私の読書日記 2026年2月
27.賃貸住宅管理業法の解説 最新不動産の法律シリーズ 渡辺晋 住宅新報出版
賃貸住宅管理業者の増加により貸主(建物所有者)と賃貸住宅管理業者のトラブルが増加したこと、サブリース事業者(建物所有者から建物を賃借して転貸し差益を稼ぐ事業者)が勧誘に際して将来の賃料変動(サブリース事業者=賃借人からの減額請求)や貸主からの解約が非常に困難であること(借地借家法の適用があり「正当の事由」がないと解約・更新拒絶ができないこと)などを知らせずに素人の個人に建物を購入させてサブリース契約をして後日話が違うというトラブルが増加したことから2020年に制定された賃貸住宅管理業法(賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律)についての逐条解説書。
法律、施行規則、ガイドラインの内容のみならず、国土交通省が示している考え方等の文書に対して著者が誤り・理解不足とする点を述べている点が、この種の本としてはあまり見ない特徴と言えます。法律の条文上は、管理戸数200戸以上の賃貸住宅管理業(賃貸住宅の点検、清掃その他の維持及び修繕の受託)を行うには登録を要するが、サブリース事業を行うには登録を要しない、にもかかわらず国土交通省が登録を要するとか、それに従えば登録を要するようになるサブリース契約のひな形を示すのはけしからんと強調しています(3~5ページ、22~23ページ等)。この点は、役所/官僚が法の規定を超えて権限拡大をもくろんでいるという指摘/警告なのかもしれません。しかし、法令の文言は立法の経緯で必ずしも完全なものとなるとは限らないし、解釈の幅があること、この法律がサブリース契約に関するトラブルの防止を契機・目的としていることからすれば国土交通省がサブリース事業者への規制の実効性を高めるためにも登録を求めたりそのように誘導することは立法の目的に沿うものと言えることを考えると、サブリース業者は登録せずにサブリース事業をしていいんだと強調する著者の意図には、私は疑問を感じます。事業者側の利害を代表しているのかもしれませんが、現実的には事業者としても無登録でやりたいという事業者がそれほどいるのでしょうか。
26.賃貸住宅管理業・サブリース業のための賃貸住宅管理業法の実務ポイント 江口正夫 大成出版社
賃貸用建物の所有者から点検・清掃・修繕等の建物の維持保全や家賃等の収受管理などの委託を受ける賃貸住宅管理業者や第三者に転貸する目的で借り入れる特定賃貸借契約(サブリース契約・マスターリース契約)を締結して転貸する特定転貸事業者の規制のために2020年に制定された「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」(賃貸住宅管理業法)について、事業者側での実務対応を解説した本。
サブリース契約は、賃貸用建物を所有する個人貸主に、空き室等による賃料収入ストップのリスクが無いとか賃料保証とかをうたい文句に、事業者が勧誘して相場より安い賃料で賃貸借契約を締結させ、事業者が一般人にふつうの賃料で転貸して差益を得るビジネスです。既に物件を所有している場合のほか、金融機関も提携して節税とか投資とか言って建物を購入したり建築させた上でサブリース契約(事業者と所有者間は「マスターリース契約」ともいいます)を締結する場合もあります。素人の建物所有者(賃貸人)が法律をよく知らずに契約した後になって、事業者から賃料減額請求がなされたり、そういう事情で賃貸人が契約を解約や更新拒絶しようとすると、借地借家法で契約上は賃料減額しないと定めてあっても賃料減額が裁判上認められたり、解約や更新拒絶には「正当の事由」が必要とされて契約を打ち切れず、話が違うというトラブルが続出しています。
そういうことから事業者を規制する法律ができたのですが、サブリース契約に借地借家法が適用されることには変わりなく、ただ契約の際の説明義務が課されたにとどまります。しかも法律施行前に締結された契約には適用されません。
賃借人の権利を守る借地借家法を、素人の個人が貸主、転貸で利益を得る事業を行う会社を借主とする契約にそのまま適用すべきでしょうか。知財ビジネスでも、著作者や発明者の権利を守るとして強い規制をしている法律で、実際利益を得ているのは、著作も発明もしない、著作者・発明者から権利を買いたたいて得た事業者や売上の大半を懐に入れる所属事務所や販売会社などの事業者という構図になっているのと同様で、法のゆがみ・制度の悪用にも感じられ、腹立たしい限りです。
25.民事反対尋問のスキル いつ、何を、どう聞くか?(第2版) 京野哲也 ぎょうせい
民事裁判の証人・本人尋問の際の、主に反対尋問(人証申請した側の相手方からの、いわば敵対者としての尋問)について、どのように準備し、法廷でどのように尋問するかに関するテクニックを解説した本。
弁護士にとっては、この種のことは経験で学んで行くところが多く、実際の事件によって条件はさまざまで一般論が通じにくいところですが、著者の経験と考察による多数の技術的な助言が書かれていて、大変参考になります。
ただし、かなりテクニカルな(法廷技術に関わる)テーマで業界外の人にはなじみがなく、他のページを参照として説明を飛ばしているところが多い(きちんとその都度そこへ飛んで読めばいいのでしょうけど)ため、一般読者が読むには苦しいかなと思います。
反対尋問の成功のためには、証拠をよく検討し、十分な準備をして、いい材料を手元に持つこと、その上で布石を打ち逃げ道を塞いだ(外堀を埋めた)上で仕留めるというのが本筋で、この本でもそれが強調されています。そこは、ある意味、業界では当然とも言えますが、具体的な例を示して繰り返し論じているところに読む価値があります。
