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短くわかる民事裁判◆
再審事由
 民事裁判の確定判決に対する再審は、再審の訴えにより、再審事由があることが認められて初めて開始されます(開始決定がなされます)。開始決定がなされた後、確定判決がなされている事件についての審理(民事訴訟法の規定上は「本案の審理(ほんあんのしんり)」)が行われ、そこで確定判決が正当でないと判断された場合に初めて確定判決が取り消されることになります。その意味で、再審事由があると認められることが再審の入り口であり、これが認められなければそもそも再審は開始されません。
 再審請求をするためには、まずこの再審事由を理解することが必要です。

 民事訴訟法が定める再審事由は、次の10の事項(民事訴訟法第338条第1項各号)で、このいずれかに当てはまらない限り、再審は開始されません(これ以外の理由をいくら主張しても、再審開始が認められることはあり得ません)。

1.「法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。」:1号再審事由(民事訴訟法第338条第1項第1号)
 現実的には、同じことが上告理由とされていて、上告では、口頭弁論終結時の裁判官と別の裁判官が判決に署名押印しているとか弁論の更新手続をし忘れたときにそれを理由に原判決が破棄されていることがあります。
1号再審事由:判決裁判所の構成の違反で説明しています。

2.「法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。」:2号再審事由(民事訴訟法第338条第1項第2号)
 除斥事由がある裁判官が判決書に署名押印しているようなケースですが、実例は見当たりません。

3.「法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。」:3号再審事由(民事訴訟法第338条第1項第3号)
 未成年や成年被後見人などの訴訟能力がない当事者に法定代理人(親権者、後見人等)がつかないまま、あるいは法定代理人でないものが訴訟行為をしたり、当事者が選任していない訴訟代理人(弁護士)が訴訟行為をしたというような場合ですが、それ以外に訴状が被告に正しく送達されずに被告が知らないまま(手続に関与する機会がないまま)に判決がなされて確定した場合などもこれに当たるとされることがあります。

4.「判決に関与した裁判官が事件について職務に関する罪を犯したこと。」:4号再審事由(民事訴訟法第338条第1項第4号)
 裁判官が、その事件について職務犯罪(職権乱用罪、収賄罪、公文書偽造罪等)を犯した場合ですが、実例は見当たりません。
 「罰すべき行為について、有罪の判決若しくは過料の裁判が確定したとき、又は証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定裁判を得ることができないときに限り、再審の訴えを提起することができる。」といういわゆる「有罪判決要件」(民事訴訟法第338条第2項)も必要です。

5.「刑事上罰すべき他人の行為により、自白をするに至ったこと又は判決に影響を及ぼすべき攻撃若しくは防御の方法を提出することを妨げられたこと。」:5号再審事由(民事訴訟法第338条第1項第5号)
 他人から詐欺、脅迫、暴行、傷害、監禁などの刑事上罰すべき行為を受けて相手の主張を認めさせられたり、判決に影響するような重大な訴訟行為を妨害されたような場合です。
 「罰すべき行為について、有罪の判決若しくは過料の裁判が確定したとき、又は証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定裁判を得ることができないときに限り、再審の訴えを提起することができる。」といういわゆる「有罪判決要件」(民事訴訟法第338条第2項)も必要です。

6.「判決の証拠となった文書その他の物件が偽造又は変造されたものであったこと。」:6号再審事由(民事訴訟法第338条第1項第6号)
 判決の結論を左右するような事実認定の根拠とされた書証等が偽造または変造されたものであった場合です。
 「罰すべき行為について、有罪の判決若しくは過料の裁判が確定したとき、又は証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定裁判を得ることができないときに限り、再審の訴えを提起することができる。」といういわゆる「有罪判決要件」(民事訴訟法第338条第2項)も必要です。

7.「証人、鑑定人、通訳人又は宣誓した当事者若しくは法定代理人の虚偽の陳述が判決の証拠となったこと。」:7号再審事由(民事訴訟法第338条第1項第7号)
 判決の結論を左右するような事実認定の根拠とされた証人の証言や本人尋問の際の供述が虚偽の陳述であった場合です。
 「罰すべき行為について、有罪の判決若しくは過料の裁判が確定したとき、又は証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定裁判を得ることができないときに限り、再審の訴えを提起することができる。」といういわゆる「有罪判決要件」(民事訴訟法第338条第2項)も必要です。

8.「判決の基礎となった民事若しくは刑事の判決その他の裁判又は行政処分が後の裁判又は行政処分により変更されたこと。」:8号再審事由(民事訴訟法第338条第1項第8号)
 現実には、関連する裁判等が他にあって、その裁判結果を前提にされた認定に基づいて判決がなされたけれども、その後にその別の裁判等が覆されたときに問題になります。
8号再審事由:判決の基礎となった裁判等の変更で詳しく説明しています。

9.「判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断の遺脱があったこと。」:9号再審事由(民事訴訟法第338条第1項9号)
 当事者の主張のうちその事項を判断しなければ判決の結論を出せないはずであるような重要な事項について、判決書で採り上げることを忘れて判断しなかったような場合です。再審請求でよく主張される事由ですが、判例上「当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったときは」再審請求ができないとする民事訴訟法第338条第1項但し書き(再審の補充性と呼ばれています)の適用が厳しくなされることもあり、再審請求で認められることはほぼありません(上告では、たまに認められることがあります)。 

10.「不服の申立てに係る判決が前に確定した判決と抵触すること。」:10号再審事由(民事訴訟法第338条第1項第10号)
 その当事者が法的な効力(既判力:きはんりょく)を受ける別の確定判決と矛盾する内容の判決がなされたという場合です。これも8号再審事由と同様、実質的には、関連する別の裁判があるときの問題です。
10号再審事由:前に確定した判決との抵触で説明しています。

 私に再審の相談をしたい方は、「再審メール相談」のページをお読みください。

 再審については「再審請求の話(民事裁判)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる「再審請求」でも説明しています。

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