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短くわかる民事裁判◆
土地管轄:銀行預金の払戻請求
 民事訴訟法第5条第1号は財産上の訴えについて「義務履行地」の土地管轄を定め、民法第484条は、「弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない。」と定めていますので、法律の世界では、特定物引渡債務以外は「持参債務の原則」があり、債権者住所地、したがって原告住所地に管轄があるといわれます。
 しかし、現実の世の中では、事業者、特に大企業は、自分の好きなような約款(取引開始前後に示される普通人がまず読むことがない長い長い規定類)を定め、その中で「弁済をすべき場所について別段の意思表示」をしていることが多々あります。

 死亡した預金者(被相続人)の相続人が、銀行に対して預金の法定相続分の払戻を請求する訴訟を原告住所地の徳島地裁阿南支部に提起したところ、銀行は、徳島県内には支店がなく預金の取扱支店が阿倍野支店(大阪市)であることを理由に、管轄違いによる移送(民事訴訟法第16条第1央)の申立てをし、第1審(徳島地裁阿南支部2012年1月20日決定)は大阪地裁への移送を決定し、これに対し原告が即時抗告しました。即時抗告審(高松高裁2012年2月28日決定)は、銀行預金に関する債務の履行は預金取扱をする銀行店舗で行うのが全国一般に行われてる商慣習であり、預金者である被相続人らにおいて上記慣習に従わないという意思を表示したことをうかがわせる資料はない、銀行規定では普通預金の払戻は本支店のいずれかの店舗に対して払戻請求書を提出して請求する、定期預金の払戻は取扱支店に所定の払戻請求書を提出して請求するものとされているから義務履行地は銀行店舗の所在地であるとして抗告を棄却しました。
 最高裁2012年6月21日第一小法廷決定は、「所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。」として許可抗告を棄却しました(判例時報2206号6ページ【14】)。

 管轄についてはモバイル新館のもばいる 「どの裁判所に訴えるか」でも説明しています。
  

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