ある意味でこの本の白眉は、その材料がないときにも、「なかった事実」の提示、例えば、その場を立ち去ったことについて、振り返らなかった、ニコリともしなかった、相手に声も掛けなかったなど論理的には無限に考え得る「しなかったこと」を聞き(言わせ)事実を色づけする(12~15ページ)とか、全否定の質問(誰も~いなかったか、まったく~なかったか等)をして部分肯定の答えを得る(208~209ページ)、何故しなかったかを聞くのではなくやろうと思えばできたことを言わせる(210~212ページ)などのテクニックを説明する部分です。サッカーで言えば「マリーシア」とも評価できるところで、弁護士のポリシーや、裁判官がそれに乗ってくれればいいけど意図を見抜かれて反発されるリスクもありそうなど、いわく言い難い点もありますが。
24.失敗事例でわかる!民事尋問のゴールデンルール30 藤代浩則、野村創、野中英匡、城石惣、田附周平 学陽書房
民事裁判での証人尋問・本人尋問の準備と法廷での尋問に関して、失敗事例を示しつつ、必要な準備事項、実際の場面ではどのようにすればよいかなどを解説した本。
尋問に関しては、それぞれの弁護士が経験的に学んでいることが多く、またそれぞれの事件の条件がさまざまなので一般論で言える部分が多くはないのですが、他の弁護士の、あるいは裁判官の見方に触れることは有益です。陳述書の作成と主尋問の狙い・方針とか、反対尋問のテクニックなど、既に語り尽くされているように見える基本の部分も、改めて書かれたものを読むと、言っていることは大差なくても微妙な視点・経験の違いに含むところはあり、考えさせられます。
Q27の補充尋問に対する異議(176~179ページ)で「まさか、裁判官から誤導尋問!?」というフレーズがあります。実務上、裁判官が意図的に誤導尋問(誤った事実を前提として聞く質問)をすることは考えられませんが、裁判官が誤解して聞いたり、証人・本人が聞かれていることを誤解して答えて噛み合わず混乱することはままあります。そういうとき、この本は「誤導尋問であることを裁判官に告げて、速やかに是正してもらうべき」としています(179ページ)が、私は、手を挙げて「ただいま聞かれていることに関して1点質問してよろしいでしょうか」というような形で割り込むか、裁判官の補充尋問が終わってから「1点よろしいでしょうか」と述べます。そういうときは裁判官も証人・本人の答えに違和感を持っているのがふつうですので、すんなり認めてくれるのがふつうです。それで、証人・本人に、質問の形で「裁判官は今こういうことを質問しているけれど、あなたの先ほどの答えはほかのことと取り違えていませんか」などと聞いて、証人・本人側が気づいて噛み合うように軌道修正し、あるいは設例のように裁判官が本当に誤った質問をしたのなら裁判官の質問に触れずに「あなたは先ほどどのタイミングでウィンカーを出したのかわからないと答えましたが、そもそも(原告車は)ウィンカーを出したのですか」というように聞いて証人・本人から正しい答えを引き出して、先ほどは証人・本人側が間違えたあるいは質問をよく理解していなかったように収めるようにしています。そういう言い方でも裁判官も自分の勘違いと気づきますが、正面から裁判官にあなたの質問は誤導だと指摘するのでは、角が立ちますので、実務家としてはこういうやり方の方がいいだろうと思っています。
23.文字組力 見やすい・読みやすい・伝わるをつくる NASU Co.,Ltd インプレス
デザインで文字(タイトル、キャッチコピー、見出し、本文、各種情報等)を扱う際の基本的な事項、フォントの選択、レイアウト、文字間・行間のとり方等について解説した本。
フォントについての本文用に使いやすいフォントの紹介(48~49ページ)、和文フォントと欧文フォントの組み合わせの紹介(61~63ページ)が、一番参考になった感じがします。文字間隔の調整に関する3文字調整(122~125ページ)や文字間スケールの調整(130~137ページ)が、たぶん本当はそちらの方が専門的で実践上ためになるのだと思いますが、こちらはちょっと自分ではやれそうもない。
デザイン制作会社である著者などのプロでも「どれだけ経験を積んでも、どこまでも終わりが見えない」(176ページ)、「誰にでも踏み出せるようにしつつ、その奥にある奥深さや尊さまで感じてもらえたら幸いです」(177ページ)という結びが感慨深く思えました。
22.認知症の母が、ロマンス詐欺に!? 広みか 文芸社
80代で認知症(まだらぼけ状態)の母親が20歳ほど年下の男性と交際するようになり預貯金・年金を支出していることに悩んだ著者の経験を出版した本。
終盤で、脅迫文書とかストーカー行為とかが出てくるので、相手方に問題があったのだろうと思うのですが、そういったものが出てこない前半で、母親が自分に対して攻撃的な態度をとったり(51ページ)、面と向かって「何も親のことを思ってない」と言われたり(58ページ)、「私を殺すつもりか!それが娘のすることか!」と罵倒されたり(105ページ)、「向こう(たぶん私の家)は刑務所と一緒です」などと言う(110ページ)のはすべて事実無根の被害妄想だとしながら、その母親が自分の前で相手の男を悪く言ったり暴力を振るわれたなどと言うのを根拠に相手の男が母を虐待していると言い、騙されてるとか洗脳されてるとか毒牙にかかっているなどの評価を並べているのを見ると、実態は母親が思うようにかまってもらえないと相手を悪く言っているのを著者と相手の男が互いに自分の都合のいいところだけ真に受けて相手が悪いと思い込んでいたのではないかと感じてしまいます。
