このサイトでは、民事裁判のしくみや手続、労働事件、借金の整理 過払い金請求などについて説明しています。
あっさり 別館
庶民の弁護士
 伊東良徳のサイト
【解雇を通告されたら】
 使用者から退職勧奨や解雇通告を受けた場合、働き続けたいとか(退職金以外の)金銭請求をしたいのであれば、使用者から求められても退職届や退職願は絶対に書かないようにすべきです。
 解雇の通告に対しては、解雇を争う場合には、解雇通知を書面で出すように求めるとともに、解雇理由証明書(解雇理由説明書、退職証明書)を求めるべきです。解雇理由証明書を使用者が出さないときは、労働基準監督署にそのことを申告すれば労働基準監督署が解雇理由証明書を出すように使用者に対して指導してくれます。


《解雇と退職》
 「労働事件の話」の「解雇・雇い止めへの対応」で説明したように、使用者側の一方的な労働契約打ち切りである「解雇」は客観的に合理的な理由がなく社会通念上相当と認められないときには無効になります。つまり後から争えば覆る可能性がそれなりにあります。しかし、労働者側が労働契約の終了を望んでいるか、労働契約の終了に同意している「退職」の場合は、労働者側が後から争っても、なかなか認められません。労働者側が争う以上は、現実的には使用者側からもう来なくていいとか来るなとかいわれて労働者側の希望に反してやめさせられたということがほとんどで、労働者側から見れば大差ないと思えるでしょう。しかし、裁判所に行けば、基本は法律論の世界ですから、使用者側が一方的に決めた/通告したに過ぎない(解雇)か、労働者側がやめる意思があった/承諾した(退職)かは、決定的な違いとなるのです。その違いは、形式上、証拠上は、退職届や退職願、あるいは退職に関する合意書の有無が大きなポイントになります。
 そのため、いまどきはそれなりの規模の会社では、使用者側にとって争われても勝てると判断できるくらい大きな落ち度が労働者側にある場合でなければ、労働者側の自主的な退職の形に収めようとするのが普通です。まずは退職勧奨で自主的な退職を促し、さらにはそれに応じない労働者に対して相当強く退職を求めたり、実質的には解雇の宣告をしても、労働者側があきらめたところで退職届を書かせようとします。
 労働者側が、後々解雇を争うつもりであれば、使用者側からどう言われても、退職届は書かないようにすべきです。

 もっとも、使用者側が懲戒処分として「諭旨解雇」という、退職届を出せば懲戒解雇にしないで退職金を払うが、出さなければ懲戒解雇する処分をすることがあり、その場合は、退職届を出しても解雇を争うことができます。ただし、使用者側に後になって諭旨解雇なんていっていない、退職勧奨をしただけだなどといわれないように、就業規則上「諭旨解雇」の懲戒処分が規定されていることを確認し、諭旨解雇と明記した処分通知をもらっておくべきです(そうでないと退職届は出さないという姿勢を取るべきです)。

《退職勧奨への対応》
 使用者側から退職勧奨を受けた場合、どうするべきでしょうか。
 やめる気がまったくなければ、詳しい話を聞かないで直ちに拒否というのもひとつの選択です。使用者側があきらめる可能性もありますし、労働者側が強い拒否の姿勢を示したという事実として残ります。
 ただし、裁判所は、労働者側が退職勧奨に対して拒否の姿勢を示した場合でも、使用者側が具体的な条件等を説明して穏当な説得をすることは許されるという姿勢を取っています。労働者側の感覚では穏当な説得というには厳しすぎたり執拗に思える退職勧奨も、違法とはいえないと判断されていたりします。
 その意味では、使用者側が退職勧奨をする理由と退職の条件について説明を受け、それも文書提示を求めて記録に残した上で、弁護士にも相談してみるという選択もあります。もちろん、条件等が納得できればその場で応じることも自由ですが、一般的には、即答は避けて弁護士などの第三者に相談した上で冷静に検討してから回答した方がいいと思います。退職勧奨の理由では、会社側の経営事情が挙げられるのが普通で、それを文書として残しておくことで、労働者側の個別の問題が理由となっているのではないことを確認できます。後々話がこじれて解雇となった場合に、会社の経営上の理由による整理解雇であって労働者側に問題があったわけではないという流れに持って行きやすくなるはずです。弁護士に相談する場合には、会社側の主張のほかに労働者側で会社側が退職させたいと考えるような思い当たる事実があれば具体的に話してもらった上で、拒否し続けた場合に会社側が解雇に踏み切ってくるか、その場合に裁判等で勝てるかを検討し、その上で拒否か条件闘争かを判断していくということになるかと思います。
 検討の上で、退職勧奨に応じないと決めた場合は、それを会社に伝えた上でその態度を続け、退職届は絶対に書かないという方針になります。
 退職勧奨が度が過ぎる(退職強要)ということで、それ自体を不法行為であるとして慰謝料請求をしたいという相談も時々あります。裁判所は、使用者側の条件等の説明を相当程度緩やかに容認する傾向にありますから、労働者側が具体的な条件の説明を受けて十分検討した上で明確な拒否の回答をしているのに、かなり不穏当な発言を行い執拗に勧奨を続けるということでないと不法行為の成立は認められないでしょう。いずれにしても、退職勧奨は密室で行われ、使用者側は複数名いても労働者側は1人ということで使用者側が口裏を合わせて不穏当な発言の存在は否定してくることが予想され、録音でもないと使用者側の発言の立証は難しいと思います。

