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  諭旨解雇ってなんだ

ここがポイント 
 諭旨解雇の内容や効果(退職金の支給)に法令上の定めはなく就業規則次第
 諭旨解雇でも退職金は支払わない、雇用保険は重責解雇にするという使用者もいる
 労働者が使用者から何らかの問題行動(非違行為:ひいこういと呼ばれることもあります)を指摘されて、諭旨解雇(ゆしかいこ)とか諭旨退職(ゆしたいしょく)を通告されることがあります。
 多くの企業では、諭旨解雇というのは、懲戒解雇より1等軽い懲戒処分で、いついつまでに退職願を提出することを求める、退職願いを提出しないときは懲戒解雇するというように就業規則で定め、そのように通告され、諭旨解雇の場合は懲戒解雇とは異なり退職金は支給するという扱いで、雇用保険の離職票の離職理由は「解雇(重責解雇を除く。)」とされます。そのあたりは「諭旨解雇を争う」のページで説明しています。
 しかし、諭旨解雇通告の場合でも退職金はまったく払わない、離職票の離職理由を重責解雇で出すという事例もありました。

 懲戒処分としてどのようなものを定めるかについて、法令上の制限は、減給を定める場合は限度額がある(1回の額は平均賃金の1日分の半額まで、総額で1賃金支払期の賃金総額の10分の1まで:労働基準法第91条)以外にはありません。たいていの企業は、懲戒解雇、停職(出勤停止)、減給、譴責を定めていますが、それに限られるわけでもありません。使用者が労働者を懲戒するには,あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する(その就業規則の周知も要する)とされている(最高裁2003年10月10日第二小法廷判決)のも、それが法令では決まっていないからとも言えます。
 したがって、懲戒処分の1つとして諭旨解雇とか諭旨退職を定めるかどうかも、どのような処分として定めるかも、使用者の自由ということになります。ちなみに、厚生労働省のモデル就業規則では、懲戒の種類としてけん責、減給、出勤停止、懲戒解雇のみを定め、諭旨解雇は定めていません(第67条)。
 改めて、私が訴訟相手にした比較的著名な企業の就業規則での定めを見ると、「退職を勧告して、退職させる。退職に応じない場合は、懲戒解雇する。」、「その旨を諭し、退職願を提出させる。ただし、通告してから5日以内に退職願を提出しないときは、懲戒解雇とする。」、「諭旨退職:諭して退職願の提出を勧告し退職させる。諭旨解雇:諭して解雇する。」など、規定の書きぶりは一様ではありません。3つめの例のように、拒否したら懲戒解雇ではなく解雇するとする例も、少なからずあります。
 加えて、退職金についても、どのような制度にするかに関しては法令上制限はなく(制度を作るなら就業規則に定めるべきというだけ:労働基準法第89条第3号の2)、懲戒解雇や諭旨解雇の場合に退職金を支払うか、どれだけ支払うかも使用者が自由に決めることができます。懲戒解雇の場合は退職金は支払わない、諭旨解雇の場合は支払うとしている企業が多いですが、そうとは限らず、違う制度にすることは可能です。

 私が経験した諭旨解雇で退職金を支払わないとした使用者は、諭旨解雇を「退職届の提出を勧告し、これに応じない場合には、30日前に予告して、若しくは30日の平均賃金を支払って解雇し、又は予告期間を設けないで即時に解雇する。」と定め、退職金については、「諭旨解雇の処分を受けた場合においては、非違の程度に応じて、退職手当を支給せず、又は(中略)一部を減額した額をもってその者の退職手当の額とする。」、懲戒処分を受けた者に対しては「事情(中略)を勘案して、当該退職手当の全部又は一部を支給しない。」と定めていました。
 つまり、諭旨解雇で退職届を提出しない場合も懲戒解雇になるわけではなくただ解雇されるという立て付けで、退職金は諭旨解雇でも懲戒解雇でも情状により一部支給することもまったく支給しないこともできるというのです。
 これだと、懲戒解雇と諭旨解雇に違いがあるのか、どう違うのかもわかりません。

 そして、この規定なら諭旨解雇は懲戒解雇ではないのですから、通常の感覚では離職票の離職理由は「解雇(重責解雇を除く。)」になりそうです。しかし、この使用者は、離職理由を重責解雇とし、労働者の異議を受けてハローワークが問い合わせても重責解雇だと回答しました。ハローワークは、離職理由について使用者が違うと認めないと、ほとんどの場合、使用者の届出に従って処理します。
 離職理由が重責解雇の場合、雇用保険(基本手当)は3か月間受給できない上、支給日数も(年齢と就業年数等によりますが)普通解雇より相当減らされ、結局受給できる総額が相当少なくなります。
 雇用保険は裁判が終了すると、その結果によって離職理由等の見直しがなされます。この件では最終的に和解が成立し諭旨解雇日付けの合意退職となりました(使用者は、諭旨解雇の撤回の文言を入れることを拒否しました)。
 離職理由が合意退職に替わったのですから、労働者はハローワークに連絡し、重責解雇とされたことによって支給が減額された分の追加支給を求めました。それを受けてハローワークは使用者に離職理由が変更されたことの同意を求めましたが、この使用者は頑として同意しなかったそうです。労災保険なら労災の有無で将来の保険料額が変わりますが、雇用保険では労働者への支給が使用者に影響することはありません。ただのメンツか労働者への嫌がらせ以外には、同意しない理由などありません。使用者の同意を求めるハローワークの姿勢にも問題があります(合意退職になったことは裁判所作成の和解調書で明らかなのですし)が、こういう大人げない使用者がいるのはまったく困りものです。この件では、2度目の同意拒否を受けてハローワークの判断で離職理由変更、差額追加支給が認められました。

 労働法、労働事件の分野では、法令では決まっていない、使用者が自由に定められることが意外に多く、また具体的な場面でどうなるかがはっきりしないことが多々あって、事件ごとに考え対応していくしかないことがあるのですが、困った人がいて悩むことも多いです。そういった話のひとつでした。
(2026.1.23記)
【解雇事件よもやま話をお読みいただく上での注意】
 私の労働事件の経験は、大半が東京地裁労働部でのものですので、労働事件の話は特に断っている部分以外も東京地裁労働部での取扱を説明しているものです。他の裁判所では扱いが異なることもありますので、各地の裁判所のことは地元の裁判所や弁護士に問い合わせるなどしてください。また、裁判所の判断や具体的な審理の進め方は、事件によって変わってきますので、東京地裁労働部の場合でも、いつも同じとは限りません。

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