それほどの根拠がない場面で、過剰に相手を悪く言うと、根拠がある正しい主張があってもそこもあまり信用してもらえないという、本人訴訟でありがちなパターンに陥っているような気がして、残念な読後感を持ちました。
介護福祉士といういわば介護のプロの著者でさえ、家族・親族が認知症になったり、孤独から親しげに近づいてくる人に依存してしまったときの対応が容易ではないこと、仕事がら連携しているはずの社協(社会福祉協議会)の対応について強い不満を持ち批判する本まで書いてしまうのだということも、私には驚きでした。
21.大水害時代の防災 命を守る「治水」へ 梶原健嗣 岩波ブックレット
日本の治水は、明治以前はいわば上手にあふれさせる(被害が少ない場所に遊水池を設けてそこにあふれさせる、水防林で水流を弱め土砂を吸収する等)ものであったが、明治以降は降った雨をダムと河川改修(堤防)であふれさせることなく河口まで流すというように変わった、しかし、見積もった基本高水流量に対して十分な対策が完成することは現実には不可能で(完成前に生じた水害は裁判で賠償がほぼ認められない)、完成できる目途もない治水計画を維持するよりも、人身被害を防ぐ方策を実施すべきであると提言する本。
現実には水害による死亡は河川の氾濫による溺死等よりも土砂崩れによるものの方が多く、治水よりも治山に務めた方がいいがそれがなされていない、豪雨による内水氾濫(都市部で下水道のキャパを超えたときの浸水)への対策や避難所の整備、避難者への物資・待遇の改善など、氾濫自体の防止よりも被害の防止のためにすべきことが多いはずという指摘にはなるほどと思います。
20.技術革新を支える半導体入門 中村裕監修 C&R研究所
日本の半導体産業の技術面、政治面等での現状と将来に向けての課題等について解説した本。
「入門」と題した本に、現実にはありがちなことですが、PROLOGUE(目次では「序文」)で理解を求めている「技術的背景がない方々」がこの本を読み通すのはかなり苦痛だと思います(私は相当な苦痛と我慢を要しました)。「入門」と言ってよさそうな書きぶりが見られるのは第6章の量子コンピュータの説明くらいで、大半が見慣れぬカタカナとアルファベットの略語に満ちていて、文意がなかなか頭に入りませんでした。
あと、同じことの繰り返しが多いという印象が強く残りました。
言っていることは、前半は半導体産業は技術的には微細化が限界に来ており、立体化(積層化)、新素材(シリコン→炭化ケイ素、窒化ガリウム、さらにはダイヤモンド)、電気信号の光信号への置き換えなどの新技術に将来がかかっており、その開発・実用化が必要であること、中盤は産業の将来の期待がかかる重要分野であるAIも量子コンピュータも半導体技術にかかっていること(半導体産業の重要性)、後半は外国国家の関与が疑われるサイバー攻撃がなされており、半導体産業は国のことを考え経済安全保障、安全保障を意識すべきというようなことです。
前・中盤は、半導体産業はとても重要で、これからのことは新技術の開発・実用化にかかっているので、半導体産業に投資してねということが言いたい本なのかと思って読んでいました。終盤になり、なんだか政府の太鼓持ちというか国家主義的なトーンが強まり、これって技術者が書いてるの?役人とか政治家が書いてるのかと思えてきました。
19.社内不正 発見の端緒と対策 土田義憲 ロギカ書房
企業での現金の使い込み、資産の横流し、取引先からのキック・バック、押込販売・架空取引・粉飾決算等の虚偽の財務報告について20のケースを取り上げて、不正の内容・手口、発見の端緒、調査の方法と経過、不正の動機、再発防止対策について紹介・解説した本。
不正会計や内部統制等の一般論を論じる部分はなく、もっぱら事例紹介に徹していて、ある意味読みやすく、単純な好奇心で読み進めることができます。読み物として見たときには、この不正をした者がどうなったか、企業がその損失を取り戻せたのか、あるいはどのように会計処理したのかも知りたいところですが、それについては触れられていません。
実務的に見ると、再発防止対策の担当者の分離、書類の作成、照合等の工数・工程の追加によるコストがどれくらいかについても言及してもらえると有用だろうと思います。著者が公認会計士ですし、実際に再発防止対策を提言するならそこも見積もるのでしょうし。
18.多様性とどう向き合うか 違和感から考える 岩渕功一 岩波新書
多様性(ダイバーシティ)について、著者が思うところを論じた本。
サブタイトルに「違和感から考える」とあり、「はじめに」で「実は私も多様性という言葉に違和感を抱いてきました」と書かれています。しかし、その著者の持つ違和感は、多様性が社会や企業を豊かにするなどとして奨励する昨今の風潮は、企業や社会のマジョリティにとって有益な多様性、都合のいい多様性のみを、マジョリティの側で選別して容認するもので、そうでないものは(多様性ではなく)差異として切り捨てられる、マイノリティの一部(都合のよい者)の登用例を目くらましに差別が残る状況の改善を進めず放置することにつながるというものです。いわば、口先だけでなくもっと実質的な差別解消に取り組めという立場です。
著者は、誰もが差別されない生きづらさを感じずに生きられる社会に近づけていくことがそれぞれの人(自分)にとって有益であるとし、アファーマティブ・アクション(マイノリティの優遇措置)もゼロサムで考えるべきではない、マジョリティにとっても有益だとしています。それは著者の主張として正当であろうと思いますが、著者が「はじめに」で述べているさまざまな違和感や反発を持つ人が話し合い耳を傾け合うことが、それで可能なのかなと疑問に思います。著者の理屈で説得される人はたぶん最初から逆差別だとか言わないと思いますし、逆差別とか外国人の特権とか日本人ファーストとか言っている人はそれを言われても響かないだろうなと思ってしまいます。