《口頭の解雇通告への対応》
 解雇通告が口頭でなされた場合、解雇が無効であるとして労働者側が裁判等の手続を取ったときに、使用者側が「解雇はしていない、労働者側が勝手に出社しなくなった」などと主張することがあります。その場合、裁判上は、労働者側が解雇と主張しているできごととその時期の経緯の事実認定とその評価から解雇なのか自主退職なのかを判断することになります。

社長にバカヤロー出てけといわれて、あぁわかった、二度と来ないと怒鳴ったんだが。
労働者側ではバカヤロー出てけが解雇の意思表示で、二度と来ないは退職の意思じゃないと主張しますがね…

 そういう余計な争いを残さないためにも、使用者側から解雇通告を口頭で受けたような場合には、必ず文書での解雇通知(と解雇理由証明書)を要求すべきです。働き続けたいのであれば、使用者側が文書を出さなければ解雇されていない(し退職もしていない)といって出勤を続けるくらいの態度を取るべきです。そうしていれば使用者側が解雇をあきらめるかもしれません(裁判等がいやで文書を出さないのであれば)し、解雇をあきらめないなら文書で解雇通知を出してくるはずです。

《解雇理由証明書の請求》
 解雇された場合、解雇について争う場合は、解雇理由証明書を請求しておくべきです。
 解雇が有効か無効かは、解雇理由が客観的にみて合理的であるか、解雇理由とされた事実と諸般の事情から見て社会通念上解雇が相当と認められるような場合かで判断されますから、解雇理由が何かということが決定的な意味を持ちます。
 弁護士が解雇の相談を受けて、見通しを考えるときにも、まずは解雇理由が何かということが問題になります。その時に、労働者が、こう言われたとか、こういうことだと思うというよりも、解雇理由証明書があれば、それを前提に検討・判断できます。
 そして、解雇理由証明書を取っておくと、使用者側は、そこに書いた解雇理由にある程度拘束されます。裁判等の段階で解雇理由証明書に書いていない解雇理由を主張してくることがあり、普通解雇の場合は裁判所もそれを許さないという姿勢を取ることは稀です(懲戒解雇の場合は懲戒処分の際に理由としたことに拘束されます)が、後から追加された解雇理由については使用者側で重視していなかった、当時業務上の支障がなかったのだろうと解されやすい傾向があります。解雇理由証明書を早い段階で取っておくことで、使用者側の解雇理由後付けを止めることはできませんが、その後の展開を有利に進める材料にはなります。
 そういう事情から、解雇理由証明書は、できる限り早い段階で請求すべきです。また、弁護士が代理して解雇理由証明書を請求するとなると、使用者側は確実に弁護士に相談してもっともらしい解雇理由を考えて回答してきますので、とにかく早い時期に本人名で解雇理由証明を請求すべきです。
 解雇理由証明書を出す義務は労働基準法(22条)に規定されています。労働基準監督署は、労働基準法違反がある場合はその事実を申告すると指導者に対して指導をしてくれますので、使用者が解雇理由証明書を出さないときは、労働基準監督署に申告すれば、使用者に指導してくれます。

