◆短くわかる民事裁判◆
猶予された訴訟費用支払義務の消滅時効
訴え提起時に原告に資力がないとして訴え提起手数料等について、裁判所は、原告が全部敗訴したときや訴えを取り下げたときには、訴訟救助決定を取り消すことなく直ちに受救助者に対して猶予した費用の支払を命じる「支払決定」をすることができ、他方、一部敗訴や和解の場合には資力回復を待って(調査し)訴訟救助の取消決定を行った上でなければ支払決定をすることができないと解されています(それについては、「訴訟救助事件終了後の受救助者への支払命令」で説明しています)。
このように、原告全部敗訴の場合や原告が訴えを取り下げた場合、裁判所は直ちに支払決定をすることができます。他方で、国の(金銭)債権は、「時効に関し他の法律に規定がないものは、これを行使することができる時から五年間行使しないときは、時効によつて消滅する。」と定められています(会計法第30条)。国の費用支払請求権は、支払決定ができるときから行使できると考えていいでしょうか。
これが争われたケースを紹介します。
いわゆる第3次スモン訴訟(キノホルムによる薬害事件)で訴訟救助を受けた原告らのうち5名が、2回目の準備手続期日後の1972年12月6日に訴えを取り下げ、その取下書の送達後3か月以内に被告らの異議がなかったために遅くとも1973年3月21日には取下げの効果が生じた(現行民事訴訟法では第261条第5項で2週間で同意が擬制されますが、当時の民事訴訟法では3か月でした)のですが、裁判所はその時点では訴訟救助に関して特に手続を取らずに放置し、訴訟全体が最終的に確定した1994年12月8日の後、1997年2月27日にいたって、早期に取下げをしていた上記5名に対して支払いを猶予した訴え提起手数料各25万0019円と支払決定正本送達費用各208円の合計25万0227円を国庫に対し支払うよう命じる支払決定をしました。その支払決定に対する即時抗告審の東京高裁1997年12月12日決定は、「訴訟救助を受けた者が猶予を受けた訴訟費用の支払義務を負うのは、具体的な額を定めた支払決定を受けたときからと解すべきであり、訴えの取下げ等の訴訟の終了により、当然に支払義務が発生するものと解することはできない。」としました(判例時報1646号131ページ)。
この東京高裁1997年12月12日決定は、「もっとも、このように解すると、いつまでも支払決定ができることになるが、長年月を経る等の特別の事情により、支払決定をすることが、支払を命じられた者の予測に著しく反し、その法的安定性を損なうような場合には、もはや支払決定は許されなくなるものと解すべきである。」としつつ、第3次スモン訴訟だけでも原告155名、訴訟救助を受けた者が153名、並行審理されたスモン訴訟は202次原告総数3600名余、訴訟救助を受けた者が2900名余に及ぶことなどを指摘し、「本件訴訟は多数の原告があり、その終局事由も取下げ、和解、判決と多様であり、上訴審係属期間も長期に及んだものであるから、訴訟救助により猶予された訴訟費用の取立てを一件記録に含まれる全事件終了後に行うこととしたことは、やむを得ない措置として是認されるものであり、抗告人ら以外の訴えの取下げをした者が、抗告人らに匹敵する期間経過後において猶予費用を納付していることを考慮すれば、本件決定が抗告人らの予測に著しく反し、その法的安定性を損なうような場合に該当するとはいえない。」としています。
訴訟救助については「裁判所に納める費用が払えないとき(訴訟救助)」でも説明しています。
モバイル新館の「訴訟費用が払えないとき(訴訟救助)」でも説明しています。
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