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短くわかる民事裁判◆
土地管轄:相続債務不存在確認請求
 民事訴訟法第5条第15号は相続債権その他相続財産の負担に関する訴えについて「相続開始の時における被相続人の普通裁判籍所在地」の土地管轄を定めています。
 この規定は、「相続財産の全部又は一部が」、「相続開始の時における被相続人の普通裁判籍所在地」の「裁判所の管轄区域内にあるときに限る」とされており、相続債権者(被相続人に対する債権を有する者)がその後の判決の執行に便宜であることから定められていると解されています。そのため、相続人を被告とする場合にのみ適用され、相続債権者が被告とされる場合には適用されないと解されています。

 そのことが裁判上示された事例を紹介します。
 死亡時(相続開始時)に大阪府内に住所があった被相続人に対する貸金債権を有すると主張する宮城県在住者に対して、相続人らが貸金返還債務不存在確認請求訴訟を大阪地裁に提起し、被告は相続人らに対して貸金返還請求訴訟を仙台地裁に提起した上、大阪地裁に対し貸金債務不存在確認請求訴訟の仙台地裁への移送を申し立てました。大阪地裁2009年5月29日決定は民事訴訟法第17条(当事者間の衡平を図るための移送)に基づき仙台地裁に移送を決定し、即時抗告審の大阪高裁2009年7月31日決定は、本件では民事訴訟法第4条第1項(被告の普通裁判籍)、第5条第1号(義務履行地)により仙台地裁にのみ管轄がある、第5条第15号はその相続財産の所在要件に鑑みると相続債権者の爾後の執行の便宜のための規定であり、相続人を被告とする訴えにつき同号所定の管轄を認めても当事者に格別不利益は生じないが、相続債権者を被告とする訴えについてまで同号所定の管轄を認めると相続債権者に理由のない不利益を甘受させることになるから、同号は相続人を被告とする訴えに限り適用される、したがって本件については応訴管轄が生じない限り大阪地裁の管轄には属しないとして、民事訴訟法第16条第1項(管轄違い)に基づき職権により仙台地裁に移送すべきものとして抗告を棄却しました。
 最高裁2009年10月26日第一小法廷決定(判例時報2085号5ページ【2】)は、「所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。」として許可抗告を棄却しました。

 管轄についてはモバイル新館のもばいる 「どの裁判所に訴えるか」でも説明しています。
  

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