 労働基準監督署の助言・指導は、本来は労働基準法違反でないとできないので、原則としては、解雇理由証明書の交付拒否とか、賃金不払いなどでないと労働基準監督署は動きません。「不当解雇だ」という申告をしても、それは個別労働紛争のあっせん手続を利用するようにと言われるのが通例です。
 しかし、近年は、労働基準監督署に「不当解雇だ」といって助言・指導を求めると、労働基準監督署は使用者を呼び出して、解雇理由を説明させ、その内容によっては、解雇が無効になる可能性があるから労働者とよく話し合った方がいいといようなことをいってくれることもそれなりにあるようです。しかし、その場合も、使用者が話し合いはしないといえばそれまでです(そういうことを記載した助言・指導票は情報公開請求をすれば交付されます)。

《解雇予告手当は?》
 労働基準法は、解雇は30日以上前に予告するか、そうでなければ30日分以上の平均賃金を支払わなければならないとしています。この30日分の平均賃金を「解雇予告手当」と呼んでいます。
 労働基準法は、30日以上前の予告か解雇予告手当の支払を求めているのですから、30日以上前に予告された場合には、解雇予告手当は支払われません。その場合は、解雇の日までの給料が支払われるのです。
 30日以上の期間を定めた予告がなく、直ちに解雇すると言われ、使用者が解雇予告手当を支払っていない場合、解雇の効力はどうなるでしょうか。労働相談をしていると、使用者が解雇予告手当を支払わないので解雇は無効だとか、そういうふうに聞いたとかいう相談者がよくいます。残念ながら、裁判所は、その場合でも、解雇を告げられた日から30日が経過した時点で解雇の効力が生じる(有効になる)と判断しています。
 使用者側には、解雇予告手当は普通解雇の場合だけで懲戒解雇の場合は払わなくてよいという誤解が時々見られます。労働基準法には「労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合」は解雇予告手当の支払義務がないという規定がありますが、それについては労働基準監督署の認定を受けなければならないということもはっきり規定しています(ただこの規定が、別の条文を引用する形になっているので素人にはわかりにくいのですね)。この労働基準監督署の認定(業界では「除外認定」と呼んでいます)は、実際には、そう簡単には出ません。ですから懲戒解雇の場合も、たいていは解雇予告手当の支払義務はあることになります。
 もっとも、日雇いの労働者(連続雇用が1か月以内の場合)、2か月以内の期間の有期契約(更新していない場合)、4か月以内の期間の季節的労働者、試用期間中で継続勤務14日以内の者については、解雇予告手当は支払われません。

解雇を争うとき、解雇予告手当はもらっていいの?
理屈としてはもらわない方がいいですよ。背に腹は替えられないときもありますが…

 解雇された労働者が、解雇を争わないときは、解雇予告手当を請求するのも、使用者から受け取るのも何の問題もありません。では、解雇を争うつもりの労働者はどうすべきでしょうか。解雇予告手当は、解雇が有効であることが前提となりますから、解雇の無効を主張する労働者が使用者に解雇予告手当を請求することは筋違いです。ですから、模範解答としては、解雇を争う場合、労働者は、解雇予告手当を請求しない、使用者が勝手に支払ってきた場合(給与振込口座に送金してくるのが普通)、解雇予告手当としては受領せず未払賃金(解雇後の賃金)に充てると内容証明で回答しておくということになります。間違って請求してしまった場合、使用者側から解雇予告手当を請求したり受領したのは解雇が有効であることを認めたものだと主張してくることがありますが、私の経験上は、それを理由に裁判所が解雇は有効だとか労働者側に解雇を争う資格がないといわれたことはありません。

   解雇を通告されたら 庶民の弁護士 伊東良徳   はてなブックマークに追加

解雇が無効になるとき
解雇との闘い方
雇い止めを通告されたら
残業代を請求するには
給料の減額を通告されたら
労働審判という選択




労働事件の話
借金・過払い金請求の話
エッセイ・雑談
プロフィール

Q   &   A

庶民の弁護士 伊東良徳のサイト モバイル新館
profile

庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

〒101-0054
東京都千代田区神田錦町1-1-6 神田錦町ビル3階
TEL.03-3291-0807
FAX.03-3291-6353