16.17.世界を変えた出来事 写真で読む歴史の転換点1950-現代 上下 アルフレッド・ルイス・ソモサ、ロレンツォ・サグリパンティ、マルゲリータ・ジャコーザ 原書房
1950年の朝鮮戦争から2022年のエリザベス2世の死去まで、著者らが選んだ58の「現代史を形成した事件に焦点を当て」(8ページ)「重要な瞬間と世界の情勢」(6ページ)を取り上げて写真を掲載しコメントした本。
戦後史で何が重要な事件であり歴史の転換点であったかについて、他者の視点を見ることは、自分の歴史観・世界観を検証するよい機会と言えるでしょう。日本に関することは東日本大震災とコンパクトディスクの発明(日本及びオランダ)だけというのは、世界の中で、世界史の中での日本の位置づけ、存在感を改めて見直す契機にもなります。もっとも、エリザベス2世の戴冠に始まり(朝鮮戦争に次ぐ2番目)エリザベス2世の崩御で終わるというまるで小倉百人一首(天智天皇・持統天皇が1番・2番で始まり順徳院で終わる)のような構成は世界標準の価値観ではないようにも見受けられますが。
アメリカの意向に沿うチリの軍事クーデターに関して、民衆が選挙で選ばれた左翼政権のアジェンデ政権に抗議しボイコットを続けていたという印象の写真とキャプションが掲載されている(98~99ページ)のも、何だかなぁと思いました。
15.決定版 縄文美術館 小川忠博 平凡社
縄文時代の遺跡から出土した土器、土偶、装飾品等の写真を掲載し若干の解説を付した本。
中盤の比較的大型の土器の技術の洗練性を感じさせる造形とその写真の美しさに息をのみます。360度展開写真で見せてくれるのもうれしい限りです。
土偶も多様なものが紹介されていて、当時の人たちの心情や生活に思いがはせられます。
織物が残っていたり、漆等の光沢が残っているものがあるのにも、文化と技術の高さを感じます。
出土場所が見開きページごとの小さな日本地図上に図示されているのも親切です。
ただ、ものの性質上、大きさを感得したいので、写真撮影時に定規等を置くか、そうでなければ写真中に縮尺を入れて欲しかったと思います。撮影する側からは写真としての美しさが損なわれると感じるのでしょうけれど。キャプションで大きさに触れているところもありますが、その数は少なく、大半はそこはノーコメントです。キャプションで大きさに言及されて意外感があったものもありましたから、それならこっちはどれくらいの大きさだろうと思うときもありますので。
14.イチョウの謎を解く 一属一種の不思議な木 近田文弘 技術評論社生物ミステリーシリーズ
イチョウについて著者の知るところ、考えるところを述べた本。
イチョウの葉を挟んでいた本は長期間経っても紙魚の被害に遭わないとか、イチョウの木の成長と萌芽枝等の発達などは勉強になり、知的好奇心をくすぐるところはありました。
しかし、「イチョウの謎を解く」というタイトルにふさわしい書き方はされていなくて、読んでもイチョウに関してどんな謎がありそれがどう解かれたのか、納得感はありません。
それには、著者の文章の書き方のわかりにくさ、不明瞭さが大きく寄与しているように思えました。例えば、著者は他の学者がイチョウの受精時の雌花/胚珠の珠孔(先端の尖った部分)を上側に描いている(91ページ図)ことについて、花粉を受け入れる時期には珠孔が上を向いているが受精する頃には下を向いているとし、珠孔が下向きの図を示し(94ページ)、「この事は重要で、上下が逆の模試図では説明がつきません」と記載しています(95ページ)。ところが、著者はその次のページで「受精直後の胚」を示す図を珠孔を上側に描いて掲載しているのです(96ページa図)。その図の説明で「胚珠の珠孔を上にした縦割にした図」としているのであえて反対にしたと言いたいのかもしれませんが、他の学者には上向きに描くこと自体が誤りだと言わんばかりのことを言った直後に明確な説明/言い訳なくこうされると何なのだろうと思います。
全体の3分の1強を占める第2部は「イチョウの研究を巡る人間の関わりの歴史」(2ページ)というのですが、前半の幕末史部分はイチョウ研究との関係はまったく不明(ケンペルやシーボルトが描いたイチョウの絵が掲載されているだけ)で、明治に入った後の部分も植物学者の確執ばかりでイチョウ研究の話はほとんど出てきません。
全体として、初学者がイチョウ研究について学ぶという本ではなく、学者さんが学者的興味で他者の研究を紹介したり批判したり、学者業界について著者の見解を述べるという本だと思います。
生物ミステリーシリーズということで、シリーズタイトルとこの本のタイトルが付けられていますが、ミステリーとか謎としては、イチョウの精子を発見した平瀬作五郎の業績がなぜ近年まで注目されなかったのかという点(その謎解きは要するに学会の人間関係・確執・嫉妬の類いの業界裏話)について、冒頭と最後で精力的に書かれていることくらいという印象です。
13.順風満帆 波木銅 文藝春秋
故郷東海村の中学で教育実習中の学生秦野結海が同級生に溶け込まない生徒柴ひろむとの対話を目指して試行錯誤する表題作、ラッキーなデビューを飾ったがその後行き詰まっている大学在学中のプロボクサー戸川が恋人との安穏とした日々を過ごしつつボクシングを続ける意味を自問する「ラッキーパンチ・ドランカー」、バイト先で浮いているフリーターの辻がお悩みごと相談ブログを始める「結局のところ、わたしたちはみな」、大学で着ぐるみ制作サークルに所属していたもずくこと平野が先輩の死を期に当時気になっていたキップこと権藤と再会する「フェイクファー」、いじめに遭っている中学生石神かいりが掃除機でいじめっ子を蹴散らす美容師に出会う「楽園ベイベー」の5編からなる短編集。
