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短くわかる民事裁判◆
行政直営施設の差し止め
 行政直営の施設の差止請求は、民事訴訟(周辺住民の人格権に基づく差止請求等)によるべきか、行政訴訟によるべきかについて、裁判所は必ずしも合理的とも一貫しているともいいがたい姿勢を見せています。
 現時点までの最高裁の姿勢をまとめると、次の表のようになります。

 施設・差止請求 民事訴訟  行政訴訟 
 廃棄物処理施設・運転差し止め ○  × 
 空港・夜間離発着禁止等 ×  ○ 
 基地・自衛隊機夜間離発着禁止等 ×  ○ 
 基地・米軍機夜間離発着禁止等 ×  たぶん× 
 国道・騒音排ガス差し止め ○  ? 

 歴史的には、大田区が設置を決めたゴミ焼却場について、行政の行為であるからと周辺住民が行政訴訟を提起したところ、最高裁1964年10月29日第一小法廷判決は、行政訴訟(取消訴訟)を提起する対象となる行政庁の処分がないからと行政訴訟によることはできず民事訴訟によるべきとしました。それが判例となっていたので、大阪空港周辺住民が騒音被害を受け(損害賠償請求とともに)夜間離発着の差止を求める民事訴訟を提起し第1審も第2審も夜間離発着の禁止を命じたところで、最高裁1981年12月16日大法廷判決は、国営空港については「行政訴訟の方法により何らかの請求をすることができるかどうかはともかくとして」民事訴訟では飛行差し止めの請求はできないと判示したのです。この時点では、行政事件訴訟法上明確に認められていたのは取消訴訟と無効確認訴訟という行政庁の処分に対する訴訟だけで、積極的に差し止めの請求ができるかどうかは定かでなく(だから最高裁は「何らかの請求ができるかどうかはともかくとして」などと判示しています)、従前の判決との整合性も疑問視されるとても無責任でご都合主義的な判決だといえるでしょう。最高裁は、その後も、航空機の飛行差し止めについては民事訴訟ではできないという姿勢をとり続けています。この問題(行政訴訟が可能か、行政訴訟によらなければならないか)は、行政法学上は、「処分性(しょぶんせい)」の問題とされ論じられています。
 最高裁が、上の姿勢を正当化するために、厚木基地第1次訴訟の最高裁1993年2月25日第一小法廷判決で自衛隊機の飛行(基地の運用)は(許認可等の行為はなくても)周辺住民に騒音等の受任を義務づけるから公権力の行使(処分)であると言いだしたので、そういう事実行為に対して行政訴訟を起こすために訴訟の請求の趣旨をどうすればよいのかが問題となります(許認可等の処分があるのなら、それを取り消すとすればいいのですが、それがないなら何を求めればいいのか)。これについて、横田基地訴訟での最高裁1993年2月25日第一小法廷判決が、民事訴訟ではありますが、抽象的不作為命令を求めてもかまわないとし(それができないとした原判決は誤りと判示)、それが行政訴訟としての差止めの訴えとして提訴された厚木基地第4次訴訟でも踏襲されています(第1審判決が明確に容認、最高裁では争点にならず)。
 また、最高裁は、大阪空港訴訟大法廷判決の後、周辺住民の原告適格(げんこくてきかく)を認め、拡大する方向に舵を切ります。
 そして、許認可等の処分がないときに周辺住民が積極的に差止めの訴え等ができるかという問題は、取消訴訟よりも厳しい要件を課した上でではありますが、行政事件訴訟法の2004年改正で差止めの訴え義務付けの訴え等が定められて立法的に解決されました。

 そうした結果、行政直営の施設に対する差し止め等の請求については、上の表のような扱いに落ちついています。
 しかし、同じく行政直営施設による周辺住民の被害の救済のための差止請求が、空港・基地については行政訴訟によらなければならず(民事訴訟では行えず)、廃棄物処理施設では逆に行政訴訟はできないというのか、また国道の場合は民事訴訟でいいのかなど、ふつうには納得しがたいように思えます(国道43号線訴訟では、控訴審判決が大阪空港訴訟最高裁判決にも忖度して道路の運行供用を制限しなくても防音壁の設置拡充等の施設の改良で対応できうるから民事訴訟も許容されるとし、最高裁は民事訴訟によることができる理由は判示しておらず、最高裁自身の説明はありません)。

 行政裁判については、「行政裁判の話」でも説明しています。
  

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