◆短くわかる民事裁判◆
国道騒音・排ガス差し止め請求:国道43号線公害訴訟
大阪市西成区と神戸市灘区を結ぶ国道43号線とその上の高架上ないし並行して設置された兵庫県道高速神戸西宮線・大阪西宮線沿線(概ね道路から70m以内)の住民149人(転出・死亡による変化あり)が、国と阪神高速道路公団に対して、騒音・排ガスの差し止めと損害賠償を求めて提訴しました。
差止請求の請求の趣旨は「被告らは、本県道路を走行する自動車によって発生する騒音及び二酸化窒素を、1 騒音については中央値において、午前6時から午後10時までの間は65ホン、午後10時から翌日午前6時までの間は60ホンをそれぞれ超えて、2 二酸化窒素については、1時間値の1日平均値において0.02ppmを超えて、いずれも目録(5)及び(9)記載の各原告の肩書地住所所在の居住敷地内に侵入させて、被告国は本件国道を、被告公団は本件県道を、それぞれ自動車の走行の用に供してはならない。」でした。
第1審の神戸地裁1986年7月17日判決(判例時報1203号)は、差止請求については「複数の措置(作為)についての請求を包含し、その作為の内容が特定されているとは到底いえないものであるから、その訴えは不適法というほかなく、これを却下するのが相当である。」として訴えを却下し、「仮定的判断」として、「差止請求については、その被侵害利益の内容は精神的苦痛ないし生活妨害のごときものであるのに対し、本県道路の有する公共性は極めて高度なものであることを重視すべきであるから、本件道路の供用行為は、いまだこれを差し止めるべき程度の侵害行為であるとは到底いえないものであるが、損害賠償請求については、その公共性が一部少数者についての不公平の存在の上に成り立っている点を無視しうるものではないから、原告らの中には右供用行為により、その受任を強いられるべきいわれのない侵害を被っている一部少数者に該当する者が存在するものというべきである。」として、道路から20m以内に居住している(過去に居住していた)原告について慰謝料請求を認めました。
これに対して双方が控訴し、第2審の大阪高裁1992年2月20日判決(判例時報1415号3ページ~)は、差止請求の請求の趣旨について「被害を受けている者が、その被害を将来に向けて回避するという観点から、直截に救済を求めるには、原因の除去を求めることが必要であると同時に、それで十分というべきである。そうだとすれば、まず原告らの差止請求は、その主張する保護法益、差止として被告らにおいて何がなされるべきかを明らかにしているのであるから、趣旨の特定に欠けるところはないといえる。」とし、民事訴訟での請求の可否については、「原告らが求める抽象的不作為としての差止は、その目的を達成する方法として、行政庁による道路の供用廃止、路線の全部または一部廃止及び自動車の走行制限といった交通規制等の公権力の発動によることを要する場合のほか、道路管理者による騒音等を遮断する物的設備の設置等の事実行為も想定できるところ、原告らは公権力の発動を求めるものではない。いうまでもなく、本件は管理権の作用を前提とするところ、それにもかかわらず異別に解しなければならない特段の事由は認め難いというべきであるから、民事訴訟上の請求として許容されるというべきである。」として、(第1審判決とは異なり)差止請求は適法とした上で、「原告らの被害は、前記認定のとおり生活妨害に止まるものであるといわざるを得ない。これに対し、本件道路は、その公共性が非常に大きく、しかもこれに代替しうる道路がないこと等を考慮すると、差止請求の関係では、原告らの被害は、未だ社会生活上受忍すべき程度を超えているとはいえないものである。」として差止請求を棄却しました。損害賠償については、第1審と同様に道路から20m以内に居住する(過去に居住していた)原告について認め、一部の原告につき慰謝料額を増額しました。
双方の上告受けて、最高裁1995年7月7日第二小法廷判決(住民側上告事件。なお同日付の国・公団上告事件はこちら)は、訴えの適法性について特に判示することなく、「差止請求を認容すべき違法性があるかどうかを判断するにつき考慮すべき要素」について言及し、原審の判断を正当として是認できると判示していますので、最高裁としても、民事訴訟によりこの請求の趣旨による差止請求をすることは適法なものと判断していると解されます。
行政裁判については、「行政裁判の話」でも説明しています。
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