このサイトでは、民事裁判のしくみや手続、労働事件、借金の整理 過払い金請求などについて説明しています。
【労働事件の話】
労働事件の相談では、解雇・雇い止めなどの退職に関する相談が最も多く、残業代請求などを含めて約束した賃金が支払われないことに関する相談がそれに続いています。最近では、セクシャルハラスメント、パワーハラスメントなどの職場でのいじめ・嫌がらせに関する相談が増えて賃金関係に次ぐ数となってきていて、これらと労働災害に関する相談をあわせた4つの分野が労働相談の代表的なものとなっています。
私自身は、これまで解雇関係の事件を中心に労働事件を担当してきて、セクハラ・パワハラと労災については経験が乏しいことから、ここでは解雇・雇い止めと賃金請求に絞って説明をします。
いろいろな労働問題があっても事件は解雇が中心なの?
解雇されると生活がかかってくるし、在職中に争うのは現実的には大変ですからね。
《解雇・雇い止めへの対応》
就職に際して、いつまでという期限が定められていない場合(期限がないので「無期」労働契約と呼ばれています)や、期限が定められている場合(業界では有期労働契約と呼ばれています)でもその期限前に、使用者が一方的に労働者をやめさせることを、法律用語では「解雇(かいこ)」といっています。
これに対して、労働者が自主的に「退職届」なり「退職願」を出してやめることは「退職」と呼ばれます(退職という言葉は、解雇も含めた広い意味で使うことがありますが)。きっかけが職場でのいじめに耐えかねてであったり、使用者からやめてくれといわれた(業界では「退職勧奨(たいしょくかんしょう)」と呼んでいます)ことであっても、労働者が退職届等を出すなり、退職に同意したという場合は、「解雇」ではなく退職となってしまいます(退職届を出したのがかなり酷く強要されてしかたなくというケースでは実質は解雇といえる可能性も残りますが)。
解雇の場合は、客観的に合理的な理由がなく社会通念上相当であると認められない場合は無効となります(有期契約の期間中の解雇の場合、「やむをえない事由」という通常の解雇より強力な理由がない限り無効となります)。つまり解雇の理由や経緯によっては後で争って覆すことができます。しかし、労働者の意思によるか労働者が同意をしている「退職」の場合、覆すことはかなり難しくなります。そのため、やめたくない場合は、退職届等は書かないという姿勢を貫くことが重要です。
有期労働契約で、定められた期限が来たときに労働契約を終了して契約を更新しない(通常、更新しないことは前もって通告されます)ことを、業界では「雇い止め(やといどめ)」と呼んでいます。雇い止めの場合、予め定められた期限が来たことによって契約が終わるのですから、特に理由は必要でないようにも見えます。しかし、それでは労働者の生活が不安定になりますので、労働者の担当する業務が臨時的なものかどうか、労働契約が更新されてきたか、その回数、トータルの継続年数、これまでの更新の際の契約書作成の経過、契約の際やその後の使用者側の言動などから見て、労働者側が契約が更新されることについて期待することが合理的といえるような場合は、解雇の場合と同様に、客観的に合理的な理由がなく社会通念上相当であると認められない場合は使用者は契約更新を拒絶することができず、雇い止めをしても無効で、それまでと同じ労働条件で契約を更新したものと扱われます。
解雇・雇い止めを受けた場合、解雇・雇い止めの効力を争って(無効と主張して)復職を目指すのか、一定程度の金銭請求をするのか、逆に解雇自体は争わないで解雇予告手当(解雇の場合で、通告から30日未満で解雇された場合)や退職金(退職金制度がある場合、現実に問題となるのは懲戒解雇のために使用者が支払を拒否している場合が多い)の支払を請求するのかを検討して、それに適切な手続を取っていくことになります。
《賃金不払いへの対応》
使用者が約束した賃金を支払わない場合には、様々なケースがあります。単純に資金繰りができずに支払わない場合もあります。この場合は、労働事件特有の問題はなく、ごく普通の民事裁判として進めていくことになります(判決を取っても支払能力がなく強制執行もできないということも出て来ますが。このあたりは、「民事裁判の話」の「相手が判決に従わない場合」を見てください)。
残業代を支払わないというケースは、よく見られます。この場合、使用者側が残業自体を争う場合と、残業の事実は認めるが支払う必要がないと主張する場合があります。
残業の事実自体が争われる場合、労働者側で現実の労働時間、具体的には業務開始時刻(出勤時刻)と業務終了時刻(退社時刻)を立証しなければならなくなります。残業代請求の裁判では、多くの場合ここがけっこう大変です。残業代請求を考えている場合は、できるだけ早い段階から出退勤時刻を客観的に証明する資料・記録を残しておくのが賢明です。
毎月50時間は残業してるけど、何日の何時から何時までなんてわからない。
残業代請求の裁判では、それぞれの日の出退勤時刻を特定する必要があります。
使用者側が、残業していても残業代を支払わなくていいと主張する場合には、使用者が残業を命じていないのに勝手に仕事をしていたとか残業と称して遊んでいたなどの主張をする場合もあります。使用者側が積極的に残業を命じなくても黙認している場合や抽象的に主張している場合はほとんど問題になりませんが、繰り返し帰れと命じている場合や仕事をしていないことを具体的に立証された場合は厳しい闘いになります。また、使用者側から、労働者が管理職であるとか基本給や手当に残業代が含まれているなどの主張がよくなされます。裁判所が残業代を払わなくていい「管理監督者」と認めることは少ないですが、定額残業代(基本給や手当に一定の範囲の残業代が含まれている)の主張は、以前はほぼ通らなかったのですが最近は認められることが多くなっています。
使用者が賃金の減額を主張する場合には、経営難を理由に基本的には全員の賃金を減額してくる場合と、成績不良・能力不足等を理由に個別に減額してくる場合があります。裁判上は、労働者が賃金減額に合意(減額した労働条件が記載された契約書に署名するなど)してしまうと後から争うことが大変になります(自由な意思に基づく同意かは問題になりますが、同意がない場合より当然ハードルは高くなります)し、また減額に文句を言わずに長期間減額した賃金を受領していると事実上承諾していると評価されてしまうことがあります。
残業代請求にしても賃金減額にしても、在職中に争うことは難しいのが現実ですが、賃金請求の消滅時効は現在は3年ですので、裁判を起こすなどして請求した時点から遡って3年分しか請求できません。
《労働事件の話の概要》
このコーナーでは、以下のような項目に分けて説明をします。
ここでは、退職勧奨を受けたり解雇を通告されたときに、どのように対応すべきかについて説明します。
解雇がどのような場合に無効となるか、言い換えれば解雇を争った場合にどういう条件があれば勝てるのかについて、おおよその考え方を説明します。
解雇について争う場合にどのようなやり方があり、どのような手続が適切か、解雇自体は争わないで解雇予告手当や退職金請求をする場合の考え方などについて説明します。
有期労働契約の場合に、どのような条件があれば、解雇同様に闘える「合理的期待」があるといえるのか、契約時や更新時と雇い止め通告(予告)を受けたときの対応について説明します。
残業代請求をするために日頃から気をつけておきたいことや残業代請求の考え方について説明します。
使用者から、約束していた給料を減額すると通告された場合の対応や使用者の通告が無効になる場合について説明します。
原則3回以内の期日で判断される「労働審判」という制度の概要とどのような場合に労働審判を選択するかについて説明します。
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