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短くわかる民事裁判◆
敗訴後の猶予手数料不払いと訴訟救助の濫用
 訴訟救助を受けて訴え提起手数料の支払いを猶予された原告が敗訴した場合、裁判所は、原告に支払いを促した上で、それでも原告が支払わないときには、原告の全部敗訴の場合は支払いを命ずる決定(支払決定)をします。(一部敗訴や和解の場合は、原告の資力回復を待って訴訟救助決定の取消をした上でないと支払決定ができないと解されています。それについては「訴訟救助事件終了時の受救助者への支払命令」で説明しています)
 支払決定をしてもなお原告が支払わないとき、裁判所がどこまでやるのか(原告の財産調査をして強制執行までするのか)は、私にはわかりません。

 しかし、支払決定を受けても支払わない原告が、別事件でまた訴訟救助申立てをしてきたとき、裁判所はそれを理由に訴訟救助を拒否できるでしょうか(法テラスの援助決定でも同様の問題があります)。

 2011年12月に岐阜地裁でそれが問題とされました。受刑者が多数の国家賠償請求訴訟を提起し、訴訟救助の申立てをしたのに対し、岐阜地裁は、原告(受刑者)がこれまでに少なくとも170件を超える訴訟を提起すると同時に訴訟救助の申立てを行い、多数回にわたり訴訟救助の決定を受けてきたが、原告は実親から継続的に現金等の差し入れを受けたほか自らが提起した訴訟により数回にわたり賠償金を得ているにもかかわらず、これまでの訴訟で猶予された訴訟費用を払わず、賠償金については短期間のうちに必要性のない使途に費消し、正当な理由なく刑務作業を行わず6年あまりの間の作業報酬金がわずか2387円に止まっていることを考慮して、原告の訴訟救助の申立ては訴訟救助制度を不当に濫用するものであり、許されないとして訴訟救助申立てを却下し(岐阜地裁2011年12月2日決定、同月7日決定、同月19日決定)、即時抗告審も同じ理由で抗告を棄却し(名古屋高裁2012年3月2日決定、同年6月29日決定、同日決定)、これらに対する許可抗告について最高裁はいずれも「所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。」として、抗告を棄却しました(最高裁2012年7月31日第三小法廷決定、同年11月29日第一小法廷決定、同年12月4日第三小法廷決定:判例時報2206号6ページ【15】【16】【17】)。
 極端に多数回の猶予手数料の敗訴後の不払いに加え、収入があるのに払わなかったこと、収入を得ようとしないまたは差押えリスクのある財産を持とうとしないことなどの事情が重なった事案での個別的判断ではありますが、過去の猶予手数料の不払いが新たな訴訟救助の決定の考慮事項をなり得ることを示すものとして注目されます。

 訴訟救助については「裁判所に納める費用が払えないとき(訴訟救助)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「訴訟費用が払えないとき(訴訟救助)」でも説明しています。
 

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