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8号再審事由:判決の基礎となった裁判等の変更
 「判決の基礎となった民事若しくは刑事の判決その他の裁判又は行政処分が後の裁判又は行政処分により変更されたこと。」という8号再審事由(民事訴訟法第338条第1項第8号)は、再審請求の対象とする確定判決より前に、その事件に関連する別の裁判や行政処分があり、確定判決が、その別の裁判等があったこと自体から一定の結論を導いたり、その別の裁判等の認定している事実をそのままあるいはその別の裁判等の判決等を主要な証拠として認定したというような場合に、判決確定後に、その別の裁判等が覆されたときを意味しています。
 通常は同じ当事者間に複数の事件(裁判)があって、その1つの事件での勝敗が覆ると他にも影響する、オセロゲームとか、親亀がこけると子亀もこけるというようなイメージを持ってもらえばいいと思います。
※再審請求で問題となるのは事実認定ですので、「判決の基礎となった」というのも事実認定に用いられたということで、法解釈がそれに依拠しているという意味ではありません。確定判決が(関係ない事件の)判例を引用しているときにその判例が変更されても、再審事由には当たりません。

 裁判で、先行する関連事件があると、そちらで勝訴した側がそのことを指摘し、判決文等を証拠で提出することがよくあります(むしろ提出されるのがふつう)。その場合、裁判所は、矛盾した判決を出すことを嫌うので、その判決があること自体でそれを自分が書く判決の前提としたり、その判決書を証拠としてその判決で認定された事実をそのままかほぼそのまま認定することが多いです。それがそのままになることが多いですが、先行した判決が後日覆った場合は、再審請求ができ、認められやすいということになります。

 学者さんの教科書では、不動産の所有権確認請求訴訟で勝訴した所有者がその後占有者に対して所有権に基づいて明渡請求する場合(その明渡請求訴訟の勝訴判決確定後に所有権確認請求訴訟の判決が取り消された場合)が挙げられるのが通例です。弁護士の感覚では、それなら最初から明渡請求をするでしょと思いますが。
 離婚請求訴訟で財産分与も併せて決定され、それで全部所有者となった側が居住している側に明渡請求をするというパターン(明渡請求の判決確定後に財産分与が取り消される)は、(取り消されるは稀ですが、財産分与後の明渡請求は)よくありましたが、これも最高裁が財産分与の審判で併せて明渡し命令ができるという決定(最高裁2020年8月6日第一小法廷決定)をしたので、今後は別手続を待たずに一気に追い出しをかけるのがふつうでしょう。
 こういう請求とああいう請求といった決まったパターンに限らず、同じ当事者間でたくさんの訴訟がある泥仕合のケースでは、いろいろなことが考えられるということを考えておけばいいかなと思います。

 同じ当事者間の裁判以外でも、労働者が傷病により休職し、休職期間満了で自然退職扱いとされたりなり解雇されて、それを争う場合に、労働者は労災(ハラスメントや長時間労働などが傷病の原因)と主張しているとき、労働者の労災申請が不支給となり、それを根拠として業務上の傷病ではないと判断した確定判決の後、不支給決定が取り消されたというような場合が想定できます。

 8号再審事由については、再審事由が確定判決の後から生じますので、民事訴訟法第338条第1項但し書きの再審の補充性(控訴・上告で主張したり、再審事由を知りながら主張しなかった場合は再審請求できない)が問題となることはありません。

 8号再審事由については、後日変更された別訴の判決や行政処分が、確定判決の基礎となったかどうかがポイントになります。それについては、「8号再審事由と判決の基礎となったの判断」で説明しています。

 8号再審事由が認められた事例として、遺産分割審判と共有物分割請求訴訟でのケースを「8号再審事由認容例:最高裁2014年1月16日第一小法廷判決」で紹介しています。

 庶民には縁がありませんが、特許紛争で8号再審事由が割と使われていることを「8号再審事由認容例:特許紛争」で紹介しています。

 なお、民事若しくは刑事の判決その他の裁判又は行政処分には公正証書は含まれず、判決等の基礎となった公正証書の効力が後の裁判で否定されても8号再審事由に当たらないとする裁判例がありますので参考までに「公正証書の効力否定は8号再審事由の裁判等の変更に当たるか」で紹介しています。

 私に再審の相談をしたい方は、「再審メール相談」のページをお読みください。

 再審については「再審請求の話(民事裁判)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる「再審請求」でも説明しています。

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