◆短くわかる民事裁判◆
訴訟救助:資力要件
「訴訟救助の申立て」で説明したように、訴訟救助の申立てが認められるのは、「訴訟の準備及び追行に必要な費用を支払う資力がない者又はその支払により生活に著しい支障を生ずる者」に対してです(民事訴訟法第82条第1項。これに「勝訴の見込みがないとはいえないときに限る」という要件が加わります:同項但し書き)。
この「訴訟の準備及び追行に必要な費用」とは、実質的に訴訟救助で支払猶予の対象となる訴え提起手数料、あるいは判決でその負担が判断される訴訟費用だけではなくて、調査費用や弁護士費用も含めたものと解されています。
現行の民事訴訟法(1998年1月1日施行)前の旧民事訴訟法第118条では「訴訟費用ヲ支払フ資力ナキ者」とされていました。この要件について、公害・薬害等の事件で問題となり、例えばクロロキン薬害訴訟での訴訟救助却下決定に対する即時抗告で東京高裁1976年11月18日決定は「訴訟を提起し追行するにあたつては、当事者は、事件の内容性質に応じて、法定訴訟費用のほかにも様々の準備調査の費用、弁護士費用その他訴訟追行に附随する諸費用を一定期間内に支出することが必要となることがあることは当然であつて、その支出が訴訟費用支弁のための経済力に影響を及ぼすことは明瞭である。したがつて裁判所が当事者に法定訴訟費用を支払う資力があるかどうか判定するにあたり、法定訴訟費用のほかに右の意味で必要な諸費用についても、おおよそどの程度のものが必要とされるかを考慮せざるを得ないことは、理の当然であるといわなければならない。」(明らかに誤植と思われる箇所を訂正の上引用)として、準備調査の費用や弁護士費用も含めた費用の支払能力であるとしています。
現行法の規定は、これらの裁判例を受けて、支払能力の対象となる費用を「訴訟の準備及び追行に必要な費用」と拡大し、支払能力の評価も「その支払により生活に著しい支障を生ずる者」も含むとしたものです。
そういった立法の経緯と規定の文言から、訴訟救助の要件の資力要件の基準は、訴え提起手数料や訴訟費用の支払が困難であるかではなく、弁護士費用も含めたその訴訟に通常かかる費用の支払が困難かということになります。
そういうその訴訟に通常かかる費用全体を見て支払が困難な者に、訴訟費用(通常はそのうち訴え提起手数料)の支払いを猶予するのが訴訟救助であり、弁護士費用について立て替えるのが法テラスという制度設計になっているのです。
この東京高裁1976年11月18日決定は、「原決定が、総理府統計局発行の「家計調査報告書」に基き我が国の標準勤労者世帯(世帯人員3.83人)の平均実収入(年間約247万円)を求め、この程度の年収額による生活をもつて我が国の一般的生活水準と認め、更に本案の性質内容に鑑みて抗告人らが現在もなおクロロキン網膜症の治療費の支出及び該症による特別な生活支出を余儀なくさせられていること並びに本案追行に要する費用を考慮して、原則として同居の家族4人までの世帯につき年収合計金300万円程度をもつて一般的合理的基準とし、右金額以下の場合には訴訟上の救助を付与することとしたのは、本件の全疏明に徴しまことに相当であると言わなければならない。」としています。
同じ基準で2024年の「家計調査報告書」の2人以上世帯のうち勤労者世帯(平均世帯人員3.23人)の平均実収入は1か月当たり63万6155円とされています(こちらのファイルの8ページ)。これを基準に認めてくれるなら、訴訟救助はすごく楽なんですが。現在は、この半分以下の法テラスの資力基準を満たしていても裁判所によってはうるさく言われたり通らないこともあるのが、実情です。訴訟救助の資力基準に関しては、昔はよかった、という感じがあります。
訴訟救助については「裁判所に納める費用が払えないとき(訴訟救助)」でも説明しています。
モバイル新館の「訴訟費用が払えないとき(訴訟救助)」でも説明しています。
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