◆短くわかる民事裁判◆
抗告の取下げと裁判外の和解
決定・命令に対する不服申立てである抗告(即時抗告の他、通常抗告、再抗告、許可抗告、特別抗告も同じ)も、控訴と同様、抗告審の決定があるまでは抗告人(再抗告人・特別抗告人・申立人)が取り下げることができ、控訴の取下げと同様、相手方の同意は不要です(民事訴訟法第331条、第292条)。
抗告が取り下げられれば、抗告の提起・申立てがなかったことになり、相手方が別に抗告しているとか抗告期間がまだ経過していないという場合でなければ、抗告の対象となっていた決定が確定することになります。そのあたりの事情、抗告していないまたは附帯抗告しかしていない相手方の保護(同意)の必要性がないことなどは、控訴の取下げの場合と同じです。それに関しては「控訴の取下げ」で説明しています。
抗告の取下げは(口頭弁論期日に行う場合以外は)書面で行う必要があり、訴訟記録がある裁判所にする必要があります。また、相手方のある抗告事件では、抗告の取下げがあった場合は書記官は相手方に通知をする必要があります。それらも控訴の取下げの場合と同じです。
抗告人・申立人が抗告の取下げを行うときは、まったく勝ち目がないと判断したという場合も多いでしょうけれども、裁判外で相手方と話し合いがつき、相手方との間で取り下げることも含めた合意が成立したという場合も多いと思われます。
裁判外で合意ができたら、通常はそれに伴って抗告の取下げ(あるいはその元になった訴えの取下げ)がなされるのが通常ですが、抗告の取下げをしなかったらどうなるでしょうか。
最高裁2011年3月9日第三小法廷決定は、「抗告人と相手方との間において、抗告後に、抗告事件を終了させることを合意内容に含む裁判外の和解が成立した場合には、当該抗告は、抗告の利益を欠くに至るものというべきであるから、本件抗告は、本件和解が成立したことによって、その利益を欠き、不適法として却下を免れない。」としています。裁判外の合意ができた以上、抗告人が取り下げなくても、もう「抗告の利益」がないから抗告は維持できないというのですね。
※事案は非嫡出子の相続分差別がある民法の規定(旧第900条第4号但し書き前段:その後別事件での最高裁2013年9月4日大法廷決定で違憲とされ、同年12月11日施行の改正で削除・変更され、旧規定は2013年9月5日以降に開始した相続には適用されないこととなりました)が違憲かどうかが争われていた事件で、当事者が代理人(弁護士)に知らせないまま、当事者は事件が最高裁大法廷に回付された(憲法判断ないしは判例変更が行われる可能性、つまり勝訴の可能性が高くなった)ことを知らないままに和解してしまい、当事者の認識に思い違いが、また弁護士との行き違いがあったという悩ましさのあるもので、「仮に、抗告人が、本件抗告の結果、自らの主張が容れられる可能性の程度につき見通しを誤っていたとしても、本件和解が錯誤により無効になる余地はない。」と単純に割り切っていいものかは疑問もあります(最高裁、意地悪い感じもします)。
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