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短くわかる民事裁判◆
9号再審事由(判断の遺脱)と控訴・上告対応
 民事訴訟法第338条第1項但し書きは、確定判決に再審事由がある場合でも、「当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったとき」は再審請求ができないことを定めています。裁判・民事訴訟法業界では、これを再審の補充性(さいしんのほじゅうせい)などと呼んでいます。
 この知りながら主張しなかったときには、上訴を提起しながら上訴審においてこれを主張しない場合のみならず、上訴をしないで判決を確定させた場合も含むと解されています(最高裁1966年12月22日第一小法廷判決)。

 最高裁は、判断の遺脱については判決正本またはこれに代わる調書(いわゆる調書判決)の送達を受けた時点でそれを知ったものと推定され、その結果、判断の遺脱を上訴で主張したときはもちろん、主張しなかった場合や上訴しなかった場合も「知りながら」主張しなかった、上訴しなかったものとして再審請求は不適法であるという判示を繰り返しています。
 最高裁1966年12月22日第一小法廷判決は、「民訴法420条1項但書後段に規定する『之ヲ知リテ主張セザリシトキ』とは、再審事由のあることを知つたのにかかわらず、上訴を提起しながら上訴審においてこれを主張しない場合のみならず、上訴を提起しないで判決を確定させた場合も含むものと解すべきあり、判断遺脱のような再審事由については、特別の事情のない限り、終局判決の正本送達により当事者は、これを知つたものと解するを相当とする。原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ)によれば、上告人は昭和四〇年九月二九日原判示第一審判決正本の送達を受けたのにもかかわらず、これに対し上訴しなかつたというのであるから、特別の事情の主張、立証のない本件においては、上告人は右判決正本の送達の時に所論判断遺脱の事実を知つたにもかかわらず、上訴によりこれを主張しなかつたものであるとした原審の判断は、前記説示に照らして正当であり、原判決には所論違法はない。」と判示しています。
 最高裁1970年12月22日第三小法廷判決は、「判断遺脱のような再審事由の存在は、その事柄の性質上、通例、判決正本の送達を受けてこれを閲読することにより知りうべき筈のものであるから、これを知りえなかつたとする特段の事由の主張立証のないかぎり、当事者において右判決正本の送達を受けた当時に右事由の存在を知つたものと推定することができる」、「本件のように当事者が控訴審判決の送達を受けた当時に再審事由の存在を知つた場合には、右事由は本来これを上告理由として主張すべきものであつて、現に上告人は右判決に対して上告しているのであるから、上告審において主張の排斥された点についてはもとより、上告理由として主張しなかつた点についても、それを事由として上告棄却判決の言渡後に再審の訴を提起することの許されないことは、民訴法420条1項但書により明らかであり、この意味においても、本件再審の訴は不適法たるを免れない」と判示しています(ただし、後者は括弧書きの傍論)。

 以上の最高裁の立場からは、判決正本等の送達を受けてもなお判断の遺脱を知ることができなかった特段の事由を主張立証できない限り、第1審判決、第2審判決の判断の遺脱を理由とする再審請求は不可能ということになります。
 ただし、現行民事訴訟施行後、最高裁は判断の遺脱は上告理由となり得ないという姿勢を取っていて(最高裁1999年6月29日第三小法廷判決「絶対的上告理由:理由不備」で詳しく説明しています)、それとの関係で、微妙な問題があります。この最高裁1999年6月29日第三小法廷判決の翌年度の「最高裁民事破棄判決等の実情」の記事の中で、最高裁調査官が「この点に関しては、高裁判決における判断遺脱を理由として上告又は上告受理申立てがなされたにもかかわらず、最高裁判所が職権で判断遺脱を採り上げず、上告を受理しなかった場合において民訴法338条1項ただし書によって再審申立が制約されるか否かという問題もある。」とコメントしています(判例時報1744号27ページ)。
 高裁判決に対する判断の遺脱の主張の場合に、最高裁への上告で主張したが単に適法な上告理由に当たらないとして判断の遺脱の主張に対する明示の判断がなかった場合や、上告受理申立て理由で主張したが単に不受理となり判断の遺脱について明示の判断がない場合、上告・上告受理申立て理由で主張しなかったり、上告・上告受理申立てをしなかった場合に、民事訴訟法第338条第1項但し書き(再審の補充性)の適用により再審請求が許されなくなるかについては、現在は明確ではないと考えておくべきでしょう。

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 再審については「再審請求の話(民事裁判)」でも説明しています。
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