◆短くわかる民事裁判◆
9号再審事由の判断の遺脱の対象
民事訴訟法第338条第1項第9号は、「判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断の遺脱があったこと。」を再審事由としています。
裁判所が判断を示さなければ再審事由となる「判決に影響を及ぼすべき重要な事項」はどのような(どの範囲の)事項でしょうか。
広島高裁松江支部2015年12月21日決定は、判例時報2348号の記事記載の最高裁調査官による要約によれば、民事訴訟法第338条第1項第9号の「判断の遺脱」とは、請求原因、抗弁、再抗弁等の主要事実(要件事実)についての判断が漏れている場合をいい、当事者が主張した主要事実でない事実や証拠評価については判決が逐一採り上げて判断を示していなくとも「判断の遺脱」に当たるものではないを述べています。
これに対し再審原告が、主要事実でなくとも、判決に影響を及ぼす事項であれば、判決理由中で判断していない以上は判断の遺脱になるなどと主張して許可抗告をしましたが、最高裁2016年1月21日第一小法廷決定(判例時報2348号6〜7ページ【5】)は、「所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。」として抗告を棄却しました。
現在は、判決書も、請求の原因、抗弁、再抗弁を整理をした書き方をしていませんから、裁判の当事者が判決書を読んで何が「主要事実(しゅようじじつ)」かを理解することが困難です。さらに言えば、事件の種類によっては、何が主要事実で何が主要事実を推認させる(支える)「間接事実(かんせつじじつ)」なのかの区分は明確とはいえず専門家でもその境界は判然としないことがあります。近年は評価を要する要件(「規範的要件(きはんてきようけん)」などと呼ばれます。例えば解雇が無効となる「解雇権濫用(かいこけんらんよう)」などが典型例です)が増えていて、専門家にとっても、どこまでが主要事実なのかの判断が難しい場合が多くなっています。
そうはいっても、裁判所が、判断の遺脱の対象となるのは、請求原因、抗弁、再抗弁と整理できる主要事実だという考えでいることは、理解しておく必要があり、また裁判所の考えを読み取って裁判官を説得する手掛かりにはなります。
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