◆短くわかる民事裁判◆
差し止め訴訟の請求の趣旨の特定
行政直営の施設の差止請求のように、許認可のような処分がなく、周辺住民が事実として被害を受けている場合、どのような請求が可能でしょうか。施設を一切運転(操業)してはならないというのであれば、わかりやすいですが、住民に被害を与えるような使用を止めることを求める場合は、工夫が必要です。
基地騒音被害を理由に夜間の離発着等の差止を求めた横田基地訴訟での最高裁1993年2月25日第一小法廷判決は、「上告人らの本件差止請求のうち、主位的請求に係る訴えは、その請求の趣旨を『被上告人は、上告人らのためにアメリカ合衆国軍隊をして、毎日午後9時から翌日午前7時までの間、本件飛行場を一切の航空機の離着陸に使用させてはならず、かつ、上告人らの居住地において55ホン以上の騒音となるエンジンテスト音、航空機誘導音等を発する行為をさせてはならない。』とするものである。右請求の趣旨は、被上告人に対して給付を求めるものであることが明らかであり、また、このような抽象的不作為命令を求める訴えも、請求の特定に欠けるものということはできない。」と判示しています。
この判示は、民事差止請求の事件での判示ですが、行政事件訴訟法の差止めの訴えとして提起された厚木基地第4次訴訟で、第1審の横浜地裁2014年5月21日判決は、「本件自衛隊機差止請求の請求の趣旨は、防衛大臣は、厚木飛行場において、自衛隊機について、①毎日午後8時から翌日午前8時までの間の運航、②訓練のための運航、③自衛隊機の運航により生ずる航空機騒音によって原告らの居住地におけるそれまでの1年間の一切の航空機騒音が75Wを超えることとなる場合の当該自衛隊機の運航をさせてはならないというものである。このうち①及び②は、その請求内容によって差止めの対象が特定していることは明らかである。③については、原告らの居住地における航空機騒音の水準を特定する一方で、それを実現する手段としては航空機を離着陸させないことにとどまらず航空機騒音を抑制するための様々な方策があり得るのにそれが特定していないという点で、抽象的不作為命令に当たるが、平成5年横田基地最判によればこのような訴えも請求の特定に欠けるところはない。したがって、本件自衛隊機差止請求は請求の特定に欠けるところがない。」として行政訴訟としての差し止めの訴えでもこのような抽象的不作為命令を求める請求の趣旨を肯定しています。この訴訟の上告審の最高裁2016年12月8日第一小法廷判決では、請求の趣旨の特定は争点にされていませんが、差止めの訴えの他の要件である「重大な損害を生じるおそれ」について要件を満たすことを判示し、この訴えが不適法ではないことを前提に原告らの請求に理由がないとしていますので、最高裁も差止めの訴えの請求の趣旨の特定に関しては異存がないものと解されます。
行政裁判については、「行政裁判の話」でも説明しています。
**_****_**