◆短くわかる民事裁判◆
応訴管轄
原告が、管轄(かんかつ)のない裁判所に訴えを提起(訴状を提出)した場合でも、被告がそれに対して管轄違いの主張をしないときは、法令で定めた専属管轄(せんぞくかんかつ)に反する場合でなければ、原告が訴えを提起した裁判所でそのまま審理・判決をすることができます(民事訴訟法第12条)。そして、被告の管轄違い(かんかつちがい)の主張はいつまでもできるわけではありません。
被告が管轄違いの主張をしないで、原告の請求の内容について主張・反論をした場合(例えば訴状の請求の原因に対して認否や反論をした場合)、原告が訴えを提起した裁判所に管轄が生じ(民事訴訟法第12条)、これを「応訴管轄(おうそかんかつ)」と呼んでいます。
職分管轄(しょくぶんかんかつ)に反するような場合、例えば離婚訴訟を家裁ではなく地裁に提起したとか、遺言(いごん)無効確認訴訟や遺留分侵害額(いりゅうぶんしんがいがく)請求訴訟を地裁ではなく家裁に提訴したようなときは、応訴管轄は生じませんが、事物管轄(じぶつかんかつ)や土地管轄(とちかんかつ)に関しては、応訴管轄が生じます。
応訴管轄は、被告が管轄違いを認識しているかどうかを問わず、民事訴訟法の規定の言葉では「管轄違いの抗弁を提出しないで本案についての弁論をし、又は弁論準備手続において申述したとき」(民事訴訟法第12条)に生じます。実質的には答弁書(とうべんしょ)や準備書面(じゅんびしょめん)で、管轄違いの主張を書かずに、訴状の請求の原因に対して認否や反論を書き、その準備書面が口頭弁論期日や弁論準備期日で陳述の扱いになったときに生じると考えられます。
実務上よくある「請求の趣旨に対する答弁」として「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」と記載して、請求の原因に対する認否と被告の主張は追って主張するという答弁書(業界では「3行答弁書」とも呼ばれます)が被告欠席で陳述擬制(ちんじゅつぎせい)された場合、応訴管轄は生じるでしょうか。請求棄却を求めることは本案(ほんあん:原告の請求の内容自体)についての主張であるからこのような答弁書でも陳述されれば応訴管轄を生じるという見解もありますが、裁判所はそこまでの扱いはしないようです。
※裁判所職員総合研修所の「民事実務講義案Ⅰ(5訂版)」(2016年)は、「ここでの本案について弁論するとは、いわゆる『口頭陳述』及び『明示陳述』であることを要する。」として、請求の原因に対する認否や被告の主張(ふつうにいう「本案」の主張)を記載した場合であっても答弁書の擬制陳述では応訴管轄は生じず、また進行協議期日の実施、書面による準備手続の実施によっては応訴管轄は生じないとしています(35ぺーじ)。
※現在は進行協議期日や書面による準備手続が行われることは稀で、法廷外での期日はたいてい民事訴訟法第12条の規定にいう「弁論準備手続」ですので、間違わないよう注意が必要です。
管轄についてはモバイル新館の「どの裁判所に訴えるか」でも説明しています。
**_****_**