◆短くわかる民事裁判◆
最高裁判決に対する判断の遺脱の主張
解説書や教科書類では、9号再審事由(判断の遺脱)について「判断の遺脱の有無は判決理由から判明するから、下級審の判決であれば上訴によって不服を申し立てることができる。よって、判断遺脱が再審事由として問題になるのは、主として上告審判決である。」(1999年度書記官実務研究報告書「民事上訴審の手続と書記官事務の研究」2019年補訂版416ページ)などと記載されています(コンメンタール民事訴訟法Z39〜40ページも同旨)。
では、最高裁判決について、判断の遺脱があるとして最高裁に再審の訴えを提起するとどうなるかを紹介します。
●判断していないと上告人が主張している上告理由についてはこのように判断していると説示して判断の遺脱はないとする。
最高裁1971年6月3日第一小法廷判決「再審原告が再審事由として主張するところの(一)は前記上告判決の上告理由第二点二(3)に該当し、これについては、同判決は四枚目裏八行目以下において判断しており、再審事由の(二)は右上告理由第一点三に該当し、これについては、同判決は三枚目表三行目以下において判断しており、土地台帳附属地図上「四一番の内」と表示された部分は、四一番の範囲内に入るものであり、地図上道路と隔てられているとした第二審裁判所の事実認定(仙台高等裁判所昭和三三年(ネ)第二二五号事件の判決一一枚目表五行目)を肯認できなくはないと判断したのである。右にいう道路が国有道路であることは、右第二審判決の認定しないところであり、両地域間に川の介在することも右第二審判決の認定しないところである。したがつて、再審原告主張のような国有道路云々あるいは河川介在云々の点について前記上告判決が判断しなかつたのは当然である。同判決に所論の判断遺脱の違法はない。従つて、本件再審の訴は再審事由を欠き、不適法として却下を免れない。」
同様のパターンのものとして、最高裁1958年5月24日第一小法廷判決、最高裁1957年12月26日第一小法廷判決などがあります。
●抽象的に、上告理由に当たらないなどの判断を示している(必要な判断はしている)から判断の遺脱はないとする。
最高裁1955年11月25日第二小法廷判決「原判決は『論旨は憲法違反を云為するが第一点は第二審判決の事実認定を非難するに帰し、第二点は単なる訴訟法違反を主張するものであつて、いずれも特別上告適法の理宙に該当しない」と判示しているのである。そして記録によるも、右特別上告理由が、適法な特別上告理由に当らないことは原判決の判示したとおりとして認められるから、原判決にはなんら判断の遺脱はなく本件申立は理由がない。』
同様のパターンのものとして、最高裁1964年3月6日第二小法廷判決、最高裁1959年6月4日第一小法廷判決、最高裁1958年3月20日第一小法廷判決、最高裁1957年10月30日大法廷判決、最高裁1957年7月19日第二小法廷判決、最高裁1957年5月31日第二小法廷判決、最高裁1956年8月21日第三小法廷判決、最高裁1955年4月5日第三小法廷判決などがあります。
●その主張は(前確定判決上告審で)主張していなかったから判断しなかったのは当然であり判断の遺脱はないとする。
最高裁1960年4月26日第三小法廷判決「論旨は、さきの第二審判決が『仮りに計画樹立当時既に県道用地として買収済であるとすればAの所有でなかつたことに帰し訴の利益はないといわねばならぬ』と判示しながら、右計画当時右判示土地が何人の所有であつたかを判示せず、原上告審判決がこれを是認したのは判断を遺脱したものである、と主張する。しかし、かような主張は原上告審で上告理由として主張されていない。さきの上告理由第一点において『本件第二号買収計画は後に変更されたにかかわらず、右第二審判決が右計画を是認したのは違法である』旨の主張があつただけであるので、原上告審判決はこれに対し『右第二審判決が所論山林部分は右計画に包含されていないものと認定し、道路部分については、所論のようにすでに上告人Aの所有地でないとすれば、その部分について計画の取消を求める利益はない旨を判示しており同判決が上告人の請求を容れなかつたのは当然である』との旨の判断を示したのであること原判文上明白である。されば、原上告審判決が右判示において原上告理由として主張されていない所論の事項について判断を示さなかつたのは当然であり、判断遺脱の所論は原判決を正解せざるにいでたもので前提を欠き採用することができない。」
※ちょっとわかりにくいですが、道路部分の所有者が誰かを判断するべきだという主張はしていなかったのだから、判断しなくても判断の遺脱はないといっています。
同様のパターンのものとして、最高裁1959年4月23日第一小法廷判決などがあります。