掲載されている5作品には、統一したテーマも関連も、私には見いだせませんでした。「小説新潮」と「オール讀物」に2022年6月号から2023年6月号に掲載された4編に、出版社が「万事快調」のスピンオフ作品と紹介する表題作の書き下ろしを加えて、それとセットで2025年12月に出版していることからして、「万事快調」が映画化されて2026年1月16日公開されるので「万事快調」に絡めて一儲けもくろんだということでしょう。こざかしいというかあざといというか、実に面白くない。
私も、「万事快調」の映画を見たので、出版社の「万事快調」の書き下ろしスピンオフ短編という宣伝(こちら)を見て、読んだのですが、主人公も主要人物も「万事快調」の登場人物ではなく、「万事快調」の主人公の1人ニューバランサーこと朴秀美がフリーラップサークルのサイファーでラップバトルの1人として出ている以外は「万事快調」と何らの関連性もなく、ニューバランサーを高校生とだけ紹介しているためこれが「万事快調」の事件の前なのか後なのかさえわからないという代物です。これをスピンオフと呼ぶ?「万事快調」のスピンオフというキャッチで手に取る読者は、「万事快調」の事件後朴や矢口や岩隈がどうなったかとか、そうでなくても「万事快調」の登場人物のエピソードとかを期待すると思うんです。そういう期待は、完全に裏切っています。
「万事快調」は2026年1月の読書日記11.の記事で紹介しています。
12.検事の本音 村上康聡 幻冬舎新書
検事歴23年、その後18年間弁護士の著者が、検察官時代の経験と思いを語った本。
著者の検察官としての自負・誇り・矜持が強く表れ、熱意に満ちた本だと思います。
検察官本としての特色は、著者自身決済官の経験もあるのですが、そちらの話はあまりなく、検察幹部から見た検察官論・組織論ではなく、一検事としての視線・立場で語られていること(その結果、上司との軋轢や不満とかも書かれている)、外事係での経験から米軍関係の刑事事件の経験のエピソードが比較的多いことなどにあります。
時系列に沿った構成ではなく、論文的な構成でもないので、それぞれのエピソードをこぼれ話的な興味で読むのがいいかと思います。業界人でもへ~っと思うエピソードが割とありますので、業界外の人にはさらに楽しめるでしょう。
もっとも、被疑者調書作成(取調べ)を重視する日本の捜査と裁判を「冤罪を防ぐための世界に誇れるきめ細かな司法制度である。」(264~266ページ)とか言われると、弁護士の目からは検察の組織的な視点・思惑に感じられてしまうのですが。
11.できる人は25分で「場所」を変える 高原美由紀 青春出版社
人の気持ちや行動に対する環境の影響について論じ、環境を設定しコントロールすることで相手の反応をコントロールし、他人や自分の業務効率の向上を図る方策を提案する本。
人の感じ方や心理がその場所の環境によって左右されることは理解できますが、それを利用して相手の反応と行動をコントロールしようという前半は、1つには資金力等の問題から富裕な人や企業向けであるという面があり、またそういったことによって人をコントロールしようという姿勢自体に必ずしも共感できないものを、私は感じます。
自分の作業効率の向上については、環境やその変化・切り替えが有効な場面があると思うのですが、それは特定の作業はこうというように決まっているものではなくて、そのときの心身の状態も含め、今この作業ではこういう方がいいということがあると思っています。たぶん、他人がこうだろうと設定した環境でそのとおりになる場合よりも、その作業環境を自分で変えられるかどうか、言ってみればその場所は自分のホームなのかゲストなのかアウェイなのかの方が効いてくるんじゃないかと思います(最後の方で198ページでそういうことも書かれていますが)。
作業を25分で切って場所を変えた方が効率的かは、人にもよるし作業の内容にもよると思います。私は裁判所に提出する書面の作成とかは25分で切っていてはかえって効率が悪くなると思います。
ということで、自分の効率向上に関しては、書かれていることが参考になる部分はあるものの自分のそのときの状況等に合わせてチューニングすべきもので言われるとおりにやればいいとは思いにくく、他人の行動への影響に関しては、これも頭には置くけどそれでコントロールしようとかできると考えるのもどうかなぁと思いました。
著者がさまざまな本を読んで勉強して、一般社団法人空間デザイン心理学協会という団体を立ち上げ、民間資格「空間デザイン心理士」の認定(資格付与)をするに至ったというのは敬服しますが、「空間デザイン心理学」も「空間デザイン心理士」も商標登録しているというのは、私には興がそがれました。
10.転職・退職を考えたら知りたいことが全部のってる本 佐野創太監修 主婦の友社
転職・退職を考えているが迷っている人が何を検討すべきか、転職のためのツールや転職に至るルート、就活のテクニック、退職の手続等について解説した本。
退職手続とか就活に関しては類書あまたなので、最初の転職を検討する際の考慮事項とかが細分化してわりと冷静めにかかれているのが読みどころかなと思いました。転職エージェントを利用するなら、まず担当者を本気にさせよう(76~77ページ)とか、担当者を指名する(78ページ)とかの記載も目を惹きました。ハローワークには質の悪い会社の求人がまぎれ込みやすい(82ページ)と書かれています。民間の転職サイトはそうじゃないということなんでしょうかね。
