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短くわかる民事裁判◆
土地管轄:損害賠償債務不存在確認
 契約上の義務(債務:さいむ)を履行(りこう:実行すること)しなかったとして損害賠償請求をするとき、土地管轄の1つの「義務履行地」(民事訴訟法第5条第1号)は、契約上の義務の履行地ではなく、損害賠償請求権自体の義務履行地であり、原則として権利者(原告)の住所地だというのが現在の裁判所の立場だということを「土地管轄:債務不履行による損害賠償請求」で説明しました。

 では、債務者が債権者に対して、債務不履行による損害賠償債務がないことの確認請求の訴訟を提起するときの「義務履行地」はどうなるでしょうか。
 それが裁判で争われた例を紹介します。
 取引契約上不作為債務(一定のことをしないという義務)を負っている契約当事者が原告として、その不作為義務違反による損害賠償債務がないことの確認を求める訴訟(債務不存在確認請求訴訟)を原告の本店所在地の鹿児島地裁知覧支部に提起しました。被告は契約上広島地裁福山支部を専属管轄とする合意があるとして、広島地裁福山支部への移送の申立てをしました。鹿児島地裁知覧支部2010何11月4日決定は、契約上の不作為義務の義務履行地は債務者である原告の本店所在地であるから鹿児島地裁知覧支部も義務履行地として法定管轄があり、鹿児島地裁知覧支部に関連訴訟が係属しており併合審理も見込まれることから同支部において審理を進めることが許されるとして移送申立てを却下しました。即時抗告審の福岡高裁宮崎支部2011年1月23日決定は、損害賠償債務の不存在を確認対象とする訴訟において義務履行地として観念すべきは損害賠償債務という金銭債務の履行場所であるから債権者(被告)の本店所在地であり、鹿児島地裁知覧支部が法定管轄を有するとは認められないとして、移送申立て却下決定を取り消して広島地裁福山支部に移送する旨を決定しました。
 最高裁2011年6月2日第一小法廷決定は、「所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。」として許可抗告を棄却しました(判例時報2164号10~11ページ【4】)。

 したがって、債務不履行による損害賠償請求訴訟も、損害賠償債務不存在確認請求訴訟も、どちらも債権者の住所地が義務履行地となり、債権者が原告として損害賠償請求をする際には原告住所地(義務履行地)も被告住所地も選択できるのに対し、債務者が原告として債務不存在確認請求訴訟をする際には(他の請求を併せてできるのであれば別として)被告住所地で提起せざるを得ないということになります。

 管轄についてはモバイル新館のもばいる 「どの裁判所に訴えるか」でも説明しています。
  

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