◆短くわかる民事裁判◆
判決の更正:明渡し対象物件の表示
明渡請求訴訟で、明渡しの対象物件の記載に誤りがあると強制執行に差し支えるので、物件の特定や記載には注意が必要です。判決の表示で間違いがあると、勝訴原告にとしては、更正してもらわないと困ります。
判決の更正が可能な「判決に計算違い、誤記その他これらに類する明白な誤りがあるとき」(民事訴訟法第257条第1項)は、どのような誤りが含まれるでしょうか。
家屋番号を間違えたという場合について、最高裁1956年6月1日第二小法廷判決は、実際に判決の更正がされたり求められた事案ではないので傍論ともいえますが「所論家屋番号の誤記の如きは別に更正する方法があつて原判決の執行不能の問題を生ぜず」と判示していますので、家屋番号の間違い(誤記)は更正可能と解されます。
明渡しを求める建物の範囲の記載について、最高裁1957年7月2日第三小法廷判決は、「記録によると、本件訴訟の目的物として訴状及び昭和二六年九月五日附訴状訂正の申立書に表示されているところの建物部分は店舖一棟建坪一五坪の内北より二戸目間口一間半奥行約二間の(板囲いの部分)約三坪と記載されており第一審口頭弁論において当事者双方が判決を求め陳述し、また第一審判決が乙一号証等によつて被上告人の請求を認容し上告人等に対し主文のとおり明渡を命じた目的物が右建物部分(すなわち間口一間半の)であるのに、一審判決が主文第一項において右建物部分につき「間口一間」と表示したこと、換言すれば一審判決主文第一項に店舖の表示として「間口一間」としたのは「間口一間半」の誤謬であることは明白である。かような判決に対する控訴に基き控訴裁判所が控訴棄却の判決をするに際し右誤謬を民訴194条にいわゆる「明白ナル誤謬」と認めたときは判決理由中にその理由を判示しその主文中において一審判決主文中「間口一間」とあるを「間口一間半」と更正しても違法ではない。」と判示しています。訴状等で1間半と記載されていて、判決中に1間半ではなく1間だとする趣旨の記載がないのであれば、単なる誤記であると扱えるでしょう。
※判決引用の民事訴訟法第194条は現在の第257条に当たります。
明渡しを求める土地の範囲の記載について、最高裁1968年2月23日第二小法廷判決は「原判決がその主文第3項において、上告人らが被上告人に明渡すべき土地について、第一審判決主文の『別紙第一物件目録記載の土地』という表示を『別紙第一物件目録記載の土地のうち南側の本判決(第二審判決を指す)末尾別紙図面(ハ)(ニ)(ヘ)(ホ)の各点を結ぶ線で囲まれた部分77.053平方メートル』と訂正したことは所論のとおりであり、第一審判決が右のような表示をしたのは、被上告人がそのように申し立てたためであることは記録上明らかである。すなわち、第一審判決が右のとおり表示を誤まつたのは、被上告人が最初から明渡を求める目的物件の表示を誤まつたもので、その誤謬は当事者の責に属し、裁判所の意思と表現との間には全くくいちがいはないのであるが、被上告人が明渡を求める目的物件はもともと同一で、被上告人がただ最初から明渡を求める目的物件の表示を前記のように誤まつたものであることは本件記録により明らかであるから、このような場合には、民訴法194条を準用して、判決の更正をすることができると解するのが相当である。」としています。訴訟で当事者が明渡しを求めている範囲は一貫して更正後のものでそれが当事者も裁判所も共通認識していたがその「表示」が誤っていたというだけというのです。事件記録を見ることができないのでわかりませんが、本当に共通認識だったのでしょうか。原告が更正に納得していて(たぶん原告が更正を求め)、被告側は明渡し範囲が狭くなる更正(有利な更正)なので問題ないのでしょうけれど。
※判決引用の民事訴訟法第194条は現在の第257条に当たります。
判決については、モバイル新館の「弁論の終結と判決」でも説明しています。
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