退職金課税の説明で、課税対象の退職所得が、「(退職金-控除額)×1/2」と説明されている(179ページ:控除額は勤続20年までは勤続1年につき40万円、勤続20年超は1年につき70万円、ただし勤続2年未満は一律80万円)のですが、2021年1月1日以降は勤続5年以下の場合は2分の1を掛けるのは300万円までに制限されています。この本は自分で円満に退職することを想定しているから、勤続5年以下で1年あたり40万円の控除をしてもなお300万円を超えるような退職金はあり得ないと考えて省略しているのかもしれませんが。
09.失業の心理学 失業から再就職への橋渡し 榧野潤、西垣英恵 労働政策研究・研修機構研究双書
独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の研究員と元事務補佐員が失業者に関する心理学研究を整理解説した上で、主として失業者の求職活動における心理と再就職に向けて失業者自身の望ましいあり方や支援者の活動、再就職支援研修プログラムなどについて論じた本。
私自身は、自分の依頼者の相当数を占める解雇・雇止めされた労働者の状況について理解を深められればという動機で読みましたが、解雇された労働者の絶望感・無力感についてわずかに触れられているにとどまり、基本的にはそこを乗り越えて求職活動をするに至った労働者を前提に、そこから先再就職までどうやって行くか、支援者はそれをどう支えるかが著者らの問題関心で、私の希望にはフィットしませんでした。ハローワーク職員の研修を担当している著者が書いた本ですから、当たり前ですけど。
書かれていることのほとんどが、欧米の研究者の研究で、心理学者による理論モデル、心理学上の概念、学説の紹介が続き、後半に求職活動支援プログラムについての説明になりますが、プログラムの効果の実証の説明もほとんどが欧米の研究者によるもので、著者が参加した実証研究は、著者が所属する労働政策研究・研修機構が開発した「へこたれない研修」についての比較群を合わせて3群100名程度の1度だけのものにとどまっています。
学問用語を駆使していろいろと難しく書かれ、読み進むのに苦労したのですが、結局のところ、求職者に対しては、求職活動自体を自分が成長できる機会とポジティブに捉え、不採用通知を受けても落胆せず自分を企業の採用担当者の望むところないしはそれを超えるように調整(改善)していくことで再就職を実現するように勧めるものと、私には読め、間違っても企業を恨んだりせずに企業に好かれる労働者になりましょうと、企業・行政の要求を押しつけているように見えます。
08.ほどなく、お別れです 思い出の箱 長月天音 小学館文庫
スカイツリーそばの葬儀業者坂東会館に勤務し、坂東会館から訳ありの葬儀を中心に請け負っている葬祭ディレクター漆原礼二の指導を受け、自分も早く一人で葬儀を仕切れるようになりたいと願う清水美空の心情等を描いた小説。シリーズ第3巻。
美空が坂東会館に勤めて2年目の秋から3年目の春まで、第2巻の終わりで初めて司会をし、葬儀により主体的に関わろうとする様子と試行錯誤を描いています。
第3巻にしてようやく漆原の名前が初登場(のはずです。私が読み落としていなければ)しますが、第3巻ではそれより新たな展開として、坂東会館に新たに葬儀の専門学校で学んだ後大手葬祭業者「こばとセレモニー」で10年以上経験を積んだ社長の甥ロッテこと小暮千波がやってきて、経営効率重視の姿勢を示して社内で軋轢を生じるところを展開の軸にしています。
そりが合わない同僚・上司とどう折り合いを付けていくかという点で、お仕事小説の色彩がさらに強まり、第2巻では美空の内心にとどまっていた漆原への思いが、周囲からも言われ、美空から漆原への言葉にも表れてきて、恋愛小説の色彩も明確になってきます。
美空が「気」を感じる場面も残されてはいますが、第2巻以上に心霊的な色彩を薄め、お仕事小説(ただし、遺族の心情に寄り添い故人をどう偲ぶかがその仕事のポイントであることからさまざまな死と家族関係を思うというテーマは維持されています)と恋愛小説として展開するという志向が進められ、私にはより読みやすくなっているように思えます。
※2026年2月6日公開の映画の原作との違いについては、第1巻についての一昨日(2026年2月8日)の記事で書いています。
映画では第3巻第4話の長野桂子のエピソードも3つめの葬儀として用いられていますが、母の友人と職場の同僚に来てもらいたい、お金はかけられない(母が僕たちのために必死に働いて残してくれたお金ですから)という原作での喪主の希望とはまるで違っていました。いかにも映画だからなぁというつくりで、まぁ映像の印象としては映画である前提ではいいんですが。
07.ほどなく、お別れです それぞれの灯火 長月天音 小学館文庫
スカイツリーそばの葬儀業者坂東会館に勤務して1年前後の清水美空が、坂東会館から独立しつつ、訳ありの葬儀を中心に請け負っている葬祭ディレクター漆原の指導を受け、葬儀に関わり、遺族の心情に寄り添う道を模索する小説。シリーズ第2巻。
第1巻では美空自身が死者の霊を直接に見る場面もありましたが、第2巻では気を感じるにとどめ、霊の意向や気持ちなどは美空よりもはっきり霊とコミュニケーションできるという里見に任せ、里見も第1巻ほど明確には霊とのやりとりを話さなくなり、心霊ものの色彩を薄めてきた印象を持ちました。
その分、霊を感じられないのに遺族の心情に寄り添った葬儀を提案・実施できる漆原に対する尊敬の念が強まり、一人前になりたい美空のお仕事小説的な色彩が強まっています。同時に漆原に対し嫌みを言い意地を張り続ける美空が、近隣の駒形橋病院の看護師坂口有紀に嫉妬したり、漆原の言動や2人の機会にときめいたり一緒に何かを見たいと思う思慕の情を内心ではあらわにするようになり、恋愛小説の趣も強まっています。
