庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

  ◆民事裁判の話(民事訴訟の話)庶民の弁護士 伊東良徳のサイト モバイル新館

 強制執行と仮差押え

ここがポイント
 判決の内容によっては強制執行の方法がなく強制執行できない場合もある
 相手方に財産がないかあっても発見できない場合、強制執行できない
 裁判中の財産隠しを防止するために仮差し押さえなどの保全処分の制度がある

Tweet 

  裁判で勝ったら判決通りのことが実現できますか

 裁判で負けた側が判決に従わない場合、裁判に勝った側は、判決が命じたことを実現するために強制執行(きょうせいしっこう)をすることになります。
 しかし、判決の内容によっては、裁判所が強制的に実現する手段がないために強制執行できない場合もあります。例えば、職場を理由なく首にされた(解雇された)とき解雇が無効だという判決をとっても元の職場への復帰を強制的に実現することはできません(給料の支払義務はありますから、会社側が職場復帰を拒否したら働かないで給料をもらい続けられることにはなりますが)。
 お金を支払うように命じる判決の場合、従わなければその人の財産を強制的に売却して(競売して)お金に換えてそこから支払わせることになります。この場合、執行の手段はありますが、その人の財産がない場合(本当はあるけど見つからない場合も同じ)、実際には執行できません。「天下無敵の無一文」というやつです。その場合、判決があっても、ただの紙切れと同じです。
 不動産(土地や建物)の強制執行は、時間と費用がかかりますし、ほとんどの場合不動産は担保に入っていて借金の額の方が競売で売れる価格より多いので、効果的でない場合が多いです。
 動産(家財道具)の執行は、ほとんど二束三文で裁判所の出入り業者が買うだけで、費用倒れのことも多いです。その上、その出入り業者も運び出して他に売るのはめんどうなので、結局その場で執行を受けた本人が買い戻して終わりというのが実情です。
 預貯金の強制執行は、どの金融機関のどの支店に口座があるかがわからないとダメで、しかも差押え決定が届いた瞬間に口座にあったお金だけが差押え対象ですから、空振りだったりほんのわずかしか残額がなくて空振りということが結構あります。
 相手がしっかりした会社に勤めていれば、給料の差押えが有効ですし、相手が会社・事業者でしっかりした取引先があれば取引先への債権(商品を売った代金など)の差押えが有効です。でもそれもなかったら、現実的にはお手上げということが少なくありません。

