◆短くわかる民事裁判◆
10号再審事由と控訴・上告対応
民事訴訟法第338条第1項但し書きは、確定判決に再審事由がある場合でも、「当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったとき」は再審請求ができないことを定めています。裁判・民事訴訟法業界では、これを再審の補充性(さいしんのほじゅうせい)などと呼んでいます。
この知りながら主張しなかったときには、上訴を提起しながら上訴審においてこれを主張しない場合のみならず、上訴をしないで判決を確定させた場合も含むと解されています(最高裁1966年12月22日第一小法廷判決)。
10号再審事由については、最高裁の判断はまだありませんが、かつて大審院が「被上告人は自ら前訴訟に於いて勝訴の確定判決を受け次いで後の訴訟に於いて同一請求に付き敗訴の第1審判決を受けたるものなるが故に特別の事情なき限り後の判決を受けたる当時に於いて既に前確定判決との抵触を知りたるものと認むべく、従って後の判決に対する上訴に依り之を主張せずして該判決確定したる以上之を事由とする再審の訴は許すべからざるものと言わざるべからず」とした判決をしています(大審院1939年12月2日判決:大審院民集18巻1479ページ。判決文の引用は、現代仮名遣いに改めました:事案については「10号再審事由:前に確定した判決との抵触」で紹介しています)。
この大審院判決は、9号再審事由についての最高裁判決と並んで、10号再審事由はその性質上当事者が確定判決を受けた(判決正本の送達を受けた)時点で、特別の事情がない限り、再審事由を知ったものと認めると扱うという趣旨と解されています。
ただし、大審院判決の理由上も「同一請求」であることが明示されていますし、この判決の事案では、前に確定した判決と後に確定した判決が同じ年になされた(間隔は4か月足らず)こと、どちらの訴訟でも本人が出廷して弁論していることが認定されていますので、この大審院判決はそのような事案を前提とする「事実認定」の経験則として、「特別の事情なき限り」「認むべく」と判示したものと解することができます。
そのような事実関係を前提とすれば大審院の判断もなるほどとも思えるのですが、それでも、再審請求の第1審判決は、おそらく当事者が違う(前訴の原告と控訴の原告が別人)ためと思われますが、10号再審事由に当たらないとして再審の訴えを却下しています。第2審判決は前の確定判決の既判力はその後の特定承継人(債権譲受人)にも及ぶとして両判決の既判力が抵触するから10号再審事由が認められるとして第1審判決を取り消して(後の、再審請求対象の)確定判決を取り消して原告(債権譲受人)の訴えを却下したのです。大審院はこの再審を認めた原判決をまた破棄したものです。そうすると、この事件で10号再審事由があるかの判断について裁判官の間でも判断が分かれたのですから、当事者が判決を知れば当然に「抵触」があるかわかるともいえないように思えます。
民事訴訟法第338条第1項但し書きが第1項第10号を除外していませんので10号再審事由にも適用されることはそうなのでしょうけれども、民事訴訟法第342条第3項は、10号再審事由には再審期間の規定を適用しないことを定めています。この趣旨は、相互に抵触する確定判決の併存は一定期間の進行によって治癒されるというものではなくいつの段階においても許されるものではないことに求められています(新・コンメンタール民事訴訟法[第2版]1150〜1151ページ)。複数の確定判決が相容れない状態を解消するために期間制限なく再審請求を認めるという民事訴訟法第342条第3項の趣旨と、事実上再審請求を認める余地をなくす大審院判決の解釈は、相反するものではないでしょうか。この点に関する最高裁判決はまだありません。
松江地裁益田支部1969年5月23日判決(下裁民集20巻5・6号383ページ:事案については「10号再審事由:前に確定した判決との抵触」で紹介しています)は、信用金庫が申し立てた支払命令に異議がなく仮執行宣言が付されて確定した後、借主から信用金庫に対して提起された債務不存在確認請求訴訟で借主勝訴(信用金庫敗訴)の判決が言い渡されて控訴なく確定したという事案で、大審院のように特別の事情がない限り10号再審事由を知ったという手法は取らず、ただ、知りながら上訴しなかった場合には、重大な過失により知らなかった場合も含むとして、信用金庫の再審請求を退けました。
この事案では、同一の当事者間の同一の貸金についての判決が正反対ということではあっても、信用金庫の支払命令2件と借主の債務不存在確認請求2件で2件ともではなく、そのうち1件が同じ貸金についてだったということ、両判決の間に約3年の間隔があったことから、気づいて当然と判断するのが躊躇されたのかも知れません。結論的には、素人であればともかく信用金庫の債権管理としてあり得ないずさんさということから、再審請求を認めることが適当とは思えないという判断は致し方ないでしょう。
もっとも、以上の議論とは別に、高裁判決に対する再審請求(高裁判決に再審事由がある場合)については、判断の遺脱に関して検討したように(「9号再審事由(判断の遺脱)と控訴・上告対応」で説明しています)、最高裁は現行民事訴訟法施行(1998年1月1日)以降、再審事由を上告理由と扱わない姿勢を取っていて、上告に関しては、上告で再審事由を主張したが最高裁が明示の判断を示さなかった場合や、再審事由を知りつつ上告・上告受理申立てで主張しなかったり上告・上告受理申立てをしなかった場合に、民事訴訟法第338条第1項但し書きにより再審請求ができなくなると解するのか否かを明らかにしていないと考えられます。10号再審事由についても、状況は同じと考えるべきでしょう。
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