心霊を見たり感じるから、ではなく人間として遺族と向き合ってその気持ちを受け止めて行くという方が小説としてむしろ感銘が深まると思います。おそらく作者もそういう志向で第1巻から少し方向性を変えたのではないでしょうか。
※2026年2月6日公開の映画の原作との違いについては、第1巻の記事(↓)で書いています。
06.ほどなく、お別れです 長月天音 小学館文庫
父親の友人が経営するスカイツリーそばの葬儀業者坂東会館で会場準備・配膳等を行うホールスタッフとしてアルバイトしていた大学4年生の清水美空が、就活で振られ続けた結果、そのまま坂東会館に就職することになり、現在は独立した上で坂東会館に来る訳ありの葬儀を集中的に請け負っている葬祭ディレクター漆原に付いて指導を受けることになるという設定の小説。
美空には美空が生まれる前日に死亡した美鳥という姉がいてその霊が美空と祖母についているために美空が霊を感じやすいという設定の上、漆原の大学時代からの友人の僧侶里見道生が美空よりもはっきりと霊を見て話もできるとされていて、霊を見ることができない漆原が里見と美空を使って死者の様子を知り喪主・遺族を満足させる葬儀を執り行うというパターンになっています。
基本的に死者と家族等のさまざまな関係と複雑な思いの中で、死者本人と遺族の悲しみをどう受け止めていくかを読み、感じる作品だと思います。
美空と里見に霊が見える/感じられるという設定が心霊ものの印象を与えてキワモノっぽく感じられますが、美空は気を感じる程度にとどまり、より明確に霊とコミュニケーションできる里見がユーモラスなキャラであることで、そこが抑制されています。
クールで隙を見せない漆原に対して、意地を張る美空(視点人物が美空なのですが、他の人物は全員さん付けなのに漆原だけ地の文では呼び捨てなのが、むしろいじらしい)が思いを寄せているのが見え、恋愛小説の趣も予定されて、先行きの展開が楽しみではあります。
※2026年2月6日公開の映画を見る予習として読みましたので、映画についても触れておきます:ネタバレです。
映画は、この第1巻の第1話(柳沢玲子)、第2話(比奈)、第3巻の第4話(長野桂子)、第1巻のエピローグ(美空の祖母)を用い、里見を登場させず、美空がはっきりと故人の霊を見て話すことができるというパターンを貫き(原作では第3巻の第4話では霊視は出てこないのですが)、原作の美空の比較的弱い霊視でそれができたりできなかったりするという中途半端さを排除してわかりやすく一貫させています。
それ以外の点では、全体を通じては美空が坂東会館に勤務するに至る経緯が漆原がスカウトしたことになっている、漆原に妻がいたという設定になり恋愛系要素が排除されている、それに伴い漆原の妻の葬儀の場面が原作で言えば小暮のエピソードとすり替えたイメージで描かれている、個別には美空は柳沢玲子(の霊)からバッグは受け取らなかった(バッグの所在を伝言された)、比奈(映画では久保田という姓が付けられた)の前に美鳥の霊が出てこない、比奈のぬいぐるみが(犬のブルちゃんから)カンガルーのルーちゃんに変えられた、美空の姉美鳥の死亡日が美空が生まれた当日に変更された、美空の祖母(映画では花子と名付けられた)が元芸者と紹介された、美空の祖母の葬儀場面が描かれた、長野桂子が(原作では膵臓がん、映画では死因説明なし。死を予期していたという推測は示されたが)なぜか顔にあざがあり漆原が化粧で隠す、長野桂子の霊が登場する、長野桂子の葬儀の形態と場所が違うなどが異なっていました。
05.水は動かず芹の中 中島京子 新潮社
スランプに陥り書けなくなった小説家が、かつて焼き物を題材にした小説を書こうとして出かけたことがある地を再訪することで何か奇跡が起こって書けるかもしれないと唐津を訪れ、駅構内の観光案内所で陶芸体験ができる窯を紹介してもらい山奥を訪ねたが話が通っておらず、ひっそりと暮らす陶芸家夫婦に話を聞くうちに、祖先から口伝されたという秀吉の朝鮮出兵の頃に生きた河童たちの伝承「水神夜話」を聞かされるという小説。
書けなくなった小説家が閉塞状況を打破する期待で山深い里を訪ねそこに住む老人から話を聞くという現在の設定は、私には驚いたことにキネマ旬報2025年日本映画第1位に選ばれた地味な映画「旅と日々」を思わせます(この小説の方が先だと思いますが)。
実質は、そういう導入と体裁を借り、かつ河童の目から見たという設定で批判的・風刺的でコミカルな語りにしつつ、史実を忠実になぞらなくてよいという逃げ場を残した歴史小説かと思います。歴史小説はあまり読まないので、その辺の考証や評価はできないんですが。
04.最新テーマ別実践労働法実務11 外国人労働者の法律実務 指宿昭一、中村優介、大坂恭子、髙井信也、加藤桂子 旬報社
労働者が外国人である労働事件の戦い方、注意点などを解説した本。
はしがきで「『外国人労働者』と括ってしまうと、なんだか、『外国人労働者』特有の労働問題があるかのように見えてしまう。たしかに、一部の論点については特有の議論があったり、複雑怪奇な『在留資格』制度との関係という、頭を悩ませるところもあるにはあるが、労働事件という側面で見れば、法的に対応すべきことは、基本的には何ら変わらない」と書かれています(7ページ)。著者が言いたいことはわかるのですが、では、と弁護士として読み進めると、外国語/通訳問題と入管法問題で、国内弁護士としてはクラクラしてしまいます。永住権者やその親族の在留資格の場合は別として、通常の外国人労働者はまさにその在留資格が就労可能な職種・業務と直結しているので、使用者から命じられる業務の可否、解雇された場合の転職や生活費確保のための就労でさえ、在留資格外の活動である場合、在留資格の取消や収容(身柄拘束)・国外退去強制や逮捕にさえつながりかねないという問題に直面してしまいます。その構造自体が、とりわけ技能実習生の場合など、労働関係・労働事件全般に労働者側に決定的に不利に働き、使用者側の横暴を許す結果につながります。いや、日本人労働者の場合と、戦い方とか条件が全然違うでしょう。
