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短くわかる民事裁判◆
勝訴の見込みなしとした訴訟救助却下例
 訴訟救助の要件の「勝訴の見込みがないとはいえない」(民事訴訟法第82条但し書き)については、私の実感では、裁判所はかなり緩い判断をしています。

 実際の却下例で「勝訴の見込みがないとはいえない」の要件を満たさないとされたものを紹介しましょう。
 不動産の(元)所有者が、その不動産の担保権(根抵当権)の実行として競売を申し立てられ、その手続で買受人として売却許可決定を受けて代金納付した新所有者が裁判所の引渡命令を得て執行したことが、不法行為だとして損害賠償を請求しました。競売の原因となった根抵当権が無効だという主張です。東京地裁2006年2月2日決定は、原告の訴訟救助申立てに対して、担保不動産競売では代金納付による買受人の不動産の取得については担保権の不存在または消滅によって妨げられない旨定められている(民事執行法第184条)ので買受人の代金納付によって原告が不動産所有権を喪失していることは明らかで、買受人の不動産取得を争うことが許されていない以上買受人が不動産を取得したことを理由として損害賠償を請求することが原則であり、原告は損害賠償を求める根拠となる事実も条文上の根拠も明らかにしていないから主張自体失当であり、勝訴の見込みがあると認めることはできないとして却下し、即時抗告審の東京高裁2006年3月22日決定も同様の理由で抗告を棄却しました。
 最高裁2006年6月23日第三小法廷決定は、「所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。」として許可抗告を棄却しました(判例時報1972号16~17ページ【3】)。

 破産会社の代表者に対して破産裁判所が行った役員責任査定の裁判(破産法第178条第1項)について、その責任があるとされた代表者が、自らについて破産手続開始決定があった後で異議の訴え(破産法第180条第1項)を提起して訴訟救助の申立てをしたところ、東京地裁2010年4月21日決定は、自らに対する破産手続開始決定により財産の管理処分権を失った原告(代表者)はこの訴訟(異議の訴え)について当事者適格がないからこの訴訟は不適法却下を免れず「勝訴の見込みがないとはいえないとき」に該当しないとして訴訟救助の申立てを却下しました(判例時報2121号6ページ【5】)。この訴訟救助却下決定はそのまま確定し、訴え提起手数料納付を求める補正命令が出され、手数料不納付による訴状却下の後、これに対して即時抗告、許可抗告が申し立てられましたが、いずれも退けられています。

 これらのケースは、やや難しいというか、民事執行法や破産法の規定が出てきてなかなか理解しにくいかと思いますが、前者は担保権不存在の主張がしたいなら競売開始決定に対する執行抗告や執行異議の手続でやるべき(民事執行法第182条)で、代金納付後に主張する話じゃない、後者も自分が破産開始決定を受ける前にやるべきで破産者になったら申立て権限がない、それは破産管財人がやることだということで、法的に無理な主張、言い換えれば、主張する事実がそのとおりであっても法的に通る余地がない主張だということです。原告が主張するとおりの事実が認められても法的・理論的に通らないのですから、審理検討するまでもなく、勝訴の見込みはおよそないということですね。

 勤務先で他の従業員から暴行を受けPTSD(心的外傷後ストレス障害)に罹患したと主張して勤務先の会社等に対して損害賠償請求をして一部勝訴した労働者が、その訴訟中に別に紛争状態にあった親族の代理人(弁護士)から犯罪者呼ばわりされ、それによって会社等との訴訟で損害額が訴因減額により6割減額されたとして、弁護士に対し会社等との訴訟で減額された額の損害賠償請求をして訴訟救助の申立てをしました。名古屋地裁2008年8月6日決定は、勝訴の見込みがないとはいえないときの要件を満たさないとして訴訟救助の申立てを却下し、即時抗告審の名古屋高裁2008年10月14日決定も抗告を棄却しました。
 最高裁2009年1月20日第三小法廷決定は、「所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。」として許可抗告を棄却しました。(判例時報2085号6ページ【4】)
 このケースは、訴因減額は被害者(労働者)の特性による減額なので、第三者(弁護士)の行為に起因するものではなく、いずれにしても別の裁判で主張が認められなかったことをその裁判と関係していない弁護士のせいにするのが、ふつうに考えて無理ということでしょう。この場合は、原告が主張する事実がそのとおりだったとしても、被告の行為によって損害なり別訴の不利な認定が生じたという因果関係を認めるその評価なり論理に無理がある(裁判のロジックでは「経験則に反する」)ので、そのような無理な主張が認められることはおよそ考えられず、勝訴の見込みがないということですね。

 訴訟救助については「裁判所に納める費用が払えないとき(訴訟救助)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「訴訟費用が払えないとき(訴訟救助)」でも説明しています。
  

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