◆民事裁判の話
  仮の地位を定める仮処分

 裁判が終わるの待っていては、それまでに事情が大きく変わってしまい、裁判で勝っても権利が実現できないとか、意味がないという場合、仮の地位を定める仮処分という手続があります。田中真紀子の長女vs週刊文春やライブドアvsフジテレビで有名になった手続ですね。

  どういう場合にできるか

 裁判をすることができる内容なら、ほとんど何でも対象にできます。通常の民事裁判は1年とかそれ以上かかるのが普通ですが、仮処分は数日とか数週間で結論が出るのが普通です。その意味で大変便利な手続です。
 ただし、裁判が終わるまで待っていては「著しい損害」があるか「急迫の危険」(差し迫った危険)があることが条件となっています(これを業界では「保全の必要性」と呼んでいます)から、いつでもできるわけではありません。
 また、あくまでも「仮の」判断ですので、後から正式の裁判で間違っていたということになることもあり得るということになります。そこで、その場合のために、命令された側の損害賠償の担保として高額の保証金を積んでおくことが条件とされることが少なくありません。

  審理の進め方

 仮の地位を定める仮処分は、命じられる側に影響が大きいので、相手方も裁判所に呼び出して、相手方の言い分を聞いたり相手方の提出する証拠も見て判断します。仮処分では、直ちに調べることのできる証拠だけしか出せませんので、通常は証拠書類だけで、証人尋問等は申請しても普通は認められません。証言が必要なことはすべて陳述書にして出してしまうわけです。仮処分の場合の裁判所での期日は審尋(しんじん)と呼ばれます。審尋のペースはことがらの性質によります。期限がはっきりしている事件はとにかくその期限に間に合わせなければなりませんので、数日間隔とか、下手をすると毎日ということもあります。
 東京地裁の場合、仮差押えや仮処分は、原則として保全専門部(民事第9部)で行います(労働関係の仮処分とか、事件の種類で専門の部があるときは別です)。

  決定に不服があるときは?

 仮の地位を定める仮処分も含め「保全処分(仮差押え、仮処分を合わせて保全処分といいます)」について、不服がある場合は、保全異議(ほぜんいぎ)という手続を取ります。保全異議は保全処分をしたのと同じ裁判所(東京地裁が保全処分をしたのなら同じ東京地裁という意味です)に申し立てます。もちろん、保全処分をした裁判官とは別の裁判官が判断します。この時、普通は、保全異議を申し立てるとともに出された仮処分について執行停止(しっこうていし)の申立をします。保全異議の審理中に仮処分を執行されると困るからです。この執行停止も急いで決めますので、普通は高額の保証金を積むことを条件とします。
 保全異議に対する決定に不服がある場合は、上級裁判所に「保全抗告(ほぜんこうこく)」を申し立てることができます。この場合は、東京地裁が保全処分・保全異議に対する決定をしたときは、東京高裁ということになります。この場合もやはり執行停止が問題となります。
 ここまで見たように、仮の地位を定める仮処分は、早く決着がつく便利な手続ですが、現実的には高額の保証金の積み合いになり、金持ち同士の札束での争いという性格が強くなります。

  庶民が使える仮処分は?

 庶民が現実に使う仮処分としては、勤務先をクビになった(解雇された)ときに行う「賃金仮払い仮処分」があります。解雇されると、日本では、そのままでは収入がなくなりますので、1年後に裁判で解雇が不当だと判断されても、それまで生活ができませんから、保全の必要性があるということになります。この場合、収入がないことが理由ですから、普通は、労働者側に保証金を積むことは求められません。
 賃金仮払いの仮処分は、東京地裁の場合は保全部ではなく労働専門部(民事第11部、19部、36部)で審理されます。東京地裁ではおおむね2週間間隔くらいで審尋期日が入り、3ヵ月をめどに決定というのが目安になっています(もっと詳しくは「賃金仮払い仮処分」を見てください)。
 実は、原発訴訟でも仮処分でやったことがあるのですが(私がやったものでは福島第二原発3号機が再循環ポンプ破損事故を起こした後の運転差し止め。私は代理人になっていませんが福島原発でのプルサーマルの差し止めや浜岡原発での東海地震前の運転差し止めもありました)、仮処分にしても結局裁判所はゆっくりと審理をするし証人尋問ができないので使い勝手が悪いと感じました。

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