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短くわかる民事裁判◆
訴訟救助:資力要件判断の現状
 「訴訟救助の申立て」で説明したように、訴訟救助の要件は、訴訟の準備及び追行に必要な費用を支払う資力がないことと勝訴の見込みがないとはいえないことです(民事訴訟法第82条)。この要件は、法テラス(司法支援センター)の援助の要件と実質的に同じです(法テラスの代理援助の資力要件は「自己の権利を実現するための準備及び追行に必要な費用を支払う資力がない国民若しくは我が国に住所を有し適法に在留する者」:総合法律支援法第30条第1項第2号。法テラスは、この法律の規定に基づき業務方法書別紙1で数値基準を定めています→こちらのファイルの109~111ページ)。
 しかし、近年の訴訟救助の実務では、資力要件の方は、法テラスより厳しく審査されています。法テラスでは弁護士の報告書だけで認めてくれるのに裁判所は収入と資産の資料も出させるという手続面での厳しさもありますが、資力のレベル感も違います。法テラスでは解雇事件で使用者から賃金が支払われなくなって収入がなくなると、預貯金が180万円(単身者の場合)以上ない限り、援助してくれます(法テラスの援助基準はこちら)。法テラス利用の事件(法テラスは援助決定済)で、解雇されて無収入の労働者が実家に身を寄せているケースで、裁判所から生活費は親が出しているのだから収入がなくても生活には困らない、貯金で訴訟のための費用は払えるだろうと訴訟救助を却下されて驚愕した経験があります。
 多くの裁判官はそこまではいわないと思いますが、ときおりとても厳しい例があり困ります。

 刑事施設収容者の訴訟救助の申立てについて、裁判所が刑事施設に、領置金(刑事施設が被収容者から預かっているというか取り上げている金銭)の金額を報告させた上で決定しているのも、事件記録上確認したことがあります。
※2018年度書記官実務研究報告書「民事訴訟等の費用に関する書記官事務の研究」で2017年に実施したアンケート調査では地裁50庁中14庁が職権により被収容者が収監されている刑務所等に対して照会を行ったと回答しています。他方、「被収容者は無資力・無収入であると考えて、特に疎明資料を求めなかった」という回答が7庁あったとのことです。(199ページ)

許可抗告で争われた例で、交通事故の損害賠償請求で第1審、控訴審とも請求を棄却され、大阪高裁に上告した際に上告提起手数料を納付せず、裁判所が補正命令を発したところその補正期間内に訴訟救助の申立てをし、現在タクシー乗務員として生計を立てているが格別の資産もなく前年の収入は355万円あまりに過ぎないと主張し、疎明資料としては源泉徴収票を出しただけという状態で訴訟救助申立てを却下され(大阪高裁1998年1月27日決定)、許可抗告を申し立てたという事案で、最高裁2008年4月23日第一小法廷決定が「所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。」として抗告棄却したものがあります(判例時報1716号19ページ【10】)。
 弁護士の感覚では、今どきそんな申立てで通るはずがないというところです。

 訴訟救助については「裁判所に納める費用が払えないとき(訴訟救助)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「訴訟費用が払えないとき(訴訟救助)」でも説明しています。
  

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