◆短くわかる民事裁判◆
10号再審事由:前に確定した判決との抵触
民事訴訟法第338条第1項第10号は、「不服の申立てに係る判決が前に確定した判決と抵触すること。」を再審事由と定めています(10号再審事由)。「抵触する」というのは、衝突する、矛盾するというようなことですが、ここでは相容れないという表現で説明します。
この再審事由は、再審請求の対象とする確定判決より前に確定した判決の効力(既判力:きはんりょく)と相容れない確定判決がなされたときに、後から確定した方の判決を取り消す(再審請求を認める)ことにより、両判決の衝突を解消しようとするものです。
これも8号再審事由の場合と同様に、基本的には同じ当事者間で複数の事件があるときの問題です。
実際に再審請求がされたケースとしては、信用金庫が借主に1961年3月20日付の5万円の貸金と同年4月15日付の5万円の貸金2件について支払命令(当時。債権者の申立てに応じてほぼ機械的に裁判所が発し、債務者が異議を述べなければ仮執行宣言がついて強制執行できるという制度。裁判所が実質審理していないのに命令だと誤解を招くというので、現在は「支払督促」になっています:民事訴訟法第382条〜第396条)を申し立て、1964年2月6日に益田簡裁が支払命令を出し、異議申立てなく仮執行宣言が出て確定。その後、借主が信用金庫に対して1960年10月15日付5万円の借金と1961年3月20日付5万円の借金2件について債務不存在確認請求をして松江地裁益田支部が1967年3月23日に借主勝訴(信用金庫敗訴)の判決を言い渡し、控訴なく確定。信用金庫が1961年3月20日付貸金について、敗訴判決が前に確定した判決と相容れないものだとして再審請求をしたというものがあります(松江地裁益田支部1969年5月23日判決の事案)。
同じ当事者間ではないものとしては、貸主が連帯保証人に保証債務の履行請求の訴訟(正確に言えば主債務者ともう1人別の連帯保証人も併せて支払命令の申立をし、連帯保証人が異議申立をして訴訟に移行共同被告にして)を提起して、1935年9月3日に一宮区裁が原告(貸主)敗訴の判決を言い渡し、敗訴した原告が控訴せずに同月22日に確定したところ、敗訴した原告はその直後にその債権を譲渡し、債権譲受人がその譲受債権の履行を求めて同年(1935年)10月2日に連帯保証人らに対する支払命令を申し立て、やはり連帯保証人が異議を申し立てて訴訟に移行し、1935年12月24日に一宮区裁が今度は請求を認容する判決を言い渡し、敗訴した連帯訴訟人が控訴せずに1936年1月12日に確定し、後の判決で敗訴した連帯保証人が、前に確定した債務がないという判決と相容れない判決だとして1937年1月9日に再審請求したものがあります(大審院1939年12月2日判決の事案)。
「前に確定した判決と抵触する」というのは、判決の効力自体が相容れないということで、判決がしている法解釈や証拠評価が別の判決と矛盾するとか異なるということは再審事由には当たりません。
再審原告が、再審請求の対象となる確定判決とは別の当事者間の最高裁判決等を引用した上で確定判決には民事訴訟法第338条第1項第10号の再審事由があると主張した事案で、大阪高裁2007年3月30日決定は、再審原告の主張は確定判決の判断が同判決と当事者を異にし既判力の抵触を生じない裁判例の判断と相反することをいうものにすぎないなどとして再審請求を棄却しました。
最高裁2007年9月26日第二小法廷決定は、「所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。」として許可抗告を棄却しました。(判例時報2012号18〜19ページ【25】)
判例時報の記事では正確にはわかりませんが、おそらくは再審原告は自分とは関係がない最高裁判決と矛盾する、いわば判例違反(法解釈が過去の判例と違う)を、前に確定した判決と抵触すると主張し、裁判所は、判例違反は再審事由ではない(実際は判例違反にも当たらないのでしょうけれども)といっているものと思われます。
10号再審事と、民事訴訟法第338条第1項但し書きの再審の補充性(再審事由を知りながら控訴・上告で主張しなかった場合には再審請求できず、知りながら控訴・上告しなかった場合も同様と解されています)との関係については、「10号再審事由と控訴・上告対応」で説明・検討しています。
(そのなかで、大審院1939年12月2日判決と松江地裁益田支部1969年5月23日判決についても紹介しています)
私に再審の相談をしたい方は、「再審メール相談」のページをお読みください。
再審については「再審請求の話(民事裁判)」でも説明しています。
モバイル新館の「再審請求」でも説明しています。
**_****_**