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短くわかる民事裁判◆
訴状却下命令に対する即時抗告後の補正
 訴状の記載に不備があるときや訴え提起手数料を納付していない(あるいは送達費用を予納していない)場合、通常はまず書記官から補正の依頼(任意の補正の促し)があり、原告が書記官からの補正依頼に応じない場合、不備の内容によっては、裁判長から(裁判所と裁判長の仕分けが気になる方は「裁判長と裁判所」をお読みください)相当の期間を定めてそれまでに補正することを命じる補正命令が出されます(民事訴訟法第137条第1項)。
 補正命令に定めた期間内に原告が訴状の補正をしない場合、裁判長が命令で訴状を却下することになります(民事訴訟法第137条第2項)。
 訴状却下命令については「訴状却下命令」で説明しています。
 訴状却下命令を受けた原告は、命令の告知受けた日から1週間以内に即時抗告をすることができます。

 訴状却下命令が出てしまった後、即時抗告を申し立てて争うとともに、補正命令に従って補正した場合、どうなるでしょうか。補正命令の期間を過ぎてしまい、既に訴状却下されているので(即時抗告で訴状却下命令が取り消されない限り)もうだめでしょうか。

 最高裁2015年12月17日第一小法廷決定は、「抗告提起の手数料の納付を命ずる裁判長の補正命令を受けた者が、当該命令において定められた期間内にこれを納付しなかった場合においても、その不納付を理由とする抗告状却下命令が確定する前にこれを納付すれば、その不納付の瑕疵は補正され、抗告状は当初に遡って有効となるものと解される」としています。抗告状についての補正命令と抗告状却下命令のケースですが、補正命令において定められた期間内に手数料を納付せずに却下命令が出されてもこれが確定する前(この場合は、即時抗告の抗告状却下命令で高裁裁判長の命令のため告知により確定する場合だったところ、却下命令受送達前)に納付すれば、不納付は遡ってなかったことになり抗告状は当初から有効だったことになるというのです。したがって、訴状についても、印紙の納付を命じる補正命令があり補正期間内に納付(補正)せずに訴状却下命令が出されても、これが確定する前に(即時抗告を申し立てて即時抗告棄却の決定が告知されるまでに)納付すれば訴状は遡って有効になる(即時抗告審で訴状却下命令が取り消される)ことになります。
 被告の住所の補正命令(被告への訴状送達のため)のケースで、裁判所から訴状不送達のため10日以内に訴状の被告の住所を補正するよう命じられた原告が、被告の転居先不明のため期間内に補正できずにいたところ、裁判所が訴状却下命令を発したため、即時抗告を申し立て、訴状却下命令確定前に被告の住所等が知れないとして公示送達の申立てをし、その提出書類によれば被告の住所が知れないと判断された事案で、即時抗告審の札幌高裁1962年5月23日決定は、「被告の住所を補正しないために訴状却下命令をうけた原告が該命令に対し適法な即時抗告をなした上、被告の住所、居所、その他送達をなすべき場所が知れないとの理由で公示送達の申立をなし、かつその証明がなされた場合には訴状の送達上の欠缺は補正されたものというべく、訴状却下命令は取り消さるべきものといわなければならない。」として訴状却下命令を取り消して第1審裁判所に差し戻しました。
 このように、補正命令期間中に補正ができずに訴状却下命令が出された場合でも、その訴状却下命令の確定前に補正ができれば、訴状却下命令は取り消され、訴状を無事に復活させることができます。

 訴えの提起については「民事裁判の始まり」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「第1回口頭弁論まで」でも説明しています。
  

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