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短くわかる民事裁判◆
訴訟救助の一部認容と請求の減縮
 原告が訴え提起の際に訴訟救助の申立てをしたのに対して、裁判所が訴え提起手数料の一部についてだけ訴訟救助を認める(一部認容・一部却下の決定をする)ということもあります。
 複数の請求、例えば証書真否確認の訴えと損害賠償請求をしているときに、証書真否確認請求は勝訴の見込みがないとはいえないの要件を満たさないが損害賠償請求については要件を満たすとか、多額の請求をしているときに、全額について勝訴の見込みがないとはいえないの要件を満たさない(主張通りの事実が認められてもとてもそんな額の請求が認められるとは考えられない:過大な請求だ)というような場合には、そういった一部についての訴訟救助がなされることが考えられます。

 その場合、訴訟救助が認められなかった部分は、(訴訟救助の効果である)支払いの猶予が認められないので、裁判所としては原告に対して支払いを命じることができ、裁判所は訴え提起手数料の納付を内容とする「補正命令」を出すことになります(民事訴訟法第137条第1項後段)。
 訴訟救助の一部認容(一部却下)決定を受けて、原告が訴訟救助が認められなかった部分に対応する請求を取り下げた場合はどうなるでしょうか。
 その場合でも、最初にすべき口頭弁論の期日終了前の取下げにより納付済みの額から一定額(取下げ部分に対応する手数料額の半額と4000円の大きい方)を控除した額について還付請求ができる(民事訴訟費用法第9条第3項)に止まりますので、納付義務がなくなるわけではありません。
 訴え提起手数料の納付を命じる補正命令に原告が従わない場合、裁判長は、命令で、訴状を却下しなければならないとされています(民事訴訟法第137条第2項)。
 しかし、(現実に本当に印紙代も払えないのかはとりあえずおいて)裁判所が資力要件(必要な費用を支払う資力がない者またはその支払いにより生活に著しい支障を生ずる者:民事訴訟法第82条第1項)を満たすと判断した上で、請求の一部であっても「勝訴の見込みがないとはいえない」と認めていながら、「払えない」訴え提起手数料を納付しないと訴状却下して裁判を終わらせるというのは、それでいいのか疑問を生じます。

 死刑確定者が拘置所の処遇(親族との接見)をめぐって300万円の国家賠償請求の訴え提起とともに訴訟救助申立てをしたのに対し、第1審裁判所が、原告が主張する違法行為や損害の内容に照らして50万円を超える部分は明らかに過大として、50万円の請求に対応する訴え提起手数料5000円分と書類送達に必要な費用につき訴訟救助を認め、それ以外の申立てを却下する決定をするとともに訴え提起手数料1万5000円(300万円の請求に対応する2万円から5000円を差し引いた額)を訴訟救助決定確定の日から5日以内に納付することを求める補正命令を発しました。原告は訴訟救助決定に対して即時抗告を申し立て、その後請求額を50万円に訂正する訴状訂正申立書を提出しました(請求の減縮:せいきゅうのげんしゅく)。その後即時抗告が棄却されて訴訟救助決定が確定し、第1審は、請求の減縮によっては補正命令に応じた補正がなされたとはいえないから本件訴えは不適法として、民事訴訟法第140条に基づいて判決で訴えを却下しました。
 原告の控訴に対し、控訴審判決(東京高裁2013年7月10日判決)は、本件訴えの提起と同時に訴訟上の救助の申立てをした被上告人の意思を合理的に解釈すれば、本件訴えの請求金額は、本件訴状が提出された時ではなく、本件訂正申立書が提出された時に50万円に確定したというべきであるから、本件補正命令は違法であり、これに応じた補正がされなかったことを理由に本件訴えを却下することは許されないとして、第1審判決を取り消し、本件を第1審に差し戻しました。
 最高裁2015年9月18日第二小法廷判決は、「金銭債権の支払を請求する訴えの提起時にされた訴訟上の救助の申立てに対し、当該債権の数量的な一部について勝訴の見込みがないとはいえないことを理由として、その部分に対応する訴え提起の手数料につき訴訟上の救助を付与する決定が確定した場合において、請求が上記数量的な一部に減縮されたときは、訴え提起の手数料が納付されていないことを理由に減縮後の請求に係る訴えを却下することは許されないと解すべきである。」として国側の上告を棄却しました。その理由は、「訴え提起時にされた訴訟上の救助の申立てに対する一部救助決定には、勝訴の見込みがないとはいえないとされた数量的な一部に請求が減縮された場合、これに対応する訴え提起の手数料全額の支払を猶予し、その結果、訴え提起時の請求に対応するその余の訴え提起の手数料の納付がされなくても、減縮後の請求に係る訴えを適法とする趣旨が含まれるものというべきである。」つまり、一部救助決定は、それ自体に、その認めた範囲に請求が減縮されれば訴え提起手数料の納付がなくても訴訟は適法とする趣旨を含む(含んでいなければならない)というのですね。
 控訴審判決は、一部救助決定に合わせて請求を減縮したときには訴え提起手数料自体が減縮後の請求額分しか生じないとしたのに対して、最高裁判決は、請求を減縮しても訴え提起手数料は当初請求額分生じ(最初にすべき口頭弁論の期日終了前の取下げによる還付は別として)、しかし納付しなくても訴訟は維持できる(手数料不納付を理由とする却下は許されない)としたものです。

 訴え提起手数料の還付については、「手数料還付」で説明しています。

 訴訟救助については「裁判所に納める費用が払えないとき(訴訟救助)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「訴訟費用が払えないとき(訴訟救助)」でも説明しています。

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