◆短くわかる民事裁判◆
全部勝訴者の上告
上告、上告受理申立ても含めた上訴は、原裁判に不服がある当事者が上級裁判所に原裁判の取消・破棄、変更を求めることを認める制度であることから、その当事者が原裁判が確定することで一定の法的な不利益を受けるということが、上訴の要件であると解されています。これについては、特段の法律の定めはありませんが、制度の趣旨からそのように解されているのです。裁判業界では,この問題を「上訴の利益(じょうそのりえき)」、あるいは「不服の利益(ふふくのりえき)」があるかという形で議論しています。全部勝訴者には、原則として上訴の利益がない、とかいいます。
最高裁1956年4月3日第三小法廷判決は、一部勝訴の事案ですが、上告理由が勝訴した部分の理由について攻撃するばかりで敗訴部分に対する不服でないことが明らかとして、上告の前提たる利益を欠くとしています。さらに最高裁1957年11月1日第二小法廷判決は、この最高裁1956年4月3日第三小法廷判決を引用して「 上告人B1は、原審において全部勝訴の判決をえたものであるから、同人は上告をなす利益を有しないというべきである(昭和二九年(オ)第四三一号、昭和三一年四月三日第三小法廷判決参照)。」と判示し、控訴審での全部勝訴者には上告の利益がないとしています。
最高裁1957年11月1日第二小法廷判決(上の判決とは別の判決です。紛らわしいですが)は、「上告人A1に対しては一審において全部勝訴の判決があり、同上告人は該判決によりなんら不利益を受けていないことが明らかであるから控訴の利益を有せず、原審はその控訴を不適法として却下すべきであつたのであり、同人の控訴にもとずきこれを理由なきものとして棄却した原判決は違法を免れない。しかし同上告人は控訴棄却の原判決によりなんら不利益を受けるものではないから上告の利益を有しないことに帰し、同人の本件上告はこれを不適法として却下すべきものである。」と判示し、第1審で全部勝訴した控訴人の控訴は控訴の利益がなく却下すべきであり、控訴審が間違えて控訴を(却下でなく)棄却した場合(形式的には敗訴判決であるが)全部勝訴の第1審判決が維持されているのであるから上告の利益がないとして上告を却下しています。
控訴の場合は、相手方が控訴した場合には、第1審の全部勝訴者が附帯控訴して請求を拡張することが認められています(「全部勝訴者の附帯控訴・請求拡張」で説明しています)が、上告審では、法律審であることを理由として、控訴審の全部勝訴者が附帯控訴して請求を拡張することは認められていません(最高裁1979年11月16日第二小法廷判決:第1審で一部請求を棄却された者が、その一部敗訴部分について控訴も附帯控訴もしなかったために控訴審は形式上全部勝訴である以上、第1審で請求棄却された部分について認容を求める場合でも、許されないとされています)。
上告については「まだ最高裁がある?(民事編)」でも説明しています。
モバイル新館の「最高裁への上告(民事裁判)」、
「高裁への上告(民事裁判)」でも説明しています。
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