◆短くわかる民事裁判◆
土地管轄:所有権に基づく引渡請求
民事訴訟法第5条第1号は財産上の訴えについて「義務履行地」の土地管轄を定め、民法第484条は、「弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない。」と定めています。
特定物の引渡を、引渡債権に基づいてではなく、所有権に基づいて請求した場合、義務履行地は占有者が占有を取得した場所でしょうか、現在の占有場所(物の所在地)でしょうか。
被告が、三重県内で占有を取得し現在は東京都内で占有している株券について、原告が所有権に基づいて引渡を求める訴訟を津地裁に提起しました。被告は、所有権に基づく請求(物権的請求権:ぶっけんてきせいきゅうけん)の義務履行地は物の所在地であり、津地裁には管轄がないと主張して東京地裁または東京簡裁への移送を申し立てました。津地裁2001年6月15日決定は、所有権に基づく物の返還を内容とする物権的請求権の義務履行地は特定物の引渡を求める債権に準じ、債権発生当時その物の存在した場所と解すべきであり、原告の被告に対する株券返還請求権は株券を被告に交付した瞬間に生じたものであるから、被告による株券の占有取得地が民事訴訟法第5条第1号の義務履行地となり、津地裁に管轄があるとして移送の申立てを却下し、即時抗告審の名古屋高裁2001年12月26日決定も、所有権に基づく返還請求権が認められる趣旨、所有者と占有者との公平などを考え併せると、特段の事情がない限り、占有者が所有者の目的物に対する占有を妨害する状態作出に関与していないという場合を除き、所有者は占有者に対し、占有者がその占有を取得した場所において返還することを求めることができるものと解すべきであるとして、津地裁に管轄があるとして即時抗告を棄却しました。
最高裁2002年7月19日第三小法廷決定(判例時報1838号16~17ページ【1】)は、「原審の適法に確定した事実関係の下においては、津地方裁判所が本件訴えの管轄を有するとし、抗告人の本件移送の申立てを却下すべきものとした原審の判断は是認することができ、その過程に所論の違法はない。」として許可抗告を棄却しました。
管轄についてはモバイル新館の「どの裁判所に訴えるか」でも説明しています。
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