◆短くわかる民事裁判◆
土地管轄:差止請求・差止請求権不存在確認
原発の運転差止請求などで広く知られるようになった、他人の違法行為による人格権(生命・健康等を害されない権利)侵害を予防するための差止請求は何を根拠にどこの裁判所に訴えを提起できるでしょうか。
最高裁2004年4月8日第一小法廷決定は、「民訴法5条9号は、『不法行為に関する訴え』につき、当事者の立証の便宜等を考慮して、『不法行為があった地』を管轄する裁判所に訴えを提起することを認めている。同号の規定の趣旨等にかんがみると、この『不法行為に関する訴え』の意義については、民法所定の不法行為に基づく訴えに限られるものではなく、違法行為により権利利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者が提起する侵害の停止又は予防を求める差止請求に関する訴えをも含むものと解するのが相当である。」と判示しています。
この事件は、不正競争防止法に基づく製品販売・輸入の差止請求権の不存在確認請求に関するもので、最高裁は「不正競争防止法3条1項の規定に基づく不正競争による侵害の停止等の差止めを求める訴え及び差止請求権の不存在確認を求める訴えは、いずれも民訴法5条9号所定の訴えに該当するものというべきである。」としたものですが、最高裁が「違法行為により権利利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者が提起する侵害の停止又は予防を求める差止請求に関する訴え」が民事訴訟法第5条第9号の「不法行為に関する訴え」に該当すると明確に判示していますので、人格権に基づく差止請求は不法行為があった地に管轄があり、人格権侵害の侵害内容は基本的に原告の生命・健康への危険ですから、原告住所地が不法行為地となって、原告住所地で訴え提起できるということになります。
原発の運転差止については、美浜・大飯・高浜原発(福井県、関西電力)について大津地裁、伊方原発3号機(愛媛県、四国電力)について広島地裁、大分地裁というように、被告本店所在地でも原発所在地でもない裁判所にも訴えが提起されています。これらの裁判は、原告住所地が不法行為地であることが管轄の根拠と思われます。
なお、最高裁2004年4月8日第一小法廷判決は、逆に、侵害を主張されている側の差止請求権不存在確認の訴えも「不法行為に関する訴え」に当たり、不法行為地に管轄があることを判示しています。これがどう使われることになるのかは今ひとつ予測できませんが、最高裁がそういっていることは認識しておいた方がいいと思います。
管轄についてはモバイル新館の「どの裁判所に訴えるか」でも説明しています。
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