◆短くわかる民事裁判◆
産業廃棄物処分場不許可処分取消訴訟への住民の補助参加
産業廃棄物処分場のような有害施設の設置に対して周辺住民が設置許可処分の取消訴訟等の原告適格を有することの反面として、事業者の設置許可申請が不許可となった場合に事業者がその不許可処分の取消訴訟を提起したとき、周辺住民が補助参加(被告となる県知事のための参加)ができるかが問題となります。
行政事件訴訟法第22条第1項は「裁判所は、訴訟の結果により権利を害される第三者があるときは、当事者若しくはその第三者の申立てにより又は職権で、決定をもつて、その第三者を訴訟に参加させることができる。」と定めています。もし県知事が敗訴して産業廃棄物処分場の設置が許可されれば、周辺住民はそれにより権利(人格権)を侵害されるという関係にあれば、行訴法第22条の「訴訟参加」が認められます。
民事訴訟法第42条は「訴訟の結果について利害関係を有する第三者は、当事者の一方を補助するため、その訴訟に参加することができる。」と定めていて、行政事件訴訟法第7条が「行政事件訴訟に関し、この法律に定めがない事項については、民事訴訟の例による。」としていることから、この補助参加も可能と考えられています。
岡山県長船町が出資する第三セクターのスリーエーが、岡山県吉永町に産業廃棄物の最終処分場の設置を計画し、計画予定地が水道の水源の上流に位置していたことなどから1998年2月に実施された吉永町の住民投票では有権者の9割が反対という結果になったが、事業者スリーエーは産業廃棄物処分場設置許可を申請し、岡山県知事は不許可としました。これに対し、事業者が不許可処分の取消を求めて岡山地裁に提訴し、この訴訟に吉永町の住民3000名あまりと吉永町が補助参加の申立を行い、これに対して事業者が異議(民事訴訟法第44条第1項)を述べ、岡山地裁は補助参加を許可した(岡山地裁2000年10月18日決定)ので、事業者が即時抗告(民事訴訟法第44条第3項)をし、抗告審が抗告棄却の決定をし(広島高裁岡山支部2002年2月20日決定)、許可抗告の申立がなされ、抗告許可がなされて最高裁に至りました。
最高裁2003年1月24日第三小法廷決定は、「本件の本案訴訟において本件不許可処分を取り消す判決がされ、同判決が確定すれば、岡山県知事は、他に不許可事由がない限り、同判決の趣旨に従い、抗告人に対し、本件施設設置許可処分をすることになる(行政事件訴訟法33条2項)。ところで、廃棄物処理法15条2項2号は、産業廃棄物処理施設である最終処分場の設置により周辺地域に災害が発生することを未然に防止するため、都道府県知事が産業廃棄物処理施設設置許可処分を行うについて、産業廃棄物処理施設が『産業廃棄物の最終処分場である場合にあっては、厚生省令で定めるところにより、災害防止のための計画が定められているものであること』を要件として規定しており、同号を受けた廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(平成10年厚生省令第31号による改正前のもの)12条の3は、災害防止のための計画において定めるべき事項を規定している。また、廃棄物処理法15条2項1号は、産業廃棄物処理施設設置許可につき、申請に係る産業廃棄物処理施設が『厚生省令(産業廃棄物の最終処分場については、総理府令、厚生省令)で定める技術上の基準に適合していること』を要件としているが、この規定は、同項2号の規定と併せ読めば、周辺地域に災害が発生することを未然に防止するという観点からも上記の技術上の基準に適合するかどうかの審査を行うことを定めているものと解するのが相当である。そして、人体に有害な物質を含む産業廃棄物の処理施設である管理型最終処分場については、設置許可処分における審査に過誤、欠落があり有害な物質が許容限度を超えて排出された場合には、その周辺に居住する者の生命、身体に重大な危害を及ぼすなどの災害を引き起こすことがあり得る。このような同項の趣旨・目的及び上記の災害による被害の内容・性質等を考慮すると、同項は、管理型最終処分場について、その周辺に居住し、当該施設から有害な物質が排出された場合に直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である。したがって、上記の範囲の住民に当たることが疎明された者は、民訴法42条にいう『訴訟の結果について利害関係を有する第三者』に当たるものと解するのが相当である。」として、事業者の抗告を棄却しました。
この決定で、最高裁は周辺住民の原告適格の判断と同じ手法で周辺住民の補助参加の可否を判断しています。この決定は高城町廃棄物処分場最高裁判決(産業廃棄物処分場と原告適格:高城町廃棄物処分場最高裁判決で詳しく説明しています)よりも前のものですが、ある意味ではこの時点で高城町廃棄物処分場最高裁判決は既定路線になっていたと言えそうです。
この最高裁決定の2か月半後(岡山地裁では人証調べも終わり判決が予定されていたようですが)、事業者は計画を白紙撤回し、訴訟も取り下げたようです(地元紙の報道はこちら)
※民事訴訟法第42条による補助参加の場合、補助参加を許可する決定に対して当事者が即時抗告でき(民事訴訟法第44条第3項)、そのためこの事件で事業者が即時抗告し、さらに許可抗告の申立があって、最高裁が補助参加の可否について判断をしました。これに対し、行政事件訴訟法第22項による訴訟参加の場合は、参加を認める決定に対しては当事者は即時抗告ができないものと解されています(行政事件訴訟法第22条第3項。最高裁2002年2月12日第三小法廷決定)。その違いに合理性があるかは疑問ですし、吉永町の事件で行政事件訴訟法第22条の訴訟参加ではなく民事訴処方第42条の補助参加を選択した経緯等もわかりませんが、この事件で最高裁が補助参加の許否、実質的には周辺住民の原告適格について判示したことはラッキーだったと言えるでしょう。
行政裁判については、「行政裁判の話」でも説明しています。
**_****_**