●上告理由書提出期間後になされた主張だ(適法に提出された主張ではない)からそれに対して判断しなくても判断の遺脱ではないとする。
最高裁1960年7月7日第一小法廷判決「所論判断遺脱をいう上告理由は、民訴三九八条、民事訴訟規則五〇条所定の期間内に提出された上告理由書においては単に『原判決に判断の遺脱がある』というにとどまり、それが原判決中のいかなる点に関するものであるかにつき何ら具体的に明示されておらず、右法定の期間を経過した後に提出された上告理由補充書においてはじめて具体的に記載されているのであつて、右補充書の内容は、所論のごとく先に適法に提出された理由書の釈明補充にとどまるものといい得ないことは文面上明かであるから、所論判断遺脱の論旨は、結局、適法な期間内に提出されたものとなすを得ない。従つて、上告判決が所論判断遺脱の論旨に対し何ら判断を示さなかつたのは当然であり、上告判決に所論のごとき判断の遺脱があつたものというを得ない。」
同様のパターンのものとして、最高裁1969年2月28日第二小法廷判決、最高裁1959年4月23日第一小法廷判決があります。
※この判断を誤って実は上告理由書が期限内に提出されていたことがわかり最高裁が判断の遺脱を認めざるを得なくなったのが最高裁1964年3月24日第三小法廷判決です(「9号再審事由認容例:最高裁1964年3月24日第三小法廷判決」で説明しています)。
●適法な上告理由に当たらない主張なので判断しなくても判断の遺脱に当たらないとする(適法な上告理由に当たらないと判断しているとも分類できます)。
最高裁1965年7月13日第三小法廷判決「仮処分に関し高等裁判所が第二審としてした終局判決に対しては、その判決に憲法違背があるときにかぎり最高裁判所に特に上告をすることができるのであり、右判決に対しては、単なる法令違背の主張がされても、これを以て特別上告適法の理由とはなし得ず、右法令違背が上告審の職権調査の範囲に属するものであつても、特別上告審においてこれを審理判断する必要を認め得ない。そして、再審原告が所論特別上告審において主張したところに照らすと、右主張は実質的には単なる法令違背をいうものにすぎない旨の判断は正当として是認するに足り、従つて、右主張に対して判断を加えなかつたからといつて、これを目して所論特別上告審に判断遺脱の違法があるとなすことはできない。」
同様のパターンのものとして、最高裁1961年4月21日第二小法廷判決、最高裁1961年1月27日第二小法廷判決、最高裁1960年2月19日第二小法廷判決、最高裁1957年11月1日第二小法廷判決、最高裁1951年12月17日第二小法廷判決などがあります。
●再審請求が出訴期間(知った日から30日以内)経過後にされたもので不適法とする。
最高裁1960年11月9日大法廷判決「記録に徴するに、右判決の正本は、同年同月二四日再審原告の被承継人Dの上告代理人に送達されておること明白であり、この事実によれば、右上告人もその頃右判決の内容を知り、判断遺脱があつたとすればこれを覚知したものと推定すべきである。(昭和一六年(ヤ)第一五号、同一七年四月二一日大審院判決、大審民集二一巻三九九頁、昭和二七年(ヤ)第三号、同二八年四月三〇日最高裁第一小法廷判決、民集七巻四号四八〇頁)しかも右覚知を妨げる事情について何等の主張なく、したがつて昭和三三年一二月二四日提起された本件再審の訴は、右判決確定の日から起算して、民訴四二四条一項所定の期間を経過した後の申立であつて、不適法といわなければならない。」
同様のパターンのものとして、最高裁1961年9月15日第二小法廷判決、最高裁1961年6月8日第一小法廷判決、最高裁1957年3月28日第一小法廷判決、最高裁1953年4月30日第一小法廷判決があります。
※最後の最高裁1953年4月30日第一小法廷判決で、上告審判決が「判決正本送達の日から一〇日を経過した(民訴四〇九条ノ五参照)」日の終了をもって確定したとしていることにギョッとした方もいると思いますので念のために説明しますと、旧民事訴訟法上、上告審判決に対する異議申立てという制度があり、判決の送達を受けた日から10日間が異議申立て期間でした(旧民事訴訟法第409条の5)。そのため、上告審判決はその異議期間が経過して(異議申立てがあればその異議が棄却されて)初めて確定するという扱いでした。その制度は1954年6月1日施行の法改正で削除され、その後は上告審判決の確定は言渡日となりました。
このように、最高裁判決に対する9号再審事由(判断の遺脱)による再審請求(最高裁に対する再審の訴え提起)は、上告理由書の提出期限の判断を間違えた最高裁1964年3月24日第三小法廷判決という希有の例を除き、以上のような形で排斥されているのが実情です。
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