私の目から一番衝撃的だったのが、鉄筋施工・型枠施工の技能習得のための技能実習生に福島原発事故の除染作業をさせていたという会社に対する損害賠償請求事件で、本文では裁判所の和解勧告があり和解が成立したとさらりと書いている(247ページ)のですが、巻末付録の和解調書(351~355ページ)を見ると、裁判所が総額275万円の和解勧告をしたのに会社側が100万円を主張し結局171万円で和解が成立しています。労働事件で裁判所から金銭解決の和解案が出たら(復職の和解案の場合なら拒否する会社が多いですが)ふつう会社側はそのまま飲むでしょ。それに抵抗する会社にも私の感覚では驚きがありますが、外国人労働者の事件で著名な手練れの弁護士がついていて裁判所の勧告額の62%で飲むって…損害賠償請求の事件ですから、和解決裂で判決なら基本その内容の判決が予想されるのに。そういう和解に至ったのは、判決を待てないなど何らかの事情・条件があったはずで、法的な戦いの場面でも、外国人労働者の置かれている立場は厳しいんだなと、改めて感じました。
入管法の規定の解釈、関連するガイドラインとか、運用とか、各所で書かれているのを読んでも、知らないことが多く、また驚く場面が多く、う~ん、やっぱり手を出さない方が無難だなと思ってしまいましたし。
03.「痛み」とは何か 牛田享宏 ハヤカワ新書
日本で初めて創設されたという診療科横断的に痛みに対応する「集学的痛みセンター」の医師である著者が痛みの機序・原因について解説し、対処法を論じた本。
冷たくて触っても痛くない18℃くらいのバーと暖かくて触っても痛くない40℃くらいのバーを同時に触ると焼けるような痛みを感じる(73~74ページ)という不思議な話、痛みに関する恐怖・不安が痛みへの過敏化につながり痛みで動かないと動けなくなる上に関節などの萎縮などを引き起こすという悪循環の話(98~108ページなど)、背中が曲がっている高齢者はほとんどの場合脊椎圧迫骨折になっているがそのような人の7割は痛みを訴えない(143~144ページ)、成人の半数以上が椎間板ヘルニアを持っているが椎間板ヘルニアが原因の腰痛を訴える人は3%程度(151ページ)など、いろいろ勉強になりました。
もっとも、他覚的所見のない痛みを訴える「患者さんに『心の問題』、『あなたの気のせい』などと言ったりしてしまえば、患者さんは傷つき、医師と患者の信頼関係も破綻してしまうことになります」(44ページ)という著者が、「本邦のむち打ち症について考えてみると、保険との間には切っても切れない関係があります」(87ページ)などというのはいかがなものかと思います。患者に寄り添うよりも保険会社に寄り添うんですね。
02.大切な人がパーキンソン病になったときに最初に読む本 作田学監修 日東書院本社
パーキンソン病についての知識、診断、治療、症状と日常生活での対応、リハビリ体操、支援・援助制度等について解説した本。
パーキンソン病は脳の一部で神経伝達物質の異常が生じ、その結果手先の震えや筋肉のこわばり、歩行障害などの運動症状を引き起こす病気ですが、寿命が短くなるものではなく、アルコールも含め食事制限等もなく、転倒等には気をつける必要があるけれど、引きこもるのではなく、体を動かし、大きな声を出してコミュニケーションを保つことが大事なのだそうです。コミュニケーションを取ることで気分が晴れやかになるとともに口を動かす/しゃべることがリハビリにもなるということです。過剰に手助けをしたり行動範囲を狭めるのではなく、自分でできたという達成感が大切だとも。
家族として、気持ちに余裕を持ち、相手のペースに合わせて対応することが肝要ということですね。
診断基準や薬の関係とリハビリ体操は、実際に家族がそうなったとき用で、それ以前の読み物としてはそれ以外の病気についての知識(理解)の部分が頭と気持ちに入りました。
01.審美 西尾潤 小学館
長崎原爆で被爆し、戦後生き残った妹サタヨとともに東京に出るが、祖母から渡された財産を持ち逃げされ身ぐるみ剥がれたところを男娼に助けられそこそこ生活できるようになったところで、幼いサタヨが行方不明になり、探し求めるうちに行き着いた民間養護施設から銀座の美容室経営者に請われて養子となった瀬川菊男改め輝山菊男が、化粧品業界で活躍するという栄枯盛衰を描いた小説。
辛い事件で家族を失い養子となって精進して人生を切り拓き成功する(国に表彰される)という主人公の設定、その経緯が十分わからないままに思い人を身近な者に奪われること、長らく分かたれていた近親者と後々に再会すること、それらを含めた話の拡がり、タイムスパンの長さ、それに応じて話が途切れ平気で数年・十年飛んだりすること、説明されたようでどこか理由とかに得心がいかないままに残されるものを感じることなど、読んでいる途中から「国宝」(吉田修一)っぽい作品だなぁという印象を持ちました。主人公の名前きくお(菊男:喜久雄)だし。
「国宝」のぶつ切りっぽさは、新聞に長期連載された作品で書き続けるうちに予定が変わった/気が変わった、前に書いたことは隅々まで覚えていないなどの事情によるのかなと思っていました(実際どうかはわかりません)が、この作品はふつう程度の長さですし、書き下ろしだそうです。最後に書き下ろしだと書かれているのを見て、最初からそういう構想だったのってちょっと驚きました。
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