣れていなかったり(訴訟費用額確定処分の申立はそれほどなされませんので、書記官が初体験ということもよくあります)すると2か月とか3か月かかることもあります。


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