  今は財産がある人が裁判中に財産を隠すのを防ぐ方法はありますか 

仮差押え
 裁判の前に、相手が判決までに財産隠しなどができないように、あらかじめ相手の財産を差し押さえることを仮差押え(かりさしおさえ)といいます。
 仮差押えは、申し立てる人(「債権者(さいけんしゃ)」と呼ばれます)が相手方(「債務者(さいむしゃ)」と呼ばれます)に対して金銭の支払いを請求する権利があって、裁判(本裁判)が終わるまで待っていると相手方が財産を手放して支払能力がなくなってしまうとか財産隠しをする恐れがあるときに認められます。仮差押えをするときには、そのことを証拠書類と裁判官の面前での説明(裁判業界用語では「審尋(しんじん)」という手続になります)で、裁判官を納得させなければいけません。証拠書類で明確でない点は、申し立てる人や関係者の陳述書を作成して説明することになります。権利があることの説明(裁判業界用語では「被保全権利(ひほぜんけんり)の疎明(そめい)」と言います)もそれなりに大変ですが、相手方が財産を処分したり隠す恐れ(裁判業界では「保全(ほぜん)の必要性(ひつようせい)」と言います)の説明はけっこう大変です。抽象的な説明や一般論ではダメで、相手方の事業や収入の状況、職業や信用状況、これまでの申立人からの請求への対応、相手方の言動などを具体的に示した上で、現実的に資産を売却したり隠す恐れを論じる必要があります。
 仮差押えは、相手には知らせずに(事前に知らせたら隠されてしまうから)、申し立てた側の言い分と証拠書類だけを見て裁判所が決定します。普通は1日、2日で決定します。相手の言い分も聞かず相手が出せる証拠書類も出す機会を与えずに決めるのですから、結果的に間違っていたとなる可能性もあります。そのため仮差押えのときは申し立てた側が保証金(ほしょうきん)を積むことを要求されます。保証金の額は、請求する権利の種類(手形金や貸金のような確実度の高い権利では低め)、差し押さえる財産の種類(不動産の場合掛け率は低め。ただし不動産の価格が高い場合不動産の価格を基準とするので高くなる。その他の財産はより高め)、差し押さえによって相手方が受けると予測されるダメージの程度(大きければ高くなる)、申し立てる側の権利の証明(仮差押えなどの保全手続(ほぜんてつづき)では、業界用語としては「疎明(そめい)」ですが)の程度(証明の程度が高ければ保証金は低め。そこが怪しければ保証金は高め)などの事件の内容や事情に応じて担当裁判官が決めますが、おおむね請求金額の1割〜5割の間です。
 仮差押えの対象とする財産としては、不動産が優先されます。登記簿上1つの不動産の一部だけの仮差押えはできません。請求する金額と比べて不動産の価格が相当高い場合でも他に差し押さえるのに適切な財産がなければ仮差押えできますが、請求する金額よりも不動産の価格が高い場合、保証金は不動産の価格を基準に定められますので保証金が高くなります。また請求する金額に対して不動産価格があまりに高いときは、仮差押えが認められないということもあります。
 不動産以外の財産、特に企業・事業者の銀行預金や取引先への債権(売掛金等)、個人の給料・退職金については、少なくとも企業の本店(さらには主要な事業所)、個人の自宅の不動産登記簿謄本を提出して、他人名義であるか、高額の抵当権があって差し押さえる価値がないことを示した上でないと裁判官が仮差押えを認めてくれないのがふつうです。さらに、個人の給料や退職金の仮差押えは、その人が裁判中に(近い将来)退職する可能性が相当あるということでないと認められません。また、銀行預金の仮差押えは、銀行と支店を特定する必要があります。

係争物に関する仮処分
 また、裁判が終わるまで放っておくと大変困ったことになる場合に、とりあえず判決前に一定のことを命じるということもできます。これを仮処分(かりしょぶん)と呼んでいます。
 財産隠しを防ぐという目的では、特に特定の財産が争いの対象となっているときに、裁判中にその財産を処分されてしまうと、裁判で勝っても権利を実現できないということになりかねません。例えば、不動産を買ったのに(その代金も払ったのに)売主が登記をしてくれないというとき、買主は売主に対して登記をするように裁判で求めることができますが、その間に売主が別の人にも売ってそちらに登記してしまったら、買主は裁判で勝ってもその不動産を自分名義に登記できないことになりかねません。そういうことを防ぐために、買主が売主に対してその不動産の売却を禁止する仮処分(処分禁止(しょぶんきんし)の仮処分)ができます。
 不動産の明け渡しを求めるときに、裁判中にその不動産に住んでいたり占拠している人が替わってしまうと、裁判で勝っても、そのときに住んでいる/占拠している人には裁判の効力が及ばないということになってしまうと、明け渡しが実現できないということになります。そういうことを防ぐために、裁判前に他の人が住むことを禁止したりする仮処分があります。
 このような争いの対象となる財産について裁判中の状態の変更を防ぐための仮処分を係争物に関する仮処分と呼んでいます。係争物に関する仮処分も、仮差押えと同じく、相手には知らせずに申し立てた側の言い分と証拠だけで決定します。

仮の地位を定める仮処分
 仮処分には、係争物に関する仮処分の他に、例えば職場を理由なく首にされた人が裁判が終わるまでの間とりあえず給料の支払いが受けられるようにする仮処分があります。このような仮処分は仮の地位を定める仮処分と呼ばれます。仮の地位を定める仮処分は、相手側の言い分も聞いた上で決定します。
  仮の地位を定める仮処分はこちら

**_**区切り線**_**

 民事裁判の話に戻る民事裁判の話へ

トップページに戻るトップページへ  サイトマップサイトマップへ

私に相談・事件依頼をしたい方へ 私に相談・事件依